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光学薄膜の未来を探る
光学薄膜研究会、2021年度第1回(第38回)研究会を開催

May, 6, 2021, 東京--光学薄膜研究会(代表:東海大教授・室谷裕志氏)は、「日本の光学分野の活性化を図る」、「光学関係の規格の標準化を進め、日本の国益を守る」、「これらの目的に賛同し、光学薄膜およびその応用技術に興味を持つ研究者や技術者が、光学薄膜に係わる基礎的な事項について深く議論を尽くし、最新の技術議論について情報交換を行う場を提供する」ため、今から10年前の2011年3月に発足した。
 製造装置から成膜材料、さらには最終製品まで、その存在感を世界で示す我が国の光学薄膜技術。しかしながら、グローバル化によって多様化が進む現代、時代の潮流を掴み成長して行くには、新しい情報の収集と勉強が必要不可欠だ。同研究会では発足以来、そのための「場」を提供して来た。
 具体的には、① 定例研究会の開催(各テーマを設定して年4回の定例会を開催、光学薄膜に係わる基礎的な事項から最新の技術議論について情報交換を行う)、② JISおよびISO規格の作成支援(ISO9211シリーズ等、光学薄膜の各種環境試験の定期的見直し、JIS規格作成、ISOへの提案等の標準化作業)、③ 学術講演会への発表支援(応用物理学会等)、④ 国際会議の開催および開催支援(同研究会が主催・協賛する国際会議・技術研究会などの各種行事を会員向けにいち早く紹介)、⑤ 光学薄膜関連問題に関わるホットな話題や産業問題に対する各企業幹部の方からの説明をベースとした懇談・勉強会等の開催。さらに、2027年度までのロードマップ(長期計画)の作成や、法人会員と個人会員を対象とした学生から45歳までの「若手の会」を設立するなど、活発に活動を続けている。
 4月23日(金)、同研究会の2021年度第1回(第38回)光学薄膜研究会がオンラインで開催された。

複合成膜法と低屈折率SiO2光学薄膜 
 研究会では、複合成膜法よって成膜されたSiO2光学薄膜の機械的特性、光散乱特性、親水性、多層膜化について、計4本の研究(東海大とシンクロンの共同研究)が紹介された。
 東海大の室谷教授は、スパッタリングと真空蒸着を同一真空容器内で同時成膜できる複合成膜装置を開発。この装置は、スパッタリングの長所と真空蒸着の長所を兼ね備えた膜が成膜できるというもので、機械的な特性(摩耗や剥がれ)が高く、屈折率1.33以下(~1.27)の膜が成膜できる。
 一般的に水の屈折率1.33より低い屈折率を示す光学薄膜は、ナノインプリントの剣山構造や斜め蒸着等で作製できるが、機械的な特性が弱く、擦ったり、超音波洗浄で剥がれたりしてしまうという欠点を持っていた。
 一方、複合成膜装置で成膜した膜は拭くことも超音波洗浄も可能であり、実用的な強度を有している。工業的に見て、SiO2膜で屈折率1.27 の実用的な機械的強度を示す膜を成膜できることには大きな意味があるとされている。以下に、当日のプログラムと各発表の概要を紹介する。

◆代表挨拶:室谷裕志氏(東海大)

◆複合成膜により成膜された低屈折率SiO2光学薄膜の機械的特性の評価:加藤寛康氏(東海大)
 水より低い屈折率の光学薄膜は、従来技術では十分な機械的強度が得られていないが、研究チームではこれまでRFスパッタリング法によって低屈折率SiO2光学薄膜の良好な機械的強度を実現していた。今回の研究は、これをさらに発展させDCパルススパッタリング法で実施したもの。先ず複合成膜装置を用いて500W、1000W、1500Wの各スパッタリング出力でSiO2光学薄膜を成膜、これらを分光光度計で測定したところ1.27~1.28という低屈折率を確認、さらにクロスハッチ試験、鉛筆硬度試験、耐摩耗試験、ナノインデンテーション試験等を実施した結果、実用上十分な機械的強度を持つ低屈折率SiO2光学薄膜が成膜されていることを確認した。

◆複合成膜により成膜された低屈折率SiO2光学薄膜の光散乱特性の評価:若宮大生氏(東海大)
 複合成膜法による低屈折率SiO2光学薄膜は、ポーラス構造を持つことで低屈折率化が実現されているが、研究チームでは構造に由来する光散乱が懸念されるとして、上述と同じ方法で低屈折率SiO2光学薄膜を成膜して光散乱が発生する要因を検討、最適な成膜条件を求めた。その結果、光散乱はミー散乱よりもレイリー散乱が主要であり、それが膜の柱の径と膜中の残留気孔によるものと推測、光散乱が増加しない最適成膜条件は、スパッタ出力をある程度高くする(1000W以上?)必要があるという結論を得た。今後は、前方散乱率の膜厚依存性から膜の成長モデルを検討するとともに、最適なスパッタ出力(1000~500Wの間に閾値が存在?)の検討を行う計画だ。

◆複合成膜により成膜された低屈折率SiO2光学薄膜の親水性について:伊藤睦記氏(東海大)
 親水膜は、優れた自浄効果や防曇性を持ち、自動車のミラーや光センサなどに用いられている。研究チームでは、複合成膜法による低屈折率SiO2光学薄膜は、その構造ゆえ高い親水性が期待できるとして、通常蒸着と複合成膜法で成膜されたSiO2光学薄膜の膜構造の違いによって生じる親水性を評価。その結果、複合成膜法によるSiO2光学薄膜は、通常蒸着に比べ高い親水性を示すことを確認した。そのメカニズムは、膜がポーラス構造になることで表面積が増え、水分子の吸着サイトが増加したことに加え、微細な細孔に水滴が入り込むことで親水性が発現されるというもので、実験では成膜から4カ月を経過しても高い親水性を示したという。

◆複合成膜により成膜された低屈折率SiO2光学薄膜の多層膜化について:室谷裕志氏(東海大)
 光学部品に用いられる光学薄膜には高度な光学特性や高い機械的耐久性が求められ、そのためには屈折率の制御が重要になるが、従来の方法では屈折率1.46以下で高い耐久性を有する光学薄膜の成膜は困難であった。研究チームでは、複合成膜による低屈折率SiO2光学薄膜は成膜条件によって屈折率を制御できるとして、この特性を用いて同一成膜装置内で屈折率の異なるSiO2光学薄膜を成膜、多層膜化の可能性を検討した。実験では、膜の屈折率を基板付近の真空度(ガス導入量)で制御して、下地とした1層目の低密度膜の上に2層目を成膜、その影響を確認したところ、1層目の低密度膜が低密度を維持していることを確認した。今後は、さらなる多層化を目指すという。

◆パネルディスカッション:司会/鬼崎康成氏(ケイワン)、パネリスト/室谷裕志氏(東海大)、秋葉正博氏(トプコン)、松本繁治氏(シンクロン)、瀧本昌行氏(昭和真空)、荻野吉平氏(ナガタ)、山口尚暁氏(メルクパフォーマンスマテリアルズ)
 半導体業界と光学薄膜、スパッタリング製品市場、真空プロセスを使わない光学薄膜、成膜工程における自動制御や自動反転の動向、洗浄技術、成膜材料、光学薄膜研究会への期待や意見など、事前に集計した質問に対し、各パネリストが回答・ディスカッションを行った。
 その一例を紹介すると、自動化の進展によって製造装置を買えば全て完成してしまうようになった時、日本サイドの対処法としては、それよりさらに一歩進んだ、常に最先端のものを追求していくことが求められるし、装置を買ったけれど分からない部分(技術的に面倒を見ないといけない部分)があるというのが理想的だとの見解が示された。全てデジタルではなく、どこかにアナログの部分を残しておき、コピーできないような形になっていることが肝要とのことだ。
 この他、研究会のオンライン化については、聴講者の殆どが懇親会にも参加しているというのが、これまで(新型コロナウイルス感染拡大前)の研究会のユニークな特長であり、その懇親会場で具体的な議論や情報収集、各種の相談といった「生」の情報が得られていることから、感染が収束した折には、従来方式である実際の会場を使用した研究会に戻して開催して行きたいという事務局の意向が示された。

今後の予定 
 同研究会では、第2回研究会を7~8月、第3回は11月12日、来年1月には泊まり込みでの第4回を予定しており、2月頃には見学会も検討している。オンラインにするかどうかは、新型コロナウイルスの今後の感染状況を見て判断したいとのことだ。詳細については、下記URLをクリックしてご確認願いたい。
http://www.otfse.org/index.html
(川尻 多加志)