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時代を変革する面発光レーザ
電子情報通信学会、ICT PIONEERS WEBINARを開催

伊賀健一氏

December, 6, 2021, 東京--面発光レーザ(VCSEL:Vertical Cavity Surface Emitting Laser)は、1977年に東京工業大学(東工大)の伊賀健一氏(写真:2018年12月撮影)によって発案され、その後実用化、今日では幅広い分野に応用され、我々の生活を支える、まさに無くてはならないデバイスとなっている。
 その面発光レーザの発明から最近の発展までを、発明者である伊賀氏が解説する、電子情報通信学会(IEICE)ICT PIONEERS WEBINARのシリーズ第19弾「面発光レーザーの創案と応用分野の広がり」が11月16日(火)に開催された(主催:同学会サービス委員会)。
 WEBINARシリーズは、同学会がカバーするICTに関する様々な技術分野の中から根幹となるテーマを選定、その第一人者が現在、過去、未来について解説するというものだ。

 伊賀氏は、1959年広島大学附属高等学校を卒業、その後1963年に東工大理工学部卒業、1968年同大学院博士課程修了(工学博士)、同年東工大精密工学研究所に助手として勤務、1974年には助教授、1984年には教授に就任、一貫して面発光レーザや微小光学の研究に従事した。
 1979~1980年はベル研究所客員、2001年東工大名誉教授、2001~2007年日本学術振興会理事、2007~2012年は東工大学長を務めた。応用物理学会フェローであり微小光学研究会代表、電子情報通信学会名誉員/フェロー、2002年度には同学会の会長を務め、レーザー学会フェローでもある。
 紫緩褒章や東レ科学賞、市村学術賞(功績賞)、朝日賞、藤原賞、C&C賞、フランクリン賞(ゴールドメダル・バウワー賞)、瑞宝重光章、応用物理学会光工学賞、IEEE Edison Medalなど、数多くの賞を受賞している。趣味はコントラバスの演奏で、町田フィルバロック合奏団の代表でもある。

産業的急成長期を迎えた面発光レーザ 
 面発光レーザは、半導体基板に対し垂直に光が共振し、表面から光が出ることから命名された。ウエハプロセスによって大量生産が可能という特長を有している。共振器長を波長と同程度にできるので、単一波長動作が可能であり、共振器長と横方向を数ミクロンレベルにすれば、レーザ発振に必要な閾値電流を0.1~1mA以下にすることができる。これは通常の半導体レーザの1桁から2桁も小さい値であり、消費電力の大幅な低減を可能にする。2次元アレイ状にすることもでき、その特長を活かし並列処理も可能だ。
 応用は幅広い分野に展開している。産業的にも急成長期を迎えており、IoTからAIまでの物理層を支える光源として、その動向が注目を集めている。デバイスの売り上げも、2025年には1兆円に達すると予測されている。
 講演は、面発光レーザの発案から室温連続発振の成功、さらに実用化の現状と今後の展望までを考察する、幅広くかつ若手研究者にとっても示唆に富む内容となった。

 同学会の高橋浩エレクトロニクスソサイエティ会長からは、開催にあたって次のような言葉が寄せられた。「今回のwebinarには、面発光レーザーの発明者である伊賀健一先生をお招きし、発明の経緯や初期のご苦労と常温連続動作に至るまでの様々な創意工夫、その後の幅広い分野への応用研究や今後の面発光レーザーの展開に関してご講演を賜ります。1つのデバイスに関して発明から商用応用に至るまでの研究プロセスの話は私たち研究者にとって示唆に富むものとなるでしょう。また、先生は研究室の学生の指導はもちろんのこと、本会をはじめ多くの学会・国際会議の運営においても重要な役職を務められ、幅広い見識と建設的な議論を通じて後進の育成と光エレクトロのニクス研究分野全体を牽引することにもご尽力されています。そのご経験を生かし、ご自身が奏者でもあるコントラバスのように重厚な心に響く話術で、わかりやすいご講演なること間違いありません」。

室温連続発振からその先へ 
 今から45年前の1976年、当時の伊賀氏の研究のミッションは、「モノリシック製造」、「単一モード」、「波長再現性」の三つであったという。端面発光レーザが持つ製造プロセスの煩雑さに違和感を持った伊賀氏は、モノリシックなLSIのようにレーザを作りたいと考え、たどり着いたのが垂直かつ短い共振器で単一モード光を発振する面発光レーザであった。
 その発案は1977年の3月22日。この日の研究ノートに、伊賀氏は面発光レーザの概念図を書き残している。この日は今年、「面発光レーザーの日」に登録された。
 面発光レーザの室温連続動作において難しかった点が「光利得が小さい」、「平らな結晶が作れない」、「反射鏡が作り難い」、「電流を小さなところに流し難い」、「熱が逃げない」ことだったという。
 伊賀氏は、LPEやMOCVDの装置を研究室で独自に作る他、電子ビームの薄膜蒸着ステーションを導入、電流閉じ込めや温度に対する考察を進めるとともに発振条件や利得飽和、さらには変調スキームのパラメータなどに関する理論を明確化することで、これらの課題を克服して行った。そして1988年9月、遂に室温連続発振に成功した。
 伊賀氏は、面発光レーザの特長として、「消費電力が従来の100分の1くらい」、「2次元に並べられる」、「連続的に波長が変えられる」という3点をぜひとも皆に伝えたいと語り、その後の成果として、MEMSによる波長連続可変技術や量子井戸面発光レーザ、超格子MQB(多重量子障壁)、1200nm帯GaInAs/GaAs面発光レーザ、各種測定器の作製といった研究を紹介、さらに温度無依存面発光レーザやMEMS集積、モードロック、高速変調、LiDAR向けビームステアリング技術など、最新の研究についても紹介した。
 市場は、LANや光配線、光転送などの光通信分野を始め、顔認証やレーダなどの3次元計測、切断、溶接などの光加工分野への応用の進展で、2020年の9,000億円から2025年には4兆円までに成長すると予測されている。日本発のデバイス、面発光レーザに寄せられる期待はますます大きくなっている。
(川尻 多加志)