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フォトニクス分科会セミナー、InterOpt 2020で開催
量子情報とファイバーレーザの最新動向にスポットライト

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February, 10, 2020, 東京--1月31日(金)、東京ビッグサイト(東京都江東区)において応用物理学会(応物学会)フォトニクス分科会セミナーが開催された。このセミナーは、1月29日(水)から31日(金)までの3日間、同展示会場で開かれた「InterOpto」、「LED JAPAN」、「Imaging Japan」の3展示会で構成される最先端フォトニクス技術・製品総合展示会「All about Photonics 2020」の中の特設会場で開催されたものだ。
 今回テーマに取り上げられたのは、今後の応用が期待される「量子情報とファイバーレーザー」。その最新動向にスッポトライトが当てられ、応用の可能性や将来展望が示された。
 なお「All about Photonics」は、今回より開催が10月から1月に変更され、それに伴い「nano tech」や「MEMS SENSING & NETWORK SYSTEM」の他、「SURTECH」、「ASTECH」、「tct JAPAN」など、数多くの展示会と同時開催される形となった。

フォトニクス分科会とその活動
 フォトニクス分科会(幹事長:物質・材料研究機構・栗村直氏〈写真〉)の前身である光学懇話会が応物学会の中に設立されたのは1952年4月、すでに70年近くの歴史を有している。その間、名称を日本光学会に変更して、2015年には組織改編でフォトニクス分科会となり、現在に至っている。
 同分科会は、応物学会最大の分科会(会員:約800名、賛助会員〈企業・団体〉:36組織)。光渦や光コムといった光自体の特性を追求する科学領域と、非線形結晶やフォトニック結晶など、物質構造を光で制御する工学領域のそれぞれの知見と技術を駆使しながら、分析、制御、加工、表示、バイオ、医療などの分野横断的な新規応用展開を目指して活動を続けている。さらに、研究の推進および技術向上を図るため、各種講演会や討論会、シンポジウム、チュートリアルなども開催、フォトニクスニュースレターの発行といった広報活動にも力を入れる一方、学術的価値の高い論文に対してはフォトニクス奨励賞の授与も行っている。
 最近の関連シンポジウムでは、昨年9月に秋の応物学会シンポジウムとJSAP(応物学会)‐OSA(米国光学会)ジョイントシンポジウムを開催、今年1月にはレーザー学会とのジョイントシンポジウム、さらに若手の育成・交流促進のため、昨年11月に沖縄でフォトニクスワークショップを開催するなど、積極的に活動を続けている。
 今回の「InterOpto」セミナーは、学術界と産業界の橋渡しを目的に開催されるもので、近年注目を集める量子情報とファイバーレーザに関し、この分野における研究の第一線で活躍するエキスパートによる(以下の)講演3本が行われた。

①光・フォトンを制御する非線形光学効果:物質・材料研究機構(NIMS)栗村直氏
②広帯域・超短パルスファイバーレーザーが拓く未来:名古屋大学 西澤典彦氏
③量子インターネットとフォトニクス:大阪大学 山本俊氏

研究開発の最前線
 古典的な波動光学から量子効果を取り入れたフォトンという概念の提唱から早や1世紀。量子化されたエネルギーを有するフォトンは、物質の光学非線形性を介してエネルギーや位相をやり取りし、今ではこれを利用した光による光の量子状態制御などの技術が実証されつつある。
 フォトニクス分科会幹事長でもある、NIMSの栗村直氏は、自身の講演「光・フォトンを制御する非線形光学効果」の中で、同分科会とその活動状況を紹介するとともに、非線形相互作用を発現させる手法として、導波路を始めとしたフォトニクス技術が果たす役割について紹介した。さらにフォトンを量子ビットとして利用する量子情報分野への展開について、世界動向を含めながら解説した。
 米国や中国、EUなど、各国で量子プロジェクトが進められる中、米国では5年間で1,400億円、中国も5年間で1,200億、年間240億から280億円もの資金が投じられる計画が立ち上がっている。この他にもEUは10年間で1,250億円、ドイツは4年間で860億円、英国は5年間で390億円と、各国とも巨額の予算を投入する。これに対し、我が国のこれまでの予算は15年で150億円(光子系のみの予算)と言われ、テーマについても各省庁がそれぞれでプロジェクトを立ち上げるなど、一体感に欠けるといった声も上がっていた。そこで、政府は量子イノベーション戦略を昨年立ち上げ、①量子コンピュータ・量子シミュレーション、②量子計測・センシング、③量子通信・暗号、④量子マテリアルの四つの技術領域に注力して研究を推進して行く計画を打ち出した。
 栗村氏は、非線形光学の原理に加え、量子テレポーテーションを実現する相関光子対の発生や量子雑音を低減するスクイージング、さらに量子計算の原理と超高速並列演算への応用にも触れ、量子干渉性の確認方法としての相関測定における破壊的干渉についても解説した。
 非線形光学の最先端としては、疑似位相整合と分極反転について紹介。特に分極反転では、その比率や周期、位置によって光の振幅やスペクトル、位相を変調できることから、設計自由度の高いデバイスが作製でき、相関光子対の帯域制御へ使用するためのデザインとして、スペクトル拡散や群速度整合型疑似位相整合、周期チャープ疑似位相整合について解説した。量子暗号通信に応用する偏光制御相関光子対については、デザインとして導波路を採用、4600%/Wという高効率記録を達成したという。
 栗村氏は、非線形光学技術は量子光学領域で有効に使われているとして、今後は多くの光源が実現できるのではないかと述べ、講演を終えた。

 続いて「広帯域・超短パルスファイバーレーザーが拓く未来」を講演した名大の西澤典彦氏は、ファイバ非線形効果をキーワードに、高機能な超短パルスファイバレーザの開発やその応用展開について解説した。
 光ファイバは、小さなコア内に光を長い距離で閉じ込めることができるので、最も有効な非線形光学デバイスの一つとされている。この非線形ファイバ効果を用いて、超短パルスファイバレーザや超広帯域なスーパーコンティニューム(SC)光源などが開発され、超高分解能OCT (光コヒーレンストモグラフィ)や光周波数コムの実現に繋がって行った。
 西澤氏は、SWNT(単層カーボンナノチューブ:直径1.2nm)を用いたErファイバレーザで出力216mWを達成したことや、2μm帯のTm添加超短パルスファイバレーザ(直径1.6nmのSWNTを使用)、すべて偏波保持ファイバで構成したFigure 9ファイバレーザについて紹介。光ファイバの非線形性を用いた波長可変超短パルスレーザの研究開発では、入射光強度の変化に対し波長を連続的にシフトさせて世界最速を実現するとともに、この発展形として櫛状分布ファイバを用いた広帯域波長可変狭線幅光源も開発、この他にも高精度なSC光源を大学発ベンチャーで製品化、浜松ホトニクスと共同で量産化を進めている。
 一方、超短パルスファイバレーザを用いた光周波数コム光源の研究開発においては、高精度な周波数安定化を実現した全偏波保持光周波数コム光源を紹介。さらにSWNTを用いた全偏波保持デュアルコムファイバレーザや、Yb添加ファイバレーザと差周波混合によるMIR(中赤外)コムも開発して、二酸化炭素同位体である14Cの高分解能分光や創薬応用を目指している。
 OCTは高感度・高分解能計測が可能で、かつ非破壊・非接触計測が実現できると、眼科や呼吸器内科での適用に加え、バイオイメージングへの応用も期待されている。一方、近年では波長1.7μm帯が第3の光の窓と注目を集める中、西澤氏は高繰り返しSWNTファイバレーザを用いた1.7μm帯の高出力SC光の生成に成功、1.78mmの深さ計測を実現した。さらに分解能を上げ、高深達性を実現したOCM(光コヒーレンス顕微鏡)の研究開発も進めているという。

 「量子インターネットとフォトニクス」を講演した阪大の山本俊氏は、量子インターネットで様々な量子系を地球規模で繋げるには、フォトニクス技術をベースとした光ファイバネットワークでの量子中継の実現が重要だと述べ、世界動向を含めた量子インターネット研究の最新動向を紹介した。
 量子インターネットとは、様々な量子系が地球規模で繋がった万能な量子ネットワーク。量子中継器や量子コンピュータといった量子情報処理ノードと、エッジには量子通信路(光ファイバなど)が用いられる。任意で複数のノード間にエンタングルメントを生成することで、無条件で安全な量子暗号、量子テレポーテーション、離れた原子時計の超精密同期、超長基線望遠鏡、クラウド量子計算、量子コンピュータネットワークなどの応用が可能になる。世界では、衛星量子通信実験を行った中国を始め、EUのQuantum Internet AllianceやQuantum Software Consortium、米国のNational Quantum Initiative Actなどでプロジェクトが進行中だ。
 量子インターネットになぜフォトニクスなのか?答えは、光周波数領域では室温でも熱雑音を無視できるからだ。室温環境で忠実な光子の状態生成・状態走査・光子検出ができ、長時間保持/長距離通信も可能とされている。光源には、微弱レーザ光や光パラメトリック変換、単一光子源(量子ドット、単一イオン/原子)などが使われるが、最近では集積化光源に注目が集まる。量子光回路もバルク光回路から集積光回路に移行している。光子検出器は、半導体光子検出器(Si-APD、InGaAs-APD)や、昨今では高効率の超伝導光子検出器(SSPD〈超伝導単一光子検出器〉/SNSPD〈超伝導ナノワイヤ単一光子検出器〉、TES〈超伝導転移端センサ〉)などが用いられている。
 現状の課題は、光子損失が原因で長距離通信が難しいことだ。原因は、①量子状態を壊してしまうので光増幅器が利用できない。②光ファイバの透過率が指数関数的に減少してしまう。③光子検出器にはダークカウントが存在しSNが制限される等々で、そのため送信は数百kmが限界と言われている。そこで量子中継が必要となる。キーデバイスは量子メモリだという。
 講演では、山本氏が研究を進めている冷却Rb原子とQFC(量子周波数変換器)を用いた、原子と通信波長光子のエンタングルメント生成やイオントラップを用いた研究の他、共振器構造PPLN(周期分極反転ニオブ酸リチウム)による1400モードの周波数多重光子対光源、さらに全光量子中継の実証実験などが紹介された。

 我が国のフォトニクス技術と関連産業発展のため、フォトニクス分科会を始めとした関連学会が果たす役割は大きいはずだ。ところが、経済的に余裕がなくなったのか、その活動に対する理解は必ずしも十分とは言えない。厳しい状況の中で、学会活動をボランティアで支える方々に敬意を表するとともに、学会や研究会とその活動に対する理解が深まることを切に期待する。
(川尻 多加志)