コヒレント特設ページはこちら

国内リポート 詳細

さらなる進展が注目を集める表面プラズモン研究
ナノオプティクス研究グループ、第29回研究討論会を開催

February, 10, 2023, 東京-- 日本光学会・ナノオプティクス研究グループ(代表幹事:慶應義塾大・斎木敏治氏)は、1994年に設立された近接場光学研究グループを前身としており(2004年から名称を現在のグループ名に変更)、毎年、学生・若手をエンカレッジして行くための研究討論会を企画・運営してきた。1月30日(月)には、その29回目の研究討論会がオンライン形式で開催された。
 研究グループでは、「講師の方々と参加者が近い距離で親睦を深めることのできる身近な研究会を」という方針のもと、一泊二日で懇親会も行うという形での開催を実施してきたが、他の研究会などと同様、昨今ではコロナ禍の影響によりオンライン形式での開催を余儀なくされてきた。今回も対面形式は時期尚早とオンラインでの開催となったが、対面形式が持つメリットを少しでも確保しようと、同グループでは今回、オンライン会議アプリ「Zoom」のブレイクアウトルーム機能を使って各講演者の部屋を設け、聴講者は各自興味のある部屋に集まってフリーディスカッションするという試みを行った。
 研究討論会では、表面プラズモンやメタマテリアルの研究を中心に、チュートリアル講演1本、招待講演2本、博士課程学生招待講演2本、一般公演6本の報告が行われた。以下にその講演タイトルと講演者を記す。

◆開会の挨拶:酒井優氏(庶務幹事、山梨大)
◆チュートリアル講演「表面プラズモン波のスピン、トポロジー、構造化」久保敦氏(筑波大)
◆一般講演「深紫外光を用いたプラズモン励起による生細胞の自家蛍光の観察」小林圭太氏(静岡大)
◆一般講演「六方晶/立方晶GaNマイクロディスクにおけるWGM発振」岩本優歌氏(山梨大)
◇フリーディスカッション

◆招待講演「金属ナノ構造との接触を必要としないプラズモニック光増強分光法 ~100nmを超える長距離分子・プラズモンリモートカップリングの可能性~」南川丈夫氏(徳島大)
◆博士課程学生招待講演「金属ナノ粒子単層集積膜の局在表面プラズモン共鳴による透過光カラーチューニング」水野文菜氏(静岡大)
◇フリーディスカッション

◆招待講演「脳機能解明に向けた生体光照射のためのLEDデバイスの開発」関口寛人氏(豊橋技術科学大)
◆一般講演「NHoM構造による紫外波長域の局在表面プラズモン共鳴の制御とZnO薄膜の発光増強」時盛将吾氏(大阪公立大)
◆一般講演「偏光分離機能を有するAlvarezメタレンズの開発」羽田充利氏(東京農工大)
◇フリーディスカッション

◆博士課程学生招待講演「プラズモニックナノ構造における円偏光第二高調波発生と非線形キラリティの発現」木村友哉氏(東京大)
◆一般講演「メタマテリアルを用いた広帯域な光学クローキングの設計」百瀬智也氏(東京工業大)
◆一般講演「近赤外レーザ計測のための多点集光メタレンズの開発」藤田真由氏(東京農工大)
◇フリーディスカッション
◆閉会の挨拶:斎木敏治氏(代表幹事、慶應義塾大)

進展する表面プラズモン研究
 表面プラズモンとは、金属表面に局在する自由電子の集団的振動に基づいた疎密波のこと。金属表面に光を入射する時に、表面プラズモンとこの入射光が共鳴すると、入射光のエネルギーが金属表面へと移動する現象が起こる。これが表面プラズモン共鳴で、表面への分子吸着や脱着の挙動をリアルタイムで追跡でき、バイオセンサへ用いられている他、様々なデバイス応用が期待されている。

 「表面プラズモン波のスピン、トポロジー、構造化」と題し、チュートリアル講演を行った筑波大の久保敦氏は、固体物理、電磁気学、光学、化学・工学、物理光学などの各領域から見た表面プラズモンの定義を述べた後、ビーム断面積内に偏光や振幅の内部構造を有する光はストラクチャード・ライトとも呼ばれ、その局所偏光状態はストークスパラメーターで表すことができ、ポアンカレ球上の点と対応すると指摘。最近の研究として、ポアンカレビーム射出やスキルミオンビームの生成に成功した事例の他、磁性体の磁気スキルミオンについても紹介した。
 ストラクチャード・ライトのエネルギー、運動量、角運動量の解説では、横スピン角運動量(t-SAM)に加え、エバネッセント波/表面プラズモンのt-SAMについても述べ、プラズモニック・トポロジカルスピン準粒子の時間・空間分解能、局所偏光、SAMテクスチャ、トポロジカルチャージについても解説した。
 続いてのSpace-time wave packet/ Space-time SPP(ST-SPP:SPP=表面プラズモンポラリトン)では、ストライプ型ST-SPPの生成と時間分解2光子蛍光顕微法による可視化、横スピン角運動量、トポロジカルチャージ密度について説明、講演の最後にはSPPのt-SAMによる逆ファラデー効果によって金属側に磁化が生じることや、金属薄膜をプリズムの反射面に直接蒸着するクレッチマン配置によって金属膜中にスピン流が誘起される現象を紹介した。

 この他、「金属ナノ構造との接触を必要としないプラズモニック光増強分光法 ~100nmを超える長距離分子・プラズモンリモートカップリングの可能性~」と題する招待講演を行った徳島大の南川丈夫氏は、研究チームが開発したリモートプラズモニック光増強分光法(RPERS:Remote Plasmonic Enhanced Raman Spectroscopy)を紹介。これは、実用性という点でセンシング応用において制限のあった表面増強ラマン散乱分光法の課題を根本的に解決する手法であり、シリカ保護膜による銀ナノ構造の腐食抑制に加え、測定分子の非侵襲性と高感度性を両立でき、化学、生物学、医学など、様々な分野への応用が期待されるものだ。

 もう1本の招待講演「脳機能解明に向けた生体光照射のためのLEDデバイスの開発」を行った豊橋技術科学大の関口寛人氏は、研究チームの開発した、脳の階層方向に対し選択的に光を照射でき、かつ脳組織の深部にスムーズに埋め込むことができる針型マイクロLEDプローブと、脳の広範囲の特定部位に選択的に光刺激ができる、脳に密着可能なフレキシブルLEDデバイスを紹介。これにより、自由に動き回る動物の脳計測が可能になった。SiセンサやSi駆動回路とLEDを融合するGaN系デバイス/Siデバイスのモノリシック集積化技術についても報告を行った。

30回目を迎える研究討論会
 ナノオプティクス研究グループの研究討論会は、次回で30回目を迎える。代表幹事の斎木氏は、記念すべき30回は、普段とは違った趣向で、かつ次こそは対面形式を復活させて、懇親会とセットで開催したいと抱負を述べていた。
(川尻 多加志)