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社会・経済に変革をもたらす光無線給電
日本光学会、第46回光学シンポジウムを開催

July, 6, 2021, 東京--6月23日(水)から25日(金)の3日間、第46回光学シンポジウムがオンライン開催された(主催:日本光学会〈会長:コニカミノルタ 山口進氏〉、共催:応用物理学会フォトニクス分科会〈幹事長:物質材料研 栗村直氏〉)。
 日本光学会は、1952年に応用物理学会(応物)内に設立された光学懇話会を前身とし、応用物理学会分科会日本光学会時代を経て、2014年9月に一般社団法人として新たに発足した学会だ。一方の応用物理学会フォトニクス分科会も応物の光学懇話会が前身で、2015年の組織改編で名称を変更、現在に至っている。
 光学シンポジウムは、実用的な最先端の光学設計/光計測/光学素子/光学システムに関して、光学設計者・技術者が日頃の研究・開発の成果を発表・討論する場として毎年開催されており、今回のシンポジウムでは、初日23日に2本のチュートリアルが行われ、24日と25日の両日は招待講演8本と一般講演19本の発表が行われた。
 以下に、招待講演のタイトルと講演者、続いてチュートリアルのタイトル、講演者、講演概要を記す。チュートリアルは、講演時間が十分に取られているので、一般講演では体験できない基礎的な知識から最新の応用事例までを、全体が俯瞰でき、かつ深い知識を習得できる企画となっている。
 さらに、本稿では最終日に行われた招待講演、東工大の宮本智之氏による「光無線給電システムへの期待 -最新研究動向と実現への課題-」にスポットライトを当て、その概要を紹介する。

招待講演 
6月24日(木)
◆生体光イメージングで解き明かす細胞動態ネットワークの世界:阪大 石井優氏
◆リアルタイムCGにおけるレンズフレア表現技術の発展:シリコンスタジオ 川瀬正樹氏
◆プラズモニック光波制御による光駆動ナノモーター:東大 田中嘉人氏
◆イメージセンシング応用に向けた誘電体メタサーフェス:日本電信電話 宮田将司氏
6月25日(金)
◆VR/AR向け高輝度・高解像度マイクロLEDディスプレイ開発の現状と展望:産総研/名大 王学論氏
◆ホログラフィーによるアート表現 -建築空間への応用-:美術家 石井勢津子氏
◆機械学習で深化するシングルピクセルイメージング:阪大 水谷康弘氏
◆光無線給電システムへの期待 -最新研究動向と実現への課題-:東工大 宮本智之氏

チュートリアル 
 今年のチュートリアルのテーマは「ブレイクスルー光学」。下記2本の講演が午前と午後の2部に分かれ、オンラインで行われた。
午前の部
◆スパースモデリングによる電波干渉計解析とブラックホールの直接撮影:国立天文台 本間希樹氏
 2019年、国際プロジェクト「Event Horizon Telescope」は、史上初の「ブラックホールの影」を捉えた写真を発表した。これは、複数の電波望遠鏡を組み合わせて地球規模の巨大な望遠鏡を合成したVLBI(Very Long Baseline Interferometry)の技術を用い、人間の視力に換算して300万という人類史上最も高い視力によって観測されたものだ。講演では撮影成功の天文学的意義と電波干渉計やVLBIの画像解析手法の他、近年注目を集める数理的手法「スパースモデリング」が、この分野でどのように活用されたのか等が解説された。
午後の部
◆メタサーフェスによる光と熱の制御:阪大 高原淳一氏
 僅か数百nmの厚さで光波の散乱・吸収を自在に操作できる究極の薄型素子が、2次元メタマテリアルとしても知られるメタサーフェスだ。メタマテリアルの負屈折率媒質実現から20年余りが経過し、メタサーフェス実用化に向けた研究・開発は急速に進んでいる。一方、その設計原理は有効媒質としてのメタマテリアルとはかなり異なっている。講演では、メタマテリアルからメタサーフェス誕生に至る経緯やその動作原理、設計方法が基礎から系統的に解説され、メタレンズ、メタホログラム、構造色、熱輻射制御など、最新の応用展開も紹介された。

光無線給電
 情報機器に限らず、今の時代に使用される様々な機器には「通信」と「給電」の両方の機能が必要だ。このうち、通信は無線化が進んだ。しかしながら、給電は未だに有線が主流。有線において必要とされる配線と接続に伴う手間によって、機器の利用条件や機能、形態などは現状大きな制約を受けている。給電も無線で行うことができれば、新しい機器やサービスが生まれ、社会や経済に大きな変革をもたらすはずだ。
 現時点で検討・実用化されている無線給電方式には、電磁誘導方式や磁界共鳴方式などの結合方式やマイクロ波ビーム方式などの放射方式があるが、給電距離の制限やサイズの拡大、電磁ノイズ干渉といった課題を抱えており、応用の範囲や条件が限定されているのが実情だ。
 そこで注目を集めるのが、光無線給電(Optical Wireless Power Transmission:OWPT)だ。OWPTも放射方式ではあるが、光は高周波電磁波の5桁以上の高周波であり、光ビームによる小型・長距離化や半導体デバイス使用による小型・軽量化を実現するとともに、電磁ノイズ干渉を起こさないDC動作など、優れた特徴を有している。
 ただし、OWPTもマイクロ波ビーム方式と同様、給受電端末間に直線的な見通しが必要であり、そのため複数光源の利用が想定されている。実際の応用には、光源(レーザやLED)と受光デバイス(太陽電池)の他、ビーム形状やビーム方向の制御、給電対象の検知、必要な電力量や受電状況の情報伝達を行う通信、安全の確保といった多様な機能要素のシステム化が必須となる。実現には、光源の高効率化・高出力化の他、太陽電池への単色光照射と光強度増加による高効率化を図るとともに、受電側の効率に影響を与える発熱・放熱に関する問題の解決や給電の長距離化なども求められる。
 宮本氏の研究チームでは、18WのVCSELと6WのSi太陽電池を用いて2.5m~5mの距離でUSBファンや多数のLEDを動作させる室内デモに成功している。また、ビーム照射における不均一照射の影響を低減させるためにフライアイレンズを太陽電池モジュール側に適用、均一な照射も実現した。
 OWPTの適用は、心臓ペースメーカなどに給電するための体内埋め込み、LDより安全性が高いLEDを用いたIoT向けOWPT、スマートスピーカなど情報端末への給電、室内の高機能化を実現する複数機器へ給電を行う複数光源システム、自動車の走行中やドローンの飛行中に給電するモビリティ応用、電波が利用できない水中・海中通信、宇宙太陽光発電など、多岐に渡る。
 実現には安全技術の確立が必須で、カメラによる進入検知やアイセーフ波長の使用、クラス1内での制御、ライトカーテンの使用などが提案されており、安全性確保によって規制緩和が進むことが期待されている。宮本氏は、光無線給電は社会を大きく変革する基盤として有望だと述べ、講演を終了した。

OPJ 2021
 日本光学会では、10月26 日(火)から29 日(金)の4日間、 国立オリンピック記念青少年総合センター(東京都渋谷区)において日本光学会年次学術講演会(Optics & Photonics Japan(OPJ)2021)を開催する(共催予定:応用物理学会)。
 OPJは、光学および光技術に関する研究発表の場であると同時に、我が国の光学分野における情報発信の場でもあり、カバーする分野は、ナノフォトニクス、量子光学、情報光学、視覚光学、光計測、生体医用光学、光学設計に加え、エネルギー・環境・グリーンフォトニクスと多岐に渡り、光科学から産業応用までの広い領域を対象とした国内最大級の光関連学術講演会となっている。
 今回は、会場でのセッションとオンラインでのセッションを合わせたハイブリッド形式での開催を予定している。一般講演に加え、光技術に関する最先端研究や日本光学会が得意とする製品応用など、未来に向けた光学技術とその応用を明らかにするシンポジウムなど(基調講演、光学論文賞授賞記念講演、日本光学会奨励賞記念講演、光みらい奨励金記念講演、日本光学会・応用物理学会ジョイントシンポジウム、研究グループ等の企画セッションなど)が予定されている。詳しくは、下記URLを参照。
OPJ2021 – Optics & Photonics Japan 2021 (opt-j.com)

(川尻 多加志)