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テラヘルツ無線通信に向け研究開発が進む無線・光融合基盤技術
電子情報通信学会エレクトロニクスソサイエティが特別企画セッションを開催

September, 12, 2022, 東京-- 9月6日(火)から9日(金)にかけて行われた電子情報通信学会2022年ソサイエティ大会2日目の7日(水)、エレクトロニクスソサイエティが特別企画セッションを開催した。テーマは、いま話題の「テラヘルツ無線通信に向けた無線・光融合基盤技術」だ。
 電波と光波の境界領域周波数帯と言われるテラヘルツ帯。この幅広い周波数帯域を用いた次世代無線通信の利用が各方面より期待されている。だが、そこに立ちはだかるのが「テラヘルツギャップ」だ。テラヘルツ帯はエレクトロニクスとフォトニクス、その何れにとっても非常に難しい技術領域とされている。高効率・低消費電力でテラヘルツ波の発振・増幅・検出が可能なデバイス・回路や伝搬損失の影響を抑制するための指向性アンテナ、ビームステアリングなど、ハードウェアに関する課題は山積している。解決には、従来の無線通信と光通信の知見や技術を活用した新たな技術、無線・光融合基盤技術の進展が重要だ。シンポジウムでは、その先端的な取り組みが紹介されるとともに、今後の技術開発の方向性についても議論が行われた。以下、セッションの一覧を示す。

◆無線・光融合基盤技術の研究開発の戦略提言:馬場寿夫氏(JST)
◆テラヘルツ通信における研究開発動向 -デバイスからシステムまで-:寳迫巌氏(NICT)
◆IOWNの実現に向けたハードウェアの研究開発:寒川哲臣氏(NTT)
◆テラヘルツ無線技術の現状と今後の展望:永妻忠夫氏(阪大)
◆6Gに向けたミリ波帯・テラヘルツ帯フェーズドアレイ無線技術:岡田健一氏(東工大)
◆テラヘルツ波領域の完全異常反射メタサーフェス技術:真田篤志氏(阪大)
◆遠隔医療・手術ロボットからの次世代通信技術に対する期待:菅野貴皓氏(リバーフィールド)
◆コンピュータネットワークの高速・低電力化に向けた光電融合技術:田原修一氏(アイオーコア)
◆レーダ・インフラ利用に向けた無線・光融合基盤技術:川西哲也氏(早大)

テラヘルツ無線通信と無線・光融合基盤技術 
 講演では先ず、JST研究開発戦略センターがまとめた戦略提案書をもとに、未踏の周波数領域であるテラヘルツ帯に挑戦する次世代通信技術に向け、従来の無線と光、エレクトロニクスとフォトニクスの知見や技術を活用した新たな基盤技術、無線・光融合基盤技術を創出することの必要性とその研究開発戦略が示された。

 第5世代移動通信システム(5G)が普及しつつある中、次世代のBeyond 5G/6Gの研究開発はすでに始められている。2019年の世界無線会議(WRC-19)では、275~450 GHzの周波数帯において合計137 GHzもの帯域が陸上移動業務と固定無線業務に特定された。Beyond 5G/6Gでは、このような高い周波数(テラヘルツ帯)も新しい帯域として利用し、より高速な無線通信を実現しようという機運が高まっている。現在進行中の国際電気通信連合・無線通信部門での技術トレンド調査にもテラヘルツ波の活用は盛り込まれており、世界各国において大規模な研究開発が進められている。講演では、テラヘルツ通信におけるデバイスからシステムまでの研究開発状況や今後の見通しに加え、世界初のテラヘルツ帯デファクト標準「IEEE802.15.3d」などの標準化動向が紹介された他、テラヘルツ無線において勝利を得るための日本の戦略についても語られた。

 NTTが提案するのがIOWN (Innovative Optical and Wireless Network)構想だ。これは、光を中心とした革新的技術を活用した高速大容量通信ならびに膨大な計算リソース等を提供可能な端末を含むネットワーク・情報処理基盤構想であり、2024年の仕様確定、2030年の実現を目指し、研究開発が進められている。構想では、ネットワークから端末まで、すべてにフォトニクス(光)ベースの技術を導入したオールフォトニクス・ネットワークおよび光電融合デバイスが必要不可欠。講演では、光電融合情報処理デバイスやInP高周波(サブTHz)デバイス、PPLN光非線形デバイス(光イジングマシン、光量子計算)、光格子時計ネットワークなど、IOWNを実現するためのハードウェアに関する研究開発が紹介された。

 テラヘルツ無線技術では、現状における到達点を概観するとともに、光技術導入のメリットや今後の技術課題(フェーズドアレイや信号源の位相雑音化に向けた光技術の導入、フォトダイオードの高出力化など)が紹介された。100Gbpsを超える伝送は、数十GHzものRF帯域を使用して多値変調を行ったことと、デジタル信号処理技術を駆使してベースバンド帯域の不足や非線形性、位相雑音のペナルティを補償したことが実現に大きく貢献した。一方、複雑で過度な信号処理の利用は、システム全体の電力増大や遅延を招いてしまう。原点に戻り、発振器の位相雑音化やRF回路としてのアナログ性能を高める研究が重要だ。学術的には500GHzを超える周波数は極めて挑戦的な領域であり、今後は光技術や光技術から派生した導波路などを用いたRF技術の導入に加え、新しい原理に基づいた光・電子デバイスの出現が期待される。

 6Gに必要とされるミリ波帯・テラヘルツ帯のフェーズドアレイ無線技術については、現状の28GHz帯や300GHz帯のCMOSフェーズドアレイ無線機が紹介され、その可能性について理論的な考察が行われた。ICの小型化と狭ピッチ化は今後必須な技術だが、現状のCMOS回路の延長ではその実現は不可能だという。デバイス技術や回路の工夫など、これまでとは異なるアプローチが求められると指摘した。

 次世代無線通信において利用が想定されているのが異常反射メタサーフェス。非局所能動損失設計によって、材料基板内部の損失を除くとほぼ100%という効率が達成されている。完全異常反射メタサーフェスの実現を目指し、実験では140GHz帯において異常反射メタサーフェスを試作、45、60、75 deg設計において材料損失を含めた効率がそれぞれ88、84、82%となる高い反射効率を達成。高精度計測による材料定数実測によって、精度の良い設計が可能であるとの実証にも成功した。

 医師不足や僻地医療など、様々な課題が指摘される中で期待を集めているのが遠隔手術だ。AMEDと日本外科学会が中心となって、2020年度から「遠隔手術ガイドライン」の策定も進められた。2022年6月には初版を発行、医師の配置、通信の要件、手術ロボットに求められる機能要件、サイバーセキュリティ対応などが規定された。講演では、AMEDプロジェクトで実施した遠隔手術実験に加え、手術ロボットや映像伝送装置が紹介され、超低遅延遠隔手術を実現するための今後の通信技術への期待が語られた。

 光電子融合基盤技術研究所(PETRA)は、最先端光デバイスとそれらを集積・実装する技術を開発し、フォトニクスとエレクトロニクスを融合したデバイスやシステムの技術開発に取り組んだ。講演では、スピンアウト企業「アイオーコア」を生み出したNEDOプロジェクト「超低消費電力型光エレクトロニクス実装システム技術開発」(光エレ実装PJ)の概要が紹介された。光エレ実装PJは2012年9月から2022年2月の間に遂行された大型プロジェクト。その目的は、電気回路と光回路の特徴を活かした要素技術の実装・集積化による光配線・光素子の新たな機能創出を図り、情報機器の小型化・低消費電力化を実現することであった。システムレベルでの光配線技術の有効性を示すとともに、事業化への道を拓くことを目指して多くの成果(シリコンフォトニクス超小型光IOコアならびに、そのための変調器、受光器、光源などの基盤技術)を創出した。

 最後の講演では、ミリ波帯を用いた滑走路等のための高精度レーダやインフラ向けの高速通信についての研究開発事例が紹介された。既存のマイクロ波を用いた無線では困難であった高精度センシングや大容量通信の実現を目指すというもので、ここ数年はミリ波帯よりさらに周波数が高いテラヘルツ帯への注目も集まっている。テラヘルツと光の融合に焦点をあてて要素技術の現状と課題が紹介され、6Gマーケットはハイエンドでニッチなマーケットを目指すローカル6Gから始まると指摘した。

 Beyond 5G/6Gの中核技術として期待を集めるテラヘルツ無線通信に向けた無線・光融合基盤技術。その研究開発動向には今後も注目して行きたい。
(川尻 多加志)