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応用の拡がる偏光計測技術
日本光学会 偏光計測・制御技術研究グループ、第15回偏光計測研究会を開催

December, 17, 2019, 東京--12 月 6 日(金)、国際画像機器展開催中のパシフィコ横浜・アネックスホール(横浜市西区)において、日本光学会 偏光計測・制御技術研究グループ(代表:宇都宮大・大谷幸利氏〈写真〉)主催による第15回偏光計測研究会が開催された。同研究グループは、エリプソメトリーやポラリメトリーに代表される偏光応用の計測・制御・解析技術に関する議論・情報交換を通じ、我が国における同技術領域の活性化とレベル向上を目指すことを目標に活動を続けている。
 近年、偏光計測・制御の基礎技術は飛躍的に進歩し、その応用分野も急速に拡大している。エリプソメトリーは、半導体や光学薄膜などの精密計測の他、有機デバイスやバイオサイエンス、太陽電池などの研究開発や評価に積極的に用いられるようになり、ポラリメトリーは光デバイスの精密検査から生体計測、コンピュータビジョンに至るまで、幅広い応用が開拓されつつある。
 同研究グループは、分野横断的な議論の場として、東北大の山本正樹氏の呼びかけによって2007年の11月、任意団体「偏光計測研究会」として設立・スタート。2010年4月には、日本光学会「偏光計測・制御技術研究グループ」と名称を変更するとともに、公的な立場で再出発、学術、産業の枠を超えた討論の場、応用分野を問わない「偏光」をキーワードにした情報交換の場として基本的に年2回、エリプソメトリーやポラリメトリーに代表される偏光を用いた計測技術および偏光関連技術に関する議論と情報交換の場として「偏光計測研究会」を開催している。
 研究会は、最新の研究成果のみならず、測定技術、解析技術、理論等についてのチュートリアルやレビュー、研究動向報告などをテーマに開催されており、偏光計測を開発・提供している人はもとより、偏光計測をユーザーとして利用している人の技術交流の場となってきた。研究グループでは、開催の度に参加者数は増え続け、学界および産業界で広く認知されるようになってきたと述べている。主なトピックスは、偏光計測に関する装置開発、計測技術、較正技術、解析技術、応用技術などで、計測対象は、薄膜、半導体、液晶、有機材料、バイオ材料など、幅広い。

研究会プログラム
 今回の研究会は、川畑州一氏(東京工芸大)の「イントロダクトリートーク」に続き、招待講演として、新しい偏光デバイスとして期待されるナノ粒子を混在したワイヤーグリット偏光子、安価なおもちゃ顕微鏡を使った有機結晶成長の偏光観察、エリプソメトリーに応用可能なキャリブレーションをしながら偏光計測を行う二重回転素子偏光計測法、さらには昨今注目されている偏光カメラによってすべてのストークスパラメータをイメージングする技術などが紹介された。招待講演の後は、一般講演としてRCWA(Regorous Coupled Wabe Analysis)を用いたワイヤグリッド偏光板と波長板の数値解析や遠赤外線偏光イメージングに関する講演も行われるなど、偏光計測技術とその応用に関する最新のトピックスが紹介された。以下、今回のプログラムといくつかの講演の概要をレポートする。

「イントロダクトリートーク」川畑州一氏(東京工芸大)
【招待講演】
「ナノ粒子を混在したワイヤーグリット偏光素子」穂苅遼平氏(産総研)
「おもちゃ顕微鏡を使った有機結晶成長の偏光観察」田所利康氏(テクノ・シナジー)
「二重回転素子偏光計測法」川畑州一氏(東京工芸大)
「フルストークス偏光カメラの開発」大谷幸利氏(宇都宮大)
【一般講演】
「RCWAによるワイヤグリッド偏光板、波長板の数値解析」北村道夫氏(シンテック)
「遠赤外線偏光イメージング」ネイサン・ヘーガン氏(宇都宮大)

偏光計測技術のトピックス
 基礎研究が製品化に至る間には、「魔の川」、「死の谷」、「ダーウィンの海」など、立ちはだかる三つの壁を乗り越えて行かなければならないと指摘した東京工芸大の川畑氏は「イントロダクトリートーク」の中で、偏光計測分野においても「大学と企業でオーバーラップする部分は、試作・開発において双方が連携することで、より発展することができるはずだ」と指摘した。
 続く招待講演一番手の産総研・穂苅氏は、「ナノ粒子を混在したワイヤーグリット偏光素子」において、ナノ印刷技術を用いた低反射率・高耐久性ワイヤグリッド偏光シート(偏光度99%超、反射率3.6%)や高透過率・高導電性メッシュフィルム(透過率83%、シート抵抗5.1Ω/sq.)、光メタマテリアムおよびナノコンポジットメタマテリアムなどを紹介。他の技術では実現が難しいような、微細構造を利用した光学素子の高機能化を目指すとともに、新しい提案ができるよう研究開発を進めて行きたいとも述べていた。
 偏光顕微鏡は、高価で個人が結晶観察を楽しむには敷居が高いと指摘するのは、テクノ・シナジーの田所氏だ。「おもちゃ顕微鏡を使った有機結晶成長の偏光観察」では、多くの人に偏光顕微鏡を使った結晶成長観察の楽しさ、色彩の美しさを体験してほしいと、1500円で購入できるおもちゃ顕微鏡とスマートフォンを組み合わせ、誰でも安価に組み立てられる透過偏光顕微鏡を紹介、これを用いた有機結晶成長の美しい観察写真を披露、実演も行って見せた。
 偏光カメラを用いたストークス・パラメータイメージング法について解説した宇都宮大の大谷氏は、「フルストークス偏光カメラの開発」において、ワイヤグリッドとフォトニック結晶を用いた偏光カメラを比較した場合、ワイヤグリッドの方が優れた特性を示し、消光比は250:1になったと報告。大谷氏は、2台の偏光カメラを用いてフルストークス・パラメータのスナップショット測定を実現するとともに、無偏光ビームスプリッタと1/4波長版の残留偏光特性を補正することで精度を上げ、計測速度を従来法の6倍向上させることにも成功した。

今後の研究会
 次回の第16回研究会は、2020年6月26日(金)に東京都立産業技術研究センター(東京都江東区)で、第17回研究会は12月4日(金)、今回と同じく国際画像機器展開催中のパシフィコ横浜で開催される予定となっている。詳しい情報は、下記ウェブサイトに掲載されるので参照されたい。
http://www.otanilab.org/psi/index.html
(川尻 多加志)