コヒレント特設ページはこちら

国内リポート 詳細

期待が集まるGX:グリーントランスフォーメーションの進展
第70回応用物理学会春季学術講演会でシンポジウム開催

April, 3, 2023, 東京-- 3月15 日(水)から18日(土)の4日間、上智大学・四谷キャンパスとオンラインで、第70回応用物理学会春季学術講演会が開催された。
 数多くの研究発表や招待講演、シンポジウム、チュートリアルなどが行われる中、初日には同学会と日本学術会議・未来社会と応用物理分科会の主催によって「GX:グリーントランスフォーメーションに挑む応用物理 ~持続可能な未来社会に向けて~」と題するシンポジウムが、会場・オンラインのハイブリッド形式で開催された。
 講演では、我々が目指すべき未来社会の姿や半導体製造、超伝導、太陽光発電、蓄電池などの技術がGX実現に如何に貢献できるか、最新の情報が紹介された。プログラム(招待講演、パネルディスカッション)を以下に紹介する。

【招待講演】
◆実現すべき豊かな未来 -GX、自律分散社会、そしてWell-being-〈基調講演〉:伊藤智氏(NEDO)
◆半導体製造グリーン化に向けた学術的課題 -大量電力消費型産業からの脱却へ-:堀勝氏(名古屋大)
◆革新的GXに貢献する超伝導技術 -現状と未来-:筑本知子氏(中部大)
◆主力電源としての太陽光発電技術 -カーボンニュートラル社会の実現に向けてどのような太陽電池が必要となるか?-:小長井誠氏(東京都市大)
◆カーボンニュートラル実現に貢献する蓄電池技術〈基調講演〉:小林弘典氏(産総研)
◇パネルディスカッション〈GXの推進には、今、応用物理分野に何が必要か? 産官学・学会の役割、人材育成など〉:下山淳一氏(青山学院大、モデレーター)、上記招待講演者+秋永広幸氏(産総研)

分散、リサイクル・リユース、そして低コスト化
 リモート化と自律化が融合するスマートテレオートノミーが目指す社会は、地域が活性化した分散型社会だと指摘する伊藤氏は、DXを進めた先にGXがあり、デジタル化からステップを踏んで推進することが肝要だと述べた。
 DXおよびGXに向けては、データの収集(センシング)と解析(コンピューティング)が必須となるが、一方でIT/デジタル自身の電力消費量は急速に増える。そのためエッジコンピューティングによる分散型へのシフトが重要であり、社会、エネルギー、ITのいずれにおいても、センサとITの技術開発は不可欠だと指摘した。

 太陽光発電(PV)について講演した小長井氏は、2030年になると電源別発電コストにおいて太陽光発電が最も安くなるとの調査結果を紹介した。
 また、各種太陽電池の中で現状最も安価なのはシリコン太陽電池であり、学会等で注目を集めているペロブスカイト太陽電池は未だ研究開発途上だと指摘、その上で今後の研究開発で注力すべきは多接合(タンデム)化による超効率化(注目はプロブスカイト太陽電池をトップセルに用いたタンデム型太陽電池)であり、国土の狭い日本の場合には応用分野を意識した太陽電池開発も重要だとした。
 2030年、2050年に向けての新た展開としては、夜間に発電しないという弱点を持つ太陽電池の発電電力量の時間的変動は、スマート化によって解決すべきで、特にエネルギーの地産地消には安価なバッテリーの実現が重要で、このスマート化実現には応用物理、電気、情報系研究者の連携が求められるとした。
 小長井氏は、同じ設置面積でも変換効率が2倍になれば発電量は2倍になるとした上で、今後はリサイクルとリユースも重要になってくると述べるとともに、カーボンニュートラル社会実現に向けてのキーワードとして社会受容性、安全・安心、政策(特に政府等による企業への助成策の必要性)などを列挙、そのためにシステム応用研究、エネルギーマネージメント研究、太陽電池材料・デバイス・モジュール研究の推進を提唱した。

 蓄電池に関する講演を行った小林氏は、ポスト車載用LIB(リチウムイオン電池)の最有力候補は、体積エネルギー密度の大幅な向上が期待できることから全固体LIBだと指摘。克服すべき技術的課題は多いが、特に重要なのはコスト低減だと述べた。
 定置用の蓄電池ではNAS電池やRedox Flow電池の他、鉛電池の活用も期待されているが、車載用LIBはクルマで使用した後でも高い性能を残しているので、エネルギー貯蔵ソリューションとして様々な用途に有効活用できるという。問題は、埋蔵、生産、精錬のいずれにおいてもリチウムやコバルト、ニッケル等が特定国に偏在しているという点だ。
 そこでリユースとリサイクルが重要になる。リユースの進展においては、電池の長寿命化が鍵を握っており、リサイクルに関しては、現在提案されている様々なタイプの内、どれが有力なのかは不明ではあるが、いずれにしろリサイクル材料の確保やコストダウンは求められており、これらの課題は、特に我が国においてビジネスが成立するかどうかの重要なファクターだと指摘した。

 低コスト化を我が国でどのように行うのか。実現しなければならない課題だが、公正な貿易を律儀に守る国とそうでない国が存在する現実世界で、その具体的な方法を見出すには相当したたかな知恵が求められるだろう。

パネルディスカッションでの指摘と提言
 パネルディスカッションでは、GX実現に向け政策的、技術的、人材的、持続的観点からの課題や学術的にGXに関わる学会への役割・期待などが議論されたが、その中で(個人的に)印象に残った指摘と提言を以下に記してみる。

・CO2排出量削減効果を目標とするだけでなく、技術開発と社会実装にかかるコストも検討すべきだ。
・環境維持と経済発展の両立が求められている。
・課題の相関を学術的に明らかにし、誰もが我慢しなくても良い方法を見出す。
・GXの先に「今より豊かな社会がある」というイメージが共有されているのか?
・技術で勝っていても、なぜ中国に負けたのか?
・同盟国との連携。
・生産段階での支援の有無が鍵。
・研究支援の対象が特定の課題に集中しすぎている。
・研究者が「研究に集中できる環境」(細切れ支援から大型・継続的支援)が必要。
・大学教授が外に出て現場を知る(教授の教育)環境を政府が作るべきだ。
・一専門領域だけでは解けない問題が増えているので、学際領域、複合領域、融合領域の人材育成が必要。
・日本では、総合的な視野と高度な知識を持つ人材育成に対しての支援が脆弱。
・学会で自分の発表に関係したセッションしか出席しない学生が多い。若手研究者はいろいろなセッションを渡り歩き、もっと広い分野の講演を聴くべきだ。

 2050年にカーボンニュートラルを達成できても、すでに慣性力がついているので地球温暖化はその後100年は止まらないという。しかし、さらに先のことを考えた時、2030年、2050年までのアプローチこそが決定的に重要になる。閉会の挨拶で語られた言葉である。
(川尻 多加志)