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グリーントランスフォーメーション(GX)と光技術
「InterOpt 2022」でフォトニクス分科会がミニセミナーを開催

July, 4, 2022, 東京--6月15日(水)から3日間、東京ビッグサイト(東京都江東区)で開かれた「InterOpt 2022」最終日の17日(金)、応用物理学会(応物学会)・フォトニクス分科会(幹事長:西澤典彦氏〈名古屋大〉、写真:同分科会HPより)が、展示ホールセミナー会場においてミニセミナーを開催した。
 フォトニクス分科会の前身である光学懇話会が応物学会に設立されたのは1952年4月。それからすでに70年という年月が経ち、その間には名称を日本光学会に変更、2015年には組織改編によって現在のフォトニクス分科会となり、今日に至っている。
 今回のセミナーで取り上げられたテーマは「グリーントランスフォーメーション(GX)実現に向けた光技術」。化石燃料をグリーンエネルギーに転換して、社会経済や産業構造の変革を目指すGX。光技術は、その実現のため欠かすことのできない要素技術として各方面より注目を集めている。
 セミナーでは、光技術を用いた環境やエネルギーに関する新たな取り組みを、最先端で活躍する3名の方々が紹介、環境計測やエネルギー変換の今後について展望した。以下、その概要を紹介する。

GX実現に貢献する最新光技術 
 セミナー冒頭、幹事長の西澤氏は、同分科会が応物学会最大の分科会であり、光渦や光コムといった光自体の特性を追求する科学領域と、非線形結晶やフォトニック結晶など、物質構造を光で制御する工学領域のそれぞれの知見と技術を駆使しながら、分析、制御、加工、表示、バイオ、医療などの分野横断的な新規応用展開を目指し活動を続けており、国内外の学会をつなぐハブの役割も担っていると述べた。
 この他、西澤氏は機関誌「Photonics Division」の最近の特集や秋・春の応物学会シンポジウム、InterOptセミナー、JSAP-Optica(旧OSA)joint Symposium、レーザー学会ジョイントシンポジウムなどを始め、産官学の研究者と学生が交流するフォトニクスワークショップ(@沖縄)や若手研究者に贈るフォトニクス奨励賞など、分科会の様々なアクティビティを紹介した。

◆高感度環境分光計の進展 (温室効果ガスから自動車排出ガスまで):東京大 戸野倉賢一氏
 新規レーザの開発により温室効果ガスなど、気相中の低濃度物質を高感度に測定できるレーザ吸収分光法の開発が進展する中、戸野倉氏は赤外レーザとキャビティリングダウン吸収分光法や波長変調吸収分光法などの高感度吸収分光法を組み合わせた計測手法を開発した。
 講演では、衛星観測(大気汚染物質の観測、熱帯泥炭火災)や地上からのリモートセンシング(熱帯泥炭地からのCO2観測)の他、赤外レーザ吸収分光に関する最近の実績(CO2炭素同位体観測、自動車排ガス計測〈イソシアン酸〉、シリンドリカルミラーや凹面ミラーを用いた小型多重反射光学セルの開発、クオーツ増幅光音響法、資源探査など)が紹介された。
 戸野倉氏は、分光法をベースとした衛星・地上観測によって温室効果ガスなどの地球環境監視、災害監視が行われている一方、様々な測器開発や衛星打ち上げも行われているとして、レーザ分光光源の小型化・高出力化・広帯域化および光学セルの小型化によって大気微量気体の環境分光計測は高感度化が進み、今後のさらなる発展が期待されると述べた。

◆有機半導体界面を舞台にした高効率光エネルギー変換:分子科学研 伊澤誠一郎氏
 有機太陽電池は、軽量、安価、フレキシブルで、色も選べて、窓などにも簡単に取り付けられるという特長を有しており、再生可能エネルギー源やIoTデバイス用電源としても有望と注目を集めている。さらに、ライバルと言われているペロブスカイト太陽電池に比べ耐久性があり、鉛を使わず有機色素のみで作製できるので環境負荷が小さいとも言われている。
 有機半導体界面では、有機太陽電池の最重要プロセスである光電変換が起こるが、有機太陽電池の変換効率は近年急上昇しており、すでに19%を超える値も報告されている。伊澤氏は、固体薄膜上で長波長の光を短波長に変換する新原理の光アップコンバージョン(UC)を発見、三重項生成を界面で起こすというパラダイムシフトによって従来法の約100倍のEQE(外部量子収率)の実現に成功した。これは希少元素フリーを実現するもので、レーザ励起も可能だという。
 この手法を用いて乾電池1本で高輝度な発光ができる有機ELも開発しており、伊澤氏は、光から電荷、電荷から光への自在な制御によって、高効率な有機光エレクトロニクスが実現でき、GX実現に近づくことができると指摘した。

◆プラスチックリサイクルに貢献する分光技術:浜松ホトニクス 渥美利久氏
 プラスチックには、用途に合わせてコスト・強度・耐熱性が異なるPETやPS、PE、PP、ABSの他、強化剤や難燃剤などの添加物が含まれるものなど、多種多様なものが存在する。我が国は世界有数のプラスチックごみ大国、年間約1,000万トンのプラスチックが生産され、このうち約3/4は廃棄または焼却、リサイクルされているのは22%だけだ。
 地球環境のためには、このリサイクル率を上げる必要があり、そのためにはプラスチックの種類分けを広く普及させていくことが肝要だ。プラスチックに合った分光技術(透過X線、近赤外線分光、中赤外線分光、ラマン分光など)を適材適所で選択・活用すれば、マテリアルリサイクルやケミカルリサイクルを促進できる。しかしながら、その普及には高性能化や低価格化といった課題に加え、様々な目的に合ったプラスチック選別装置の開発が必要となる。
 渥美氏は、プラスチックは人間の活動によって廃棄されるのだから、自分達の活動を変えることで止めることもできると指摘。資源リサイクルの進展や再生可能なバイオ素材への移行が求められると述べるとともに、近赤外分光技術 (InGaAsセンサ)のリサイクル応用は進んでいるものの、装置メーカーは(残念ながら)欧州が中心だとして国産の必要性を訴えた。
 さらに、リサイクルが最も難しいとされる自動車用の添加物入りプラスチックを識別する中赤外ハイパースペクトル装置も高価格な製品はあるものの、それだけでは不十分で、より身近な技術が必要だと指摘。その上で、同社が進める解析技術 (AI・機械学習)と組み合わせた研究開発テーマとして、X線デュアルエナジーラインカメラ(臭素、塩素、金属などの検出)やラマン分光モジュールによる濃色プラスチック測定、近赤外分光技術と小型光源が可能にする現場リアルタイム分析(難燃剤、高機能樹脂など)、バイオプラスチック計測などを紹介した。

分科会アクティビティの今後
 分野横断的な新規応用展開を目指して活動を続けるフォトニクス分科会。前述した関連のシンポジウムやセミナーなど、今後の予定は下記URLのホームページを参照していただきたい。
https://annex.jsap.or.jp/photonics/
(川尻 多加志)