コヒレント特設ページはこちら

国内リポート 詳細

話題のレーザにフォーカス、先端レーザーセミナーで最新動向が明らかに
グリーンレーザ、ブルーレーザ、VCSELに高い関心集まる

February, 27, 2020, 東京--グリーンレーザ、ブルーレーザ、VCSELなど、注目が集まるレーザにスポットライトを当てた「先端レーザーセミナー」が1月31日(金)、東京ビッグサイト(東京都江東区)において開催された。本セミナーは、前回レポートでも取り上げた「All about Photonics 2020」の併催セミナーとして開催されたものだ。
 セミナーでは、トルンプの中村洋介氏(インダストリーマネージメント)による「グリーンディスクレーザ技術とアプリケーション」、レーザーラインの武田晋氏による「産業用ブルーレーザ及びダイレクトLD発振器の最新動向」、さらにリコーの石井稔浩氏(ヘルスケア事業本部)による「VCSELによる脳機能計測の高精度化」の計3本の講演が行われ、注目を集めるこれらレーザ技術に関する最新動向が紹介された。

グリーンレーザVS.ブルーレーザ
 トップバッターは、トルンプの中村洋介氏(写真)。「グリーンディスクレーザ技術とアプリケーション」の最新動向について解説した。自動車の電動化とIoTの急速な進展によって、自動車における電気部品の使用量は増え続けており、それに伴い銅材料の加工需要も急増している。
 レーザ加工は非接触加工という特長を有しており、すでに多くの産業において生産の自動化に大きく貢献しているが、一方で現在主流であるYAGレーザの基本波長1030~1070nm帯は、銅材料の吸収率が非常に低いため、加工効率や加工安定性の点で問題を抱えていた。これに対し、その第2高調波を用いたグリーンレーザは、銅材料の吸収率が40%程度と高く、その開発の進展が各方面より注目を集めている。
 同社のグリーンディスクレーザは、ダイオードレーザ励起のYb-YAGレーザ(1030nm)の第2高調波(515nm)を使用しており、内蔵されているディスクの大きさは1円玉程度、厚さは100μm程度だ。熱レンズ効果の影響が抑制できる他、高出力、高パルスエネルギー、高ビーム品質、高エネルギー変換効率という特長を有し、戻り光の影響もない。
 溶接スポット径に関係する(高いエネルギー密度を作ることができる)コア径50~150μmの光ファイバに導入でき、スパッタレス溶接とスタック溶接における加工深さの制御も可能だ。同社では、ラボレベルですでに5kW級のCWレーザを完成させており、現在ランニング試験中だという。コア径100μmの光ファイバに導入でき、銅粉末を用いた3Dプリンタに応用できるとのことだ。

 一方の青色半導体レーザの波長450nmも、高反射材料への吸収が非常に高いので加工性が良く、こちらは高調波発生が不要で、電流を流すだけで直接高出力CW発振ができる。レーザーラインの武田晋氏は「産業用ブルーレーザ及びダイレクトLD発振器の最新動向」において、青色半導体レーザの特長とその応用について解説した。
 同社の半導体レーザのコア技術が、モノリシックリニアアレイLD「LDバー」だ。独自のヒートシンクデザインを採用することで、実データ予測寿命50,000時間以上を実現した。さらに、光通信用LDと同等のソルダリング技術で、LDの突然死の低減や長い平均故障時間および長寿命化を達成。同社のダイレクトLD発振器は、このLDバーを積層(スタック)化して、ここから発振するレーザ光を直接集光するという仕組みで、スパッタレス溶接を実現する。
 発振器に複数のスタックを搭載することで、特定スタックに不具合が起こった場合、直ちにそのスタックをオフにして、残りのスタックで発振出力を持続、加工を継続できるマネージメントシステムも採用しており、用途に合わせたビーム径状のカスタマイズも可能だという。講演では、青色半導体レーザと赤外レーザを組み合わせてハイブリッド加工ができるシステムも紹介された。スパッタレス溶接とキーホール溶接の両方の長所が良く表れた結果が得られたとのことだ。
 武田氏は、キロワット級のブルーレーザ発振器の市場投入によって、銅材料など高反射材への新しい加工や短波長による吸収率向上で各種金属材料へのレーザ加工適用が進展すると指摘、2kW級のブルーレーザを今年市場投入すると述べた。

VCSELと脳機能計測
 最後は、リコーの石井稔浩氏が「VCSELによる脳機能計測の高精度化」について紹介、VCSEL(面発光レーザ)による高精度光学技術が切り拓く脳神経疾患診断の最新の研究動向と将来展望について解説した。
 VCSELは、基板面に対し垂直にレーザ光が放出され、2次元集積が可能、円形で放射角の狭いレーザ光が得られ、集積高出力化が有利といった特長を有している。近年、スマートフォンの顔認証やLiDARを始めとした様々な3D計測、プリンタ用紙銘柄判別センサへの応用の他、レーザ点火プラグや超小型原子発振器、アイトラッキングなどへの応用研究も進められている。石井氏は講演で、VCSELを用いた近赤外光による脳機能計測(fNIRS:functional near-infrared spectroscopy)を解説した。
 認知症やうつ病、てんかん、発達障害など、脳に関する病気の検出に重要な役割を果たすとfNIRSは注目を集めている。しかしながら、fNIRSは簡便に脳計測ができるものの空間分解能に問題があった。同社ではVCSELの強みであるマルチビームを利用して、計測情報量を16倍に向上させるとともに、5mmという高精度空間分解能を実現。高密度プローブの試作に必要なVCSELの高精度実装や、MEMS治具を利用した微小レンズの高精度実装工法の開発にも成功した。講演では逆問題推定を行う際に必要な生体のモンテカルロシミュレーションや疑似生体(ファントム)実験、さらにはヒト計測の結果なども紹介された。
 石井氏は、今後BMI(ブレインマシンインターフェイス)への展開を進めたいと抱負を述べるとともに、VCSELは新しい応用の拡がりを見せており、脳機能計測に応用することで、疾患を含めたより多くの利用シーンが期待できると述べた。
(川尻 多加志)