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フォトニクスが生み出すイノベーションと新産業の創出
フォトニクス分科会が応物・秋季学術講演会でベンチャーシンポジウムを開催

October, 4, 2022, 東京-- 9月20日(火)から23日(金)までの4日間、東北大学・川内北キャンパス、並びにオンラインにて第83回応⽤物理学会(応物)・秋季学術講演会が開催された。講演会期間中、9月21日(水)には応物・フォトニクス分科会が「羽ばたくベンチャーとそれを支える仕組み ~フォトニクスが生み出すイノベーションと新産業創出V ~」シンポジウム(共催:応物・インダストリアルチャプター)を開催した。
 フォトニクス分科会は、応物最大の分科会。今回行われたシンポジウムは、毎年秋に行われる応物・学術講演会で併催されており、今年で5回目を迎える。シンポジウムでは、ベンチャーをサポートする側から、その仕組みや取り組みについての紹介が行われた他、ホットなベンチャー経営者が企業設⽴の経緯や自社の技術とビジネス、さらには経営者としての心構えなど、貴重な体験を語った。以下に講演の一覧を、次章で各講演の概要を紹介する。

◆基調講演:30年後からのバックキャスティングと光ベンチャー:瀧⼝義浩氏(光産業創成⼤)
◆機動的研究を可能にする研究開発シェアリング「Co-LABO MAKER」‒研究開発が滑らかに循環する仕組みを⽬指して‒:古⾕優貴氏(Co-LABO MAKER)
◆⼤学発スタートアップ創出とスタートアップ・エコシステム形成 ‒東北⼤学の取組‒:⽯倉慎也氏(東北⼤・スタートアップ事業化センター)
◆ソニーを⾶び出て25年、ベンチャー今昔物語:堀⽶秀嘉氏(ホーリーマイン)
◆⾼速イメージング技術による細胞解析イノベーション:新⽥尚氏(CYBO)
◆PLCを⽤いた超⼩型RGB光学エンジンの応⽤と実⽤化:⻲井洋次郎氏(セーレンKST)
◆乳がんの早期発⾒を実現する⾝体にやさしい超⾳波画像診断装置:東志保氏(Lily MedTech)
◆AIとリキッドバイオプシーで拓く新たな予防医療の世界:江川尚⼈氏(フォーネスライフ)

未来を切り拓くベンチャー企業
 30年後の2050年、世界の人口は100億人に達すると言われている。一方で、現在の主要国の人口は減少して労働力は減っていく。そんな中、科学技術の世界では新エネルギー技術や低消費電力情報伝達技術、高精度農業技術、環境修復技術など、イノベ―ションに基づく数多くの事業化が必要になる。科学技術者にも30年後に向けて果敢に攻め続ける姿勢が求められている。
 光産業創成大は、光技術の応用による新産業を創成できる人材育成と新規の光技術開拓を目指して設立されたユニークな大学院大学だ。博士課程を取得するためには3年間の博士後期課程において、新事業の立ち上げと光技術の確立が求められる。在学生は現在31名で、その年齢は29歳から64歳と幅広い。創立以来、起業数は教員起業も含め37社、新規事業数は30以上に及ぶ。
 商業用レーザ核融合炉とその応用を目指す「EX-Fusion」、免疫蛍光分析技術を用いた移動式高感度光ウィルス検知装置を開発する「ジーニアルライト」、InGaAs/Si特殊カメラと自在な光学系を組み合わせた、50×50×50cmの分光器を人工衛星に搭載しようと開発を進める「分光応用技術研究所」等々、これまでにユニークなベンチャー企業が生まれている。
 中小企業とのコラボレーションでは、塗装業を営む「トヨコー」から入学した後、会社に戻った卒業生がレーザを利用して橋梁や鉄塔などの構造物鋼材の錆、塗装、汚れなどを除去するレーザクリーニング装置「CoolLaser」を開発。共同で取り組んだ「レーザー照射処理面の除錆度測定方法」は、日本産業規格(JIS)として制定・公示された。

 研究開発シェアリング「Co-LABO MAKER」は、外部の研究リソースを活用するハードルを下げることで、機動的な研究開発を可能にするサービスだ。利用者は、早く安く外部のラボ・設備・人材などを活用して研究開発を進めることができ、一方の提供者は、保有する設備や人材・技術を活用して、資金・連携先・研究成果を得ることができる。
 そのビジネスは、実験機器の短時間貸しからスタート、その後、設備付きラボのシェアリングや人も含めた実験委託という形でのシェアリングなど、サービス範囲を拡張、現在では4,000件を超えるラインナップと1,500件を超える案件に対応するとともに、300件以上のマッチング実績を持つまでに成長した。
 講演では、サービスの仕組みやいくつかの困難を乗り越えた過程が紹介された。古谷氏は、データベースやネットワーク、ソフトウェア、人のシステムを活かして、新たな研究開発エコシステムを共創して行きたいと、その長期目標を語った。

 我が国における大学発ベンチャーは増加傾向にあり、すでに3,000社を超えるレベルにまで達している。近年ではSociety5.0やSDGsといった社会的なニーズが大きく、かつイノベーションの期待できる領域における重要性が高まっており、大学の持つ優秀な人材と高い技術力の活用も進んでいる。
 起業家を生み出すために、アントレプレナーシップを始めとした様々な大学発ベンチャー・スタートアップ創出の取り組みも行われており、地域の産官学金が一体となってスタートアップ・エコシステムを形成してスタートアップを創出しようという取り組みも始まっている。
 東北大では、独自の取り組みとして、大学発ベンチャー創出のため、①アントレプレナーシップ育成(起業文化醸成やアントレ教育)、②事業性検証支援(起業前支援)、③ベンチャーへの投資(起業時・起業後支援)など、シームレスなベンチャー支援システムを構築・運営している。
 東北・新潟地域所在の大学発スタートアップは223社、全国シェアで7%を占めるが、上場企業数に限ってみると85社、シェアは2%に過ぎない。この状況を打破しようと、同大学ではベンチャー支援システムの広域展開をスタートさせ、東北・新潟においてスタートアップ・エコシステム形成に取り組む。講演では、東北・新潟の大学が一体となって取り組む「みちのくアカデミア発スタートアップ共創プラットフォーム」や「東北・仙台スタートアップ・エコシステム」などの仕組みと活動が紹介された。

 ホーリーマインの堀米氏が、エンジニアの道を目指した動機は、中学生の時「空飛ぶ円盤を作って乗りたい!」と思ったことであった。高専から豊橋技科大の磁性研究室へ進み、そこでアモルファス垂直磁性薄膜への光磁気ホログラフィ記録という研究テーマに出会った。その後ソニーに入社して、空は飛ばないが録音ができる円盤(光磁気ディスク)の研究開発に没頭。発明という言葉の響きが好きで、誰かが「それは出来ない。無理だ!」と嘆くたびに「それは俺の仕事だ!」とインスピレーションが湧き、ブレークスルー技術を考案しては特許を書き続け、そこから「Mini Disc」の実用化技術も生まれた。
 ソニー退職後の3年間は、自分のアイデアを具現化する方法を手探りで、かつサバイバル状態で模索した。当時は、ベンチャーという言葉すら聞いたことがなかったが、ある日ベンチャーキャピタリストと出会い、初めて自分がベンチャー起業家を目指していることに気付いたという。ホログラムを用いたメモリや3Dディスプレイ、3Dプリンタなどの研究開発と事業化を続けて来た堀米氏は、数多くの不思議な出会いがあって自分のアイデアを具現化する道を歩むことができたと振り返り、ベンチャーを考えている人に対し、「自らの潜在的な可能性を信じて、新たな一歩を踏み出そう」と呼びかけた。

 CYBOの新田氏は、免疫細胞活性の計測技術に関する研究開発と事業化をベンチャー企業で経験の後、転職してフローサイトメーターの新製品を開発・事業化、その後アカデミアに移って内閣府のImPACTプロジェクトで細胞解析技術「インテリジェント画像活性セルソーター」の開発に従事、その研究成果を引き継いで現在のベンチャー企業を設立して、この技術の製品化を進めている。
 この製品は、従来の顕微鏡とフローサイトメーターを融合したもので、これまでのバイオマーカーにAI分類によるマーカーを追加、細胞の辞書となる分類技術の基盤になることを目指している。並行して、高速イメージンング技術と高速信号処理技術を活用した、新しい臨床向けイメージングシステムの開発も進めている。
 新田氏は、現在の細胞解析を取り巻く環境は数十年間前の遺伝子解析における環境と似ていると指摘、細胞は長期にわたって成長が続くとして、その市場に向け様々なソリューションを開発・提案していきたいと抱負を述べた。さらに、「アカデミアと産業界を往来してみると意外と面白い」、「やり続けていればスペシャリティが、組み合わせればオリジナリティが身につく」、「どこに行っても通用する素養は胆力だ」と、自身の経験から得たキャリア観も語った。

 セーレンKSTの前身であるKSTの設立は1998年、光学部品向け成膜加工事業やSOIウェハの生産・販売を手がけ、2019年にセーレングループに参画した。幾つものスタートアップ企業立ち上げの経験を持つ亀井氏は社長就任後、社内ベンチャー的新事業として次世代半導体材料事業とオプト事業を立ち上げた。
 IT技術の革新とともに、ウェアラブルデバイスへの期待は高まっているが、中でも視覚からの情報を取り込むことができる眼鏡型ディスプレイは、情報伝達の有力なデバイスとして多くの企業が参入、様々な方式と製品が提案されている。同社では、レーザによる網膜照射型である眼鏡型ディスプレイの持つ焦点フリー、色域の広さ、超小型・超軽量といった可能性に着目、RGB3 色のレーザと MEMSミラーを用いた光学エンジンの開発を進めてきた。
 RGB3色のレーザをMEMSミラーに入射する方式は、空間結合方式がこれまでの主流であった。これに対し、同社は福井大の開発したPLC(プレーナーライトサーキット)に注目、合波器にPLCを採用することで部品点数を減らし、超小型・超軽量の光学エンジンの開発に成功した。PLCによってレーザビームは真円に成形され、RGBの各ビームはほぼ完璧に一本に統合される。亀井氏は、眼鏡型ディスプレイだけではなく、ヘッドアップディスプレイや照明など、様々な応用が見込まれると述べた。

 マンモグラフィは、乳がん診断のため最も広く使用されている検査手法。初期症状である微細石灰化の発見が得意で、撮影は乳腺を拡げた状態で行う。乳房を2枚の板で固定・圧迫してX線撮影をするのだが、撮影時の痛みや技師に触られることへの忌避感、X線被ばくに対する警戒感などの理由で、国内受診率は50%程度に留まっている。腺組織が多い高濃度乳房症例の見落としも問題とされている。
 2016年、問題解決のため東大医学系研究科・工学系研究科の研究シーズを基にLily MedTechが設立され、5年間の開発を経た2021年5月、乳房用リング型超音波画像診断装置「COCOLY」が製品化された。これはベッド型の画像診断装置であり、中央開口部の水槽内に2,000個の素子をリング状に配列した超音波振動子アレイを設置、素子の一部から超音波を面内に送信して、散乱波を全素子で受信して2次元断層画像を作るというものだ。
 水槽内は37℃の温水で満たされている。受診者は伏臥位で開口部に片側の乳房を入れ、超音波振動子アレイが水槽内で上から下へと2次元断層画像を撮影しながら3次元ボリュームを生成する。撮影時被曝がなく、乳房への圧迫もなく、再現性の高い画像取得が可能だ。医師に代わり画像中の腫瘍の有無を判定する機械学習モデルも開発中で、撮影や読影のスキル依存性を抑えたトータルシステムとしての製品化を目指している。
 東氏は、研究開発型ベンチャー企業の約半数が設立からIPOまでに10~14年もかかると指摘。IPO前には僅な売り上げしかなく、常にキャッシュ残高と戦い続け、自立するまでモチベーションを保ちながら事業を続けるには非常に強いストレスが付きまとうとして、それだけに強い情熱と生命力を持った起業家・役員が組織を牽引しなければならないと述べた。

 フォーネスライフは、予防医療領域における事業を加速化するためNECグループからカーブアウトしたベンチャー企業だ。我が国では、毎年約7割の人が健康診断を受けているが、一方で多くの人が循環器疾患やがんを罹患している。重篤な疾患に罹患すれば、治療費のみならず、自身や周囲の精神的な負担は計り知れない。「そうした状態を防ぐことに貢献したい」と、同社は設立された。
 そのサービスは、連携企業である米国SomaLogicの世界唯一の血中タンパク質測定技術と、NECグループのAI・ICT技術を組み合わせ、今の体の状態と将来の疾病リスクを可視化して、一人ひとりに合った介入メニューを提案するというもの。これにより、行動変容を促し生活習慣を改善、疾患予防に取り組んでもらう。具体的には、一度の少量の採血で心筋梗塞や脳卒中などは4年以内、肺がんは5年以内の罹患リスクが医療機関から提供される。今後は、認知症やがん種の拡大など、対象疾患を50以上に拡げ、採血だけで多くの疾病リスクを可視化する計画だ。
 同社では、多くの個人に向け、また企業の福利厚生制度を通じて、この検査と生活習慣の改善を促すITサービスを提供することで医療費の適正化に貢献するとともに、10年後には「誰も病気にならない未来、誰もが自分らしく生きられる社会」を創り上げたいとしている。

フォトニクス分科会アクティビティの今後の予定 
 同研究会では、春・秋に行われる応物・学術講演会でのシンポジウム、JSAP-Optica(旧OSA)ジョイントシンポジウム、InterOptセミナー、レーザー学会ジョイントシンポジウム、さらには産官学の研究者と学生が交流するフォトニクスワークショップ(@沖縄)の開催など、数多くのアクティビティを実施している。今後の予定は、下記URLのホームページを参照していただきたい。
https://annex.jsap.or.jp/photonics/
(川尻 多加志)