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オンライン社会の実現を支える光通信技術
微小光学研究会、第156回研究会をオンライン開催

伊賀健一氏

October, 23, 2020, 東京--応用物理学会・微小光学研究会(代表:伊賀健一氏、写真:2018年12月撮影)の第156回研究会が10月14日(水)、オンライン開催された。今回のテーマは「オンライン社会を加速する光通信と微小光学」、急速に普及が進む社会のオンライン化に向け、期待を集める光通信技術の最新動向が紹介された。
 同研究会は1980年12月、微小光学研究の推進および微小光学技術の普及・発展をはかることを目的に応用物理学会・光学懇話会の中の研究グループとして発足、2015年1月には現在の名称になり、研究会や国際会議の主催・運営、広報活動、その他、同研究会の目的達成に必要な事業・活動を展開してきた。具体的には、今回のような研究会を年に4回開催、国際会議MOC(MICROOPTICS CONFERENCE)や微小光学特別セミナーなどを開催している。

プログラム
 光通信技術の進展によって情報通信社会は拡大しており、1波長チャネルあたり400 Gbpsという高速伝送方式もネットワークに導入され始めた。一方、新型コロナウィルスの流行をきっかけとして、日常生活におけるオンライン化は急速に普及し始めており、この流れは利便性や省エネという観点から今後さらに加速すると言われている。
 そのため、光通信分野においてはより高速の800Gbps~1Tbps伝送を可能にする光デバイス実現への期待が高まっている。さらには1.6Tbpsの標準化の議論もスタートし、10Tbpsを見据えた新たな国家プロジェクトも始まった。今回の研究会では、将来のオンライン社会実現を支える光デバイスや光通信システムに関する最新技術動向が紹介された。

 今回の研究会を企画した実行委員の高橋浩氏(上智大)は「イントロダクトリートーク」の中で、2019年11月から2020年5月までの僅か半年間で、国内のISPを流れるIPパケットデータ量(ダウンロード)が50%も増えたと指摘、コロナ終了後も遠隔医療など新しいオンラインサービスの普及によってネットワークの伝送容量拡大は必須であり、それゆえさらなる研究開発が求められると述べた。
 光強度が高くなれば、石英ガラス中の非線形現象によって波形は光ファイバ伝搬中に歪むので、自ずから光ファイバに入力できる光強度には上限がある。高橋氏は、同じ総光強度であれば多値化より帯域増の方が「お得」として、究極を求めるような場合はWDMやSDMのパラレル伝送が重要だと指摘した。
 その上で、すべての電子デバイスと光デバイスのさらなる高性能化(高速化・高効率化)、小型化・集積化(スペース確保と製造コスト削減)、省電力化(節電と発熱問題の解決)に加え、伝送空間の高密度化のためにはマルチコア/マルチモード光ファイバ、高周波伝送路、EMCを配慮した電子光混載高密度実装などが重要になると述べた。

 以下、今回の研究会で紹介されたデジタル信号処理、光ファイバ、光源、受光素子、光回路デバイス、電子および高周波の高密度集積・実装技術等に関する講演題目および概要と講演者の方々を記す。なお、各講演ともにその内容は非常に興味深く、すべてを詳しく紹介したいところなのだが、スペースの関係もあり、本稿では西山伸彦氏(東工大)による特別講演「10テラビット級低消費電力光デバイス開発への期待」を中心に紹介させていただく。

◆超広帯域デジタルコヒーレント伝送技術:小林孝行氏(NTT)
 1Tbps超の高速チャネル実現に向けた課題とキーテクノロジーに加え、最近の実験結果を紹介。実現にはシンボルレートの高速化と高次多値化が重要であり、アナログデバイスとデジタル信号処理の高度な融合によるDAC帯域拡張技術や集積化による送信光フロントエンドの広帯域化などが鍵になると指摘した。

◆高速光トランシーバーの最新標準化動向:磯野秀樹氏(富士通オプティカルコンポーネンツ)
 クライアントサイド(IEEE802.3)とラインサイド(OIF)の最近の標準化動向を紹介。400Gbps光トランシーバの実用化が進み、800Gbps、1.6Tbpsの検討が始まる中、そのフォームファクタもQSFP-DDやOSFP等が主流となり、COBOなどボード上に直接実装する形態の検討も進められているという。

◆大容量空間分割多重伝送用光ファイバーの最新動向:齊藤晋聖氏(北大)
 数モード光ファイバ/マルチモード光ファイバの進展には、伝送路中におけるモード依存特性のさらなる低減が求められると指摘。非結合型マルチコア光ファイバでは標準外径125μmの研究開発が加速しており、クラッド径を抑制しつつコア多重数を拡大できる技術開発が重要とした。結合型マルチコア光ファイバでは、群遅延広がりの制御技術の開発と多重数のさらなる向上が課題だという。

◆10テラビット級低消費電力光デバイス開発への期待(特別講演):西山伸彦氏(東工大)
 NEDOのエネルギー・環境新技術先導研究プログラム「異種材料集積による10テラビット級低消費電力光伝送デバイス技術開発」における研究を紹介。詳しくは次章を参照。

◆接合集積技術を用いた次世代コヒーレント光通信用デバイス開発:八木英樹氏(住友電工)
 Ⅲ-Ⅴ/Si直接接合技術を解説。μ-トランスファープリンティング法ではテーパ導波路を介したInP系層/Si導波路間の光結合と、接合後のⅢ-Ⅴ族エピタキシャル層への影響が少ないことを確認した。表面活性化接合法ではSiテーパ導波路上に直接接合されたInP系2段テーパ導波路で90%程度という高い光結合効率と、2段リッジ構造を有するⅢ-Ⅴ/Siハイブリッドレーザの室温CW動作を実現。Ⅲ-Ⅴ/Si直接接合構造による実効利得制御および高次横モードフィルタ効果を実証した。

◆多波長光源に向けた微小光共振器による光周波数コム:田邉孝純氏(慶大)
 マイクロコムの光通信応用について解説。超精密切削加工によって分散制御された高Q値WGM(Whispering Gallery Mode)共振を実現したMgF2微小光共振器やシリコンフォトニクスファウンダリを活用して作製したSi3N4マイクロリング共振器、さらにゾルゲル法を用いたEr-SiO2微小光共振器などを紹介した。

◆メンブレンレーザと大容量光通信への適用:松尾慎治氏(NTT)
 メンブレンデバイスは低消費電力・大容量伝送を実現するためのキーデバイスだとして、シリコン上メンブレンレーザやSiC上メンブレンレーザ、Ⅲ-Ⅴ位相変調器を用いたMZ変調器などを紹介。シリコンフォトニクス技術と融合させた大規模集積回路の作製は重要であり、PICの大規模化に伴い消費電力やクロストークといった電気回路が抱える課題の解決と集積方法の開発が鍵だと指摘した。

◆高速・高感度受光素子技術:吉松俊英氏(NTT)
 垂直入射型APDは光レシーバ内の光結合が容易で、半導体層構成を変えずに受光形状を変えることができるため多様な光部品に適用が可能と指摘。キャリアブロッキング効果を緩和するギャップグレーティング層の厚さを明らかにして、50Gbaud級の垂直入射型APDを作製・評価した。

◆異種材料集積を用いた超高速光変調器の展開:竹中充氏(東大)
 n型Ⅲ-Ⅴ族半導体薄膜を活用することで、自由キャリア吸収起因の光損失を減らしつつ、電気抵抗を下げて変調帯域を向上させることが可能と指摘。Ⅲ-Ⅴ族半導体中の電子誘起屈折率を変化させることで変調効率を大幅に改善するⅢ-Ⅴ/SiハイブリッドMOS変調器やInPスロット導波路にEOポリマーを組み合わせた超高速光変調器を紹介した。

◆超高速光伝送を支える高周波実装技術:高武直弘氏(日立)
 高速・高密度光モジュール向け高周波実装技術を解説。パッドやビアにおける特性インピーダンスに合わせて電気配線の特性インピーダンスを制御することで反射量低減が可能だと指摘、また高密度と低クロストークを両立させるために送受信間のグランド電極に微小ギャップを作製してクロストークを低減、これらを適用して高密度モジュールを試作、25Gbaud×4ch-NRZ伝送に成功した。

10テラビット級低消費電力光デバイスの開発への期待
 東工大の西山氏は特別講演の中で、現状の開発の流れから外挿すれば203X年に10テラ級というのはあながち可笑しな数字ではないとした上で、10テラビット級光トランシーバの開発は「光屋としての責任」だと述べた。
 Society5.0社会においては、膨大な情報のパーソナルカスタマイズ化が進むという。また、モバイルゲームや8K、VR/ARなどのサービスの普及によって、コンシューマ向け通信が総トラフィックの中で圧倒的シェアを占めるという先導研究での調査予測に対し、西山氏は新型コロナウィルスの影響によってビジネス分野においてユーザ側が在宅勤務やオンライン会議などに慣れたことでトラフィックはさらに急増するとし、今年がシンギュラリティになる可能性があるとの見解を示した。
 2030年代には6Gネットワークの導入・普及や、超広帯域を活用した分散コンピューティングによってクラウドに頼らないエッジサーバ群によるIoTの進化が予想されている。また、伝送速度が10テラビット級になればコンピューティングにおけるメモリの帯域幅とさほど変わらなくなるので、これまでのデータを動かさないコンピューティングからデータを動かすコンピューティングへのパラダイムシフトが起こるという。
 開発にあたっては、伝送速度はもちろん低消費電力化と低コスト化も必須条件になる。しかしながら西山氏は、現状では異種材料集積光通信デバイスの大量生産を可能とする技術も一貫ラインも存在しないし、光トランシーバの光回路とCMOS電子回路の一体設計の例も存在しないと指摘、フォトニクス業界が持つ技術の総力を挙げなければ、その実現は不可能だと警鐘を鳴らした。
 講演では異種材料集積技術を用いた光トランシーバチップのイメージが示されるとともに、西山氏の講演後に紹介されたプロジェクトで研究推進中のⅢ-Ⅴ/Siハイブリッド狭線幅レーザやⅢ-Ⅴ/Siハイブリッド光変調器についても紹介された。
 さらに、西山氏は異種材料集積技術における接合技術として、FAB(Fast Atom Beam)を表面に照射することでダングリングボンドを露出させ常温で接合する常温表面活性化ウェハ接合(Xe-FABにより90%以上の面積における接合が実現可能)や、ウェハに歪補償構造を導入したDirect Transfer Chip-on-Wafer Bonding(引張り歪を有する応力制御層によって接合強度向上を実証)を紹介。
 講演の最後には「さらなる将来に向けて」と題し、CMOSプロセスによる反射率可変ミラーと不揮発性スイッチを用いた光FPGA(Field Programmable Gate Array)と、低損失アモルファスシリコン積層と金属ミラーを利用することで多層間光高速信号を実現する3次元光回路を紹介した。

研究会の今後の予定
 次回の研究会は「ロボットと微小光学(仮)」をテーマに11月27日(金)、今回と同様にオンラインで開催される。また、新型コロナウィルス感染防止のため今年開催が中止となったMOCは、来年2021年9月26日(日)から29日(水)の4日間、アクトシティ浜松・コングレスセンター(静岡県浜松市)で開催される予定だ。詳しい情報は、下記の同研究会ホームページを参照されたい。
http://www.comemoc.com/

(川尻 多加志)