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面発光レーザ誕生から45年
微小光学研究会、記念シンポジウムを開催

March, 8, 2022, 東京--面発光レーザ誕生から今年で45年。これを記念して2月22日(火)、応用物理学会・微小光学研究会(代表:伊賀健一氏)が「面発光レーザー誕生45周年記念シンポジウム」を開催した。今回のシンポジウムは、実際の会場(東工大・すずかけ台キャンパス・すずかけホール)とオンラインを組み合わせたハイブリッド開催形式が採られた。
 周知のように、面発光レーザは1977年3月22日、伊賀氏によって考案されたもので(この日は「面発光レーザーの日」と認定された)、その低いしきい値特性を活かして、超高速LANやスーパーコンピュータ、コンピュータ用マウス、スマートフォンにおける顔認証、レーザプリンタ、LiDAR、眼底画像解析(OCT)などに応用範囲を拡げてきた。これらに加え、微小共振器構造における物理という観点から、量子フォトニクスの発展にも大きな影響を与えている。

応用の拡がる面発光レーザ 
 シンポジウムでは、室温連続発振に至るまでの基礎研究やその後の研究、さらに多岐に渡る応用分野における研究・開発事例が紹介された他、海外の面発光レーザ研究者からのビデオメッセージも披露された。また、冒頭の「開催の挨拶」では、伊賀氏の紹介を兼ね2009年の第60回NHK放送文化賞受賞時の動画も流された。以下に当日のプログラムを記す。
 なお、参加者には記念品として書籍「面発光レーザーの原理と応用システム」(邑翠歴史文化基金の鄭禧昇santec前会長による寄付)と、組み立てると面発光レーザの構造が分かる「VCSELペーパーモデル」が配布された。

開会の挨拶:宮本智之氏(東工大)
特別講演「VCSELオデッセイ」:伊賀健一氏(東工大)
面発光レーザーフォトニクスの進展:小山二三夫氏(東工大)
Tunable VCSELを用いた波長掃引OCT:鄭昌鎬氏(santec)
50Gbps/100Gbps PAM-4動作用VCSEL技術の開発:青木健志氏(住友電工)
ビデオメッセージ:Connie Chang氏(Berxel Photonics)、Jack L.Jewell氏(The University of Arizona)、Larry A.Coldren氏(UC Santa Barbara)
リコーにおけるVCSELの研究開発と実用化:鈴木亮一郎氏(リコー)
富士フィルムBIにおけるVCSELの研究開発と実用化:近藤崇氏(富士フィルムBI)
窒化物VCSELの実現と、今後の課題:濱口達史氏(ソニーグループ)
ビデオメッセージ:Kent Choquette氏(University of Illinois)、Dieter Bimberg氏(TU Berlin)
閉会の挨拶:中島啓幾氏(元早大)

コミュニケーションとセンシング 
 45年前の伊賀氏の研究のミッションは「単一モード性」、「モノリシック製造」、「波長再現性」の三つだったという。伊賀氏はこれらを同時に満足させる、垂直かつ短い共振器で単一モード光を発振する面発光レーザを考案した。
 室温連続動作での課題は「光利得が小さい」、「平らな結晶表面が作れない」、「高反射率の反射鏡が作り難い」、「電流を小さなところに流し難い」、「熱が逃げない」ことなどだったが、伊賀氏はLPEやMOCVD装置を研究室で作製するとともに、電子ビーム薄膜蒸着ステーションの導入、電流閉じ込めと温度に対する考察、発振条件、利得飽和、変調スキームのパラメータなどに関する理論の明確化などを行い1988年の9月、初の室温連続発振に成功した。
 講演では、製品を含めた応用としてレーザプリンタやOCT、FMCW-LiDAR、顔認証などを紹介するとともに、低消費電力、2次元アレイ、連続的かつ広範囲なチューニングという面発光レーザの優位性を活かして、今後はコミュニケーションとセンシングがコアになると指摘、市場は2025年に4兆円になるとの予測を示しながら、牽引するのはパラレル・インターコネクト、スマートフォンにおける3Dレンジング、kW級のハイパワーシステムだと語った。
 研究初期のほぼ10年間、面発光レーザの研究を行っていたのは世界で唯一、伊賀研究室しかなかった。そのような孤独な状況の中、どのような気持ちを持って研究を続けられたのか。そう問われた伊賀氏は、「試合に出られなければ話にならない」と述べ、さらに「目指すものがあっても、それだけではプロとして試合に出られない」、「例え三振したとしても、振り逃げをしてでも実績を残す」ことが大切だと指摘するとともに、「スタートアップの苦しさは誰にでもある。プロになるための心構えは必要だ」と述べていた。
 なお、講演では触れなかったものの、伊賀氏は予稿集の中で、面発光レーザを中心とする研究の中で得られた「チャンスを活かす15の法則」を列挙している。最後に、これらを紹介する。

第1法則:なるべく多くの指導者にめぐり合うこと。
第2法則:一たん決まった方針は変えない。
第3法則:工学はやはり科学で、きちんとした論理がないテーマを選んではいけない。
第4法則:つまらないことでも続けると真理が現れる。
第5法則:助言はすぐ実行せよ。その能力、これはひとつの資質だ。(補足)助言もいいかげんな場合がある。すぐに行動してはいけない。
第6法則:発明の法則。不満は発明の母、不信は発明の父。
第7法則:自分から話をせよ。そうすると多くのものが返ってくる。
第8法則:勉強が足りないとチャンスを逃す。(補足)よく勉強した優等生はチャンスを逃す。
第9法則:ときに天はわれに味方する。
第10法則:研究にどうしても必要だと思うものは、いつも思っているといつかは手に入る。
第11法則:用意周到・無反省。
第12法則:2分間で自分のやっていることを説明できるように。
第13法則:重要技術は復活する。
第14法則:学生が無理だと音をあげても強引に進めるとよい場合がある。
第15法則:学生のアイデアを聞き逃さないこと。

今後のイベント
 次回163回の研究会は「実用化が拡大するシリコンフォトニクス」と題し、5月25日(水)に早大・西早稲田キャンパス55号館N棟1階・大会議室とオンラインで開催される予定だ。新型コロナウィルスの感染状況によっては完全オンライン開催となる可能性もあるので、詳細は下記URLにて確認して頂きたい。
http://comemoc.com/topics.html
 9月25日から28日には、ドイツのイエナにおいて「MOC2022(27th Microoptics Conference)」が開催される。詳細は下記URLにて。
http://www.moc2022.com/
 一昨年、新型コロナウィルスのために中止・無期延期となった第21回微小光学特別セミナーに替え、同研究会ではオンライン(オンデマンドを含む)での微小光学セミナー開催を計画中だ。詳細な近日中に発表するとのことだが、現時点では8月9日(火)、10日(水)が予定されている。こちらも、詳細は下記URLで要確認。
http://comemoc.com/topics.html
(川尻 多加志)