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光応用プロセスの先端技術とCOVID-19以降の世界を展望
光産業技術振興協会・多元技術融合光プロセス研究会、2020 年度第1 回研究交流会をオンラインで開催

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August, 31, 2020, 東京--光産業技術振興協会・多元技術融合光プロセス研究会(代表幹事:杉岡幸次氏<理研>:写真〈2019年撮影〉)の2020 年度第1回研究交流会が、8月25日(火)にオンラインで開催された。
 同研究会は、光源、光学系、材料、構造、形態、物理化学反応、前後工程、制御技術、計測・分析技術など、これまで出会うことのなかった多元的な技術を効果的に融合し、有効な光プロセス技術を開発するための議論の場を提供することを目的に、年度ごとに5回、斯界のエキスパートを招いて講演を中心とした研究交流会を開催している。
 今回の研究交流会では「光応用プロセスの基礎と先端技術」をテーマに、パデュー大の砂原淳氏による「レーザー生成プラズマの数値流体モデリング」、京大の野田進氏による「光を操る技術が未来を拓く」、慶大の小池綾氏による「金属3Dプリンタによる造形物の機能性デザイン -金属3Dプリンタの新応用法の提案-」、みずほ証券の山本義継氏による「COVID-19以降の世界 -「ヒトの移動」から「データの移動」へ-」の計4本の講演が行われた。

プログラム
 研究交流会は、代表幹事の杉岡氏の挨拶でスタート。杉岡氏は、研究交流会がオンラインに至った経緯を説明した。パデュー大の砂原氏が米国から講演するなど、オンライン開催ならではの利点が活かされた研究交流会となった。以下、各講演の概要をレポートする。

◆レーザー生成プラズマの数値流体モデリング:砂原淳氏(パデュー大)
 高強度レーザを物質に照射すると、加熱された物質は相変化を経てプラズマ化する。生成されたプラズマは流体力学的に多様なダイナミクスを示し、電子熱伝導や輻射輸送などのエネルギー輸送が生じる。講演では、レーザ生成プラズマのダイナミクスと、エネルギー輸送を数値的に解析する方法として放射流体シミュレーションが紹介された。
 砂原氏は、数値シミュレーションの最終目的は、必要な物理素過程をカバーする数理モデル・コードを構築して、物理的理解を深めつつ現象の再現と予測を行うことだと述べた。その上で、リアリスティックな状態方程式を用いた圧縮性流体の多次元計算法はこの15年で大きく進展、航空、宇宙・天文分野を始め、レーザ核融合や極端紫外光源(EUV)開発におけるシミュレーションの進化に貢献しているとした。
 砂原氏は、レーザ生成プラズマはレーザ、電子熱伝導、輻射輸送などのエネルギー輸送過程と結びついた圧縮性流体であるとして、プラスチックやカーボンなど原子番号Zが低い物質だと電子熱伝導がエネルギー輸送に効き、このZが大きくなるにつれ(スズや金などでは)輻射過程が効くようになると述べた。一方、鉄などの中Z物質では電子熱伝導と輻射輸送のどちらも無視できないという。この他、レーザ光においてもフレネル吸収や逆制動輻射における1次元光線追跡や2次元光線追跡など、レーザプラズマ生成の解析には多次元の計算が求められる。
 講演では、高Z物質であるスズに対するEUVプラズマシミュレーションの最近の精度向上と、中Z物質YSZ(Yttria Stabilised Zirconia)へのナノ秒レーザ照射によって出来るスポット周りの照射痕の起源がアブレーションプラズマからの輻射過熱だと解明できたことを報告、低Z物質であるシリコンへの(光渦レーザを用いた)Double well profileレーザビーム照射で出来るコーン形状の生成メカニズムについても解説した。
 砂原氏は、東工大の矢部孝氏が2003年に発表したレーザアブレーションプラズマの膨張・冷却過程を統一的に解析した計算手法「CIP法」を超える非圧縮・圧縮統一解法が必要だと指摘、今後はレーザ加工のシミュレーション実用化に要求される精度を目指し、モデル精度の向上と課題の克服を行っていくとした。

◆光を操る技術が未来を拓く:野田進氏(京大)
 フォトニック結晶・フォトニックナノ構造を活用した、光・量子を自由自在に操る技術でSociety5.0の実現に貢献すると述べた野田氏は、スマートモビリティやスマート製造で注目を集めるフォトニック結晶レーザ技術、環境センシングや高効率熱光発電を可能とする熱輻射制御技術などを紹介した。
 フォトニック結晶は、高いビーム品質や極めて狭いビーム拡がり角という特長に加え、対称なビーム形状を有しているので高輝度動作が可能だ。また、発振波長が単一で温度変化が小さいので複雑なレンズ系や精密調整が不要で、そのため部品数を大幅に削減でき、装置の小型化・低コスト化を実現できる。さらに狭帯域フィルタが利用でき、信号対雑音比も高いのでローノイズ動作が可能で、スマートモビリティの発展に大きく寄与すると注目されている。
 講演では、独自の2重格子フォトニック結晶によって、高いビーム品質で10W級の動作を実現した成果が紹介された。30m離れても~5cmという狭いビームスポットを得ることができ、レンズフリー動作を可能にする。実際LiDARに搭載して、その簡素化・小型化を実現した。この他、複合変調フォトニック結晶の概念を導入して、出射したい光の方向情報を持たせたフォトニック結晶も作製、様々な方向にビームを出射できる10×10のマトリックスアレイ化チップの作製にも成功した。
 スマート加工への展開としては、2重格子フォトニック結晶をさらに深化させ、トポロジーの最適化によるディラック点の形成により、直径3mm~1cmのコヒーレント動作で100W~kW級の高ビーム品質をワンチップで動作できる長さ10cmのレーザシステムが紹介された。システムの大幅な簡略化、小型化および高効率化(<50%)が期待でき、ロボットの手に乗る加工システムを可能にするという。
 エネルギー・環境応用としては、熱輻射制御と高効率太陽光発電への展開が紹介された。エネルギーロスがなく、広いスペクトルを狭いスペクトルに圧縮し、かつ非常に速い変調ができるというもので、高効率熱光発電の他、環境やバイオセンサへの応用が期待されるという。高速熱輻射制御では、熱輻射の元になるキャリアを引き抜くという新たな概念が導入された。
 野田氏は、京大SIP光・量子拠点を介して、国内外のセンサ、医療応用など、幅広い分野のユーザ企業との連携やフォトニック結晶の提供を拡大化するとともに、商社等をも窓口として新たなユーザとの連携も推進すると述べた。MTA(試料提供契約)を介して、サンプル提供も可能とのことだ。

◆金属3Dプリンタによる造形物の機能性デザイン -金属3Dプリンタの新応用法の提案-:小池綾氏(慶大)
 3D プリンタは、その応用範囲を金属材料にまで拡げ、急速に産業応用が進んでいる。講演では、金属3D プリンタの一方式である指向性エネルギー堆積法(DED:Direct Energy Deposition)を用いて、材料配合比の調整や再入熱処理の応用といった3Dプリンタだからこそ実行可能な機械強度調整、傾斜機能材料やポーラス金属といった機能性材料生成に関する技術が紹介された。
 DEDは、加工点をレーザによって加熱して、材料粉末を吹き付けることで凝着させる付加加工法。厳密な密閉機構を必要とせずシステムが簡潔で造形効率が高く、比較的高密度な造形が可能だ。その一方で、加工結果の予測が難しく、理論解析を行うには熱流体力学や光学、材料力学などを含めた高度な練成解析が必要とされ、解析的・理論的アプローチによる付加加工技術の造形条件最適化法の開発が求められてきた。
 研究グループでは、金属造形物の結晶成長制御研究において、再溶融処理が(機械的強度の低下原因である)空孔の発生率低減に寄与することと、結晶成長方向を制御することで表面硬度を最大17%向上できることを確認。また、傾斜機能材料造形の研究においては、2種類の材料粉末の配合比を変えながら造形することで傾斜材料を造形できることを実証した。機能性についても連続的に変化させられるという(その場合は温度変化に注意が必要とのこと)。
 空孔を大幅に増やすことで軽量性や吸音性、衝撃吸収性、断熱性などを向上させることができるポーラス金属部品造形の研究においては、ステンレス鋼のような発泡しにくい金属でも、DEDで発泡剤を応用した場合、最大61%もの空孔率を実現。ブロック形状で実験したところ、通常積層のステンレス鋼と比べ7.7倍という高いエネルギー吸収量の実現に成功した。

◆COVID-19以降の世界 -「ヒトの移動」から「データの移動」へ-:山本義継氏(みずほ証券)
 新型コロナウィルス・COVID-19の影響は、人々の働き方のみならず生活のあり方にまで大きな変化をもたらすと言われている。半導体業界のアナリストである山本氏は、「ヒトの移動」から「データの移動」へ、というキーワードをもとに、今後の半導体、電子機器の世界がどのように変化して行くのかを広く考察した。
 これまでの社会は、「ヒト」が乗り物などを使って移動することで成り立ってきた。それが半導体技術の進展で、今後は「ヒト」の移動する必要性は低くなり、代わりにデジタル化された「データ」が移動することで社会が成り立っていく。「ヒトの移動」から「データの移動」の時代が到来する。
 半導体業界では、第二の成長サイクルが始まるという。日本の電機業界を振り返れば1969年以降、TV、VTR、PC、Mobileという製品が15年サイクルで相対株価を決めてきた。そして、それが60年続いてきた。これらの製品は、あくまで「ヒト」を対象とするものであった。山本氏は次の60年は、「マシン」を対象とした第二の成長サイクルがやって来ると予測する。自動運転、IoT、ビッグデータ、AI、AR、VR、5Gなど、「ヒト」の認知機能を超える「マシン」こそが、成長を決める時代になるというのだ。
 半導体の技術進歩を享受する対象も「ヒト」から「マシン」へ変わる。そこではオーバースペックからの解放が起こるという。「ヒト」が対象の場合、一定のスペックまでは性能と価格が上昇するが、「ヒト」の認知能力を超えるスペックに達すると、それ以上の性能ではなく製品価格の下落が求められる。一方、「マシン」が対象の場合は、「ヒト」の認知能力を超える「マシン」の認知能力がベースになるので、必要なスペックは格段に上がり、性能と製品価格は上昇していく。
 では、そのコストは誰が負担するのか。これまではコンシューマであった。今後は、それが企業ユーザになるという。「マシン」の認知能力が向上するに従って、製品価格が上昇するとなれば、当然コスト削減は重要となる。そこで求められるのが共有という概念だ。データセンタにおけるパブリック・クラウドによって、各企業ユーザが性能・スペックを共有して、コスト負担を減らしていくという仕組みが必要とされる。
 技術的に要求されるのがデータセンタ内の高速化だ。急速に伸び続けるIPトラフィック量は、データセンタ内が75%を占め、10%はデータセンタ間だという。コンシューマ向けは15%に過ぎない。技術トレンドは、サーバ、スイッチ、ルータ等が今後PCIe(Peripheral Component Interconnect-Express)5.0で400GbEに移行、パッケージもEMIB(Embedded Multi-die Interconnect Bridge)に、DRAMもHBM(High Bandwidth Memory)に移行していくという。
 山本氏は「データの移動」の本質的な課題は「データの移動」に要するエネルギーを如何に下げるかだと指摘した。さらに、日本企業がMPUやGPUといった半導体デバイスサプライヤとして海外勢に対抗していくのは難しいものの、技術のユーザ側としてのメリットは活かす事ができると述べていた。

次回のテーマは「新レーザー・光源」
 次回研究交流会は9月7日(月)、「新レーザー・光源」をテーマにオンラインで開催される予定だ。バーチャル見学会と称して、SPring-8やSACLA、レーザー加速プラットフォームなどの案内も行われる。最新情報は、以下の同研究会ホームページを参照。
http://www.oitda.or.jp/main/study/tp/tp.html
(川尻 多加志)