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Society5.0の実現を目指して
SIP「光・量子を活用したSociety5.0実現化技術」国際シンポジウム2022開催

November, 4, 2022, 東京-- 
戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)
 日本経済の再生と持続的経済成長の実現には科学技術イノベーションが不可欠。内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)は、この認識のもと設置された総合科学技術・イノベーション会議が、府・省や旧来分野の枠を超え、科学技術イノベーションを実現するために創設したものだ。
 平成26年度から平成30年度までの5年間は、第1期として11課題(「重要インフラ等におけるサイバーセキュリティの確保」のみ平成27年度から令和元年まで)に取り組み、平成30年度からは第2期として12の課題が採用された。その1つとして研究開発が進められているのが「光・量子を活用したSociety5.0実現化技術」だ。
 SIPの最大の特長は、各課題を強力にリードするプログラムディレクター(PD)を中心に産学官連携を図るとともに、基礎研究から実用化・事業化、すなわち出口までを見据えて一気通貫で研究開発を推進するという点にある。

光・量子を活用したSociety5.0実現化技術(SIP)
 「光・量子を活用したSociety5.0実現化技術」のPDを務めるのが西田直人氏(東芝特別嘱託)だ。研究計画の策定などのマネジメントを担当する。管理法人としては、量子科学技術研究開発機構(QST)が研究開発の進捗管理を行う。
 Society5.0実現の鍵を握るのが、サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させるサイバーフィジカルシステム(CPS)の構築。現状IoT/AIからスマート製造へと投資は進められているものの、そこには社会・産業界の投資を阻むボトルネックが存在する。
 そこで、我が国が強みを持つ光・量子技術を活用し、そのボトルネックを解消する加工、情報処理、通信の重要技術を厳選・開発、「レーザ加工市場シェア奪還のための日本発コア技術等の製品化」、「ものづくり設計・生産工程の最適化」、「高秘匿クラウドサービスの開始」を達成してSociety5.0実現を加速度的に進展させようと、本プログラムが立案された。

 プログラムは、「レーザ加工」、「光・量子通信」、「光電子情報処理」の三つの研究領域で構成されている。
 「レーザ加工」領域(サブPD・安井公治氏:三菱電機FAシステム事業本部産業メカトロニクス事業部主席技監)は、さらに三つの課題に分かれる。サイバー(シミュレータ)とフィジカル(レーザ加工)を高度に融合させてスマート製造を実現するための①CPS型レーザ加工機システムの研究開発(研究責任者・小林洋平氏:東大物性研究所教授)、②「空間光制御技術」に係わる研究開発(研究責任者・豊田晴義氏:浜松ホトニクス執行役員中央研究所長)、③フォトニック結晶レーザに係わる研究開発(研究責任者・野田進氏:京大大学院工学研究科教授)の3課題だ。
 「光・量子通信」領域(サブPD・佐々木雅英氏:情報通信研究機構(NICT)量子ICT協創センター研究センター長)では、量子暗号、秘密分散、電子署名、秘匿計算などの各技術の統合による量子セキュアクラウド技術を開発する。解読技術の進展によるセキュリティの危殆化の懸念がないクラウドサービスを世界に先駆け開発して、電子カルテやゲノム解析情報、スマート製造情報などを用いて実証する(研究責任者・藤原幹生氏:NICT未来ICT研究所小金井フロンティア研究センター量子ICT研究室室長)。
 「光電子情報処理」領域(サブPD・佐々木雅英氏、安井公治氏)では、スマート製造実現に必要なイジング型コンピュータ、NISQコンピュータ、誤り耐性ゲート型量子コンピュータなどの計算資源を高速かつ最適活用することを可能とする次世代アクセラレータ基盤の開発と実装を進める(研究責任者・戸川望氏:早大理工学術院教授)。
 この他、プログラムにはものづくりにおけるCPS応用の起点となる雛形システムを構築するための「社会実装加速プロジェクト」も加わる。プロジェクトは、「CPS化プラットフォーム」と「CPS化戦略の波及加速パイロット拠点の形成」(サブPD・ともに安井公治氏)で構成されている。

 10月12日(水)に開催された「光・量子を活用したSociety5.0実現化技術 国際シンポジウム2022」(内閣府、QST共催)では、波及加速パイロット拠点である九大を含めた各拠点の活動・成果報告に加え、ドイツ、オランダ、台湾の関係者が各国における研究開発状況を報告した。
 今回のシンポジウムは、SIP終了後もプログラムの成果を提供する拠点の活用を促進するためと、社会実装推進のためエコシステムに参加している産官学機関との連携強化、ならびに新規機関の参加募集を目的に開催されたもの。以下に、当日の講演一覧を記す。

◆開会挨拶:平野俊夫氏(QST理事長)
◆主催者挨拶:須藤亮氏(内閣府科学技術・イノベーション推進事務局政策参与SIPプログラム統括)
◆プログラム紹介:西田直人氏(PD)、佐々木雅英氏(サブPD)、安井公治氏(サブPD)
◆各拠点の提供サービス内容の紹介
「半導体産業のワンストップソリューション構築」池上浩氏(九大大学院システム情報科学研究院教授)
「フォトニック結晶レーザー(PCSEL)~フォトニック結晶技術で半導体レーザーに革新をもたらしSociety5.0の実現に貢献~」野田進氏(京大)
「魔法の鏡で革新的なレーザー加工を実現 ~空間光制御技術~」豊田晴義氏(浜松ホトニクス)
「量子暗号技術 ~量子暗号技術と量子セキュアクラウド技術に関する研究開発~」藤原幹生氏(NICT)
「量子計算技術でビジネスを最適化」戸川望氏(早大)
「スマート製造推進拠点」小林洋平氏(東大)
◆基調講演:光・量子エコシステムと海外連携
(ドイツ)
・Prof. Dr. Andreas Leson(Head of Department PVD and Nanotechnology Fraunhofer Institute for Material and Beam Technology IWS,Professor,Technical University of Dresden)
・Dr. Manuel Ligges(Head of Optical Systems Fraunhofer Institute for Microelectronic Circuits and Systems IMS)
(オランダ)
・Mr. Michiel Sweers(Deputy Director General for Enterprise and Innovation Ministry of Economic Affairs and Climate Policy)
・Mr. Ewit Roos(Chairman,PhotonDelta)
・Mr. Jesse Robbers(Director,Industry & Digital Infrastructure,Quantum Delta NL)
(台湾)
・Dr.Ma-Tien Yang(Representative of ITRI Japan Office)
・Dr.Pang-An Ting(General Director of Information and Communications Research Laboratories ITRI)
◆リアルタイムアンケートの結果発表と質疑応答
◆謝辞:西田直人氏(PD)

各拠点における最新状況
 九大では、研究から新規事業化への橋渡しを目標に、SIPプログラムの光・量子技術を用いた半導体産業のワンストップ・ソリューション・プラットフォームの構築を進めている。従来型コンピュータによるAI解析と量子コンピュータを融合させ先進CPSを実現、半導体関連企業の課題解決に向けて量子コンピュータの活用法を提供することで、製造工程の最適化や次世代CPSシステムの開発と半導体工場への導入を目指す。
 プロジェクトは、世界初の量子コンピュータ商用サービスの実績を持つグルーヴノーツに加え、表面処理・直接描画・画像処理のコア技術を有する半導体製造装置メーカ、SCREENホールディングスと連携して進めている。プラットフォームの一翼を担う「綺羅(KILA:Kyushu University Innovative Laser Application)コンソーシアム」には、2020年度で40社が入会済み、2027年に100社の入会を目指している。

 フォトニック結晶レーザ(PCSEL:Photonic-Crystal Surface-Emitting Laser)を開発した京大は、アウトリーチ活動の強化によって、拠点への引き合いを国内外76以上の企業・機関へ増加させるとともに、ドイツのフラウンホーファーやオランダのPhoton Delta等との連携も行っている。kW級単一モード動作の指針の確立(3mmΦデバイスにおける50W超のCW動作の実現に成功)や、量子計算による設計の最適化でパワー、拡がり角、偏光比の性能を向上させる設計手法を見出し、AI技術によるスマート化も深化させた。SIP終了後を見据え、さらなるPCSEL普及の拠点発展のためエコシステム形成もスタートしている。
 連携企業のロームは、高速・簡便なナノインプリントリソグラフィー法でPCSELを開発、電子ビーム露光に迫る性能を実証した。高温通電試験や温度サイクル試験により高信頼性実証にも成功している。三菱電機は、半導体工場内に新組織を発足させPCSELプロセス開発の専任者を配置、生産ラインの整備を加速した。10kW級モジュールへの展開を視野に、kW級加工機に向けた合波、冷却、電源技術の開発を進めている。

 大面積空間光制御デバイス(SLM)の実現を目指す浜松ホトニクスは、パルスレーザ用の最適設計によって耐光性を約10倍向上させることに成功。宇都宮大の早崎芳夫教授が開発したデジタルフィードバック制御技術を用い、従来比3倍の300並列ビームによって1000分の1mm単位の精度で、均一性95%の一括加工の実証に成功した。
 3次元加工のためのホログラム設計技術の確立と検証にも成功、光ビームの奥行き方向に異なる四つの面に同時加工を行い、デジタルフィードバックの有効性を確認した。国内システムインテグレータ企業であるレーザーシステムと連携して、加工モジュール開発も進めた他、応用展開のためフラウンホーファーとの連携も実施している。

 どんな計算機でも解読できない、現時点で唯一の暗号方式と言われているのが、量子鍵配送・量子暗号通信(QKD:Quantum Key Distribution)だ。NICTでは、電子カルテ、ゲノムデータ、生体認証参照データなどの秘密分散保管と、レーザ加工拠点の重要回線や金融データの秘匿化などを行う量子暗号・量子セキュアクラウドの社会実装を目指している。今後はTokyo QKD Networkを拡充してテストベッドの充実を計るとともに、量子アニーラを古典技術で模擬する半導体アニーラを導入、MAXCUT問題など最適化問題を安全なネットワーク環境で実施できるようにする。
 連携企業の東芝は、海外におけるQKDのPoC(概念実証)を紹介した。先進事例として、英国のBTと実施したロンドンにおける世界初の量子暗号通信の商用向けメトロネットワークのトライアルサービスや、韓国のKTとのソウル-釜山間約490kmにおける長距離ハイブリッド量子暗号通信ネットワーク実証などを取り上げ、ビジネス面における我が国の取り組みに奮起を促した。
 昨年発足した「量子技術による新産業創出協議会(Q-STAR)」では、5年後に主要先進国で人口の5~10%、日本では約1,000万人が量子技術を使用できる社会を目指す目標を掲げる。健全な量子暗号技術を社会実装するには、国内外におけるPoCでの実証エビデンスに基づくガイドラインや装置認証手順の策定で世界に先行する必要があり、そのためには経済安全保障に基づくシステム設計が求められる。

 早大では、産業競争力強化のため、イジング型コンピュータやNISQコンピュータ、誤り耐性量子コンピュータなどの次世代アクセラレータに古典アクセラレータを加え、それぞれを問題特性に応じ評価・最適配分して使い分けるコデザインに関する研究開発を実施している。これまでに、物流業界におけるDX推進、化学産業における社会実装、CPSスマート製造との連携、通信事業者の周波数利用効率向上、大規模位置情報解析業者の位置情報解析などを手掛けて来た。
 特に、物流倉庫の人員配置最適化問題では、充足率の平均の最大化と分散の最小化の最適化問題をコデザインライブラリで実行、理想的な人員配置を見出し、過去実績に対し30%の作業効率改善を示すことに成功した。住友商事とベルメゾンロジスコと連携して、物流現場の生産性向上と働き方改革を目指した スマート物流プロジェクトを推進している。
 スマート製造分野における問題解決では京大チームと連携、フォトニック結晶レーザ高輝度化の達成に貢献するとともに、AIと次世代アクセラレータをハイブリッド化、レーザ性能を高めるフォトニック結晶構造の最適化を見出すことにも成功した。
 技術コンサルティングや共同研究・事業化の拡大、人材育成にも取り組み、企業コンソーシアムと共同で量子計算アプリケーションエコシステムを確立して「量子計算技術でビジネスを最適化」する。

 CPS型レーザ加工機システムを開発した東大のスマート製造推進拠点では、EV用2次電池向けレーザ溶接工程のCPS化に関する協業をパナソニックと推進中だ。半導体製造後工程(パッケージング)においては、味の素ファインテクノのABF(味の素ビルドアップフィルム:CPUの層間絶縁材で世界のほぼ100%シェアを有する)、東大のCPS、Spectronixの266nmレーザ、三菱電機のレーザ加工機でチームを編成、Φ10μm 以下のABF微細孔あけ加工プロセスを開発した。
 「産学官協創」、「戦略的共働」、「エコシステム」、「インキュベーション」のキーワードをスローガンに掲げ、レーザ加工のイノベーションを支える組織として2017年に設立された高効率レーザープロセッシング推進コンソーシアム、「TACMI(Consortium for Technological Approaches toward Cool laser Manufacturing with Intelligence)コンソーシアム」には、2022年7月1日現在で102法人、105グループが参画している。

 PDの西田氏は、今後企業からの商用受注の受付交渉を各拠点で開始するととともに、SIP終了後も各拠点が自律的に活動を行い、プログラムで得られた成果の展開が期待されるSIP第3期におけるモビリティ、エネルギー、量子等の関係者との連携も開始すると述べた。我が国の産業競争力向上に必須のCPS化の進展とさらなる応用の展開に期待したい。
(川尻 多加志)