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進化する生体イメージング技術とCMOSイメージセンサ
映像情報メディア学会・情報センシング研究委員会が11月研究会を開催

November, 21, 2019, 東京--11月 8日(金)、東京理科大・森戸記念館(東京都新宿区)において、映像情報メディア学会・情報センシング研究委員会主催の11月研究会「医療における新しい生体イメージング技術と最新CMOSイメージセンサ技術」が開催された(共催:日本光学会・情報フォトニクス研究グループ・フォトニック生体情報センシングワーキンググループ)。

映像情報メディア学会
 映像情報メディアは、メディアの中核を担うものとして、映像に関わる機器、システム、方式など、広範な領域の学問、技術を含む総合技術。同学会は、映像情報メディアに関する学理および技術の進歩向上と普及を図ることで、我が国における映像情報メディアの発達に寄与することを目的として、近年ではコンテンツに関する技術も取り込んで活動を続けている。
 その歴史は古く、昭和8(1933)年に設立された日本テレビジョン学会を母体として(昭和12〈1937〉年に一度解散)、昭和21(1946)年にテレビジョン同好会、昭和25(1950)年にテレビジョン学会、平成8(1996)年に映像情報メディア学会と、名称を変更して現在に至っている。
 その傘下には、情報センシング研究委員会、情報ディスプレイ研究委員会、マルチメディアストレージ研究委員会、放送技術研究委員会、ヒューマンインフォメーション研究委員会、メディア工学研究委員会、映像表現&コンピュータグラフィックス研究委員会、アントレプレナー・エンジニアリング研究委員会、立体映像技術研究委員会、スポーツ情報処理時限研究会などの研究会があり、それぞれが活発に活動を行っている。

情報センシング研究委員会
 今回の研究会を主催した情報センシング研究委員会(委員長:金沢大理工研究域教授・秋田純一氏)が取り扱う分野は、画像および関連する空間情報の入力・処理に関わる技術などで、画像入力関連材料・加工プロセス、不可視・超高速撮像技術、電子ビーム応用・特殊管、テレビカメラ、デジタルカメラ、スキャナなどの画像入力装置、3次元画像入力・距離計測レンジファインダ、インテリジェントセンサ、色情報処理、CCD・CMOSなどの撮像デバイスと要素技術、物体認識、指紋認証などの各種センサ、撮像方式、撮像関連画像処理、視覚・感覚デバイス、マルチメディア画像入力など、多岐に渡っている。基本的に、月に1回の研究会を開催している。

生体イメージング技術とCMOSイメージセンサ
 研究会は、担当幹事の香川景一郞氏 (静岡大電子工学研究所・准教授〈写真〉)の挨拶でスタート、医療現場のニーズに応える最先端の生体イメージング技術と、この生体イメージングを変革する可能性を秘めた最先端CMOSイメージセンサ技術に関する研究成果が報告された。以下、プログラムとその概要をレポートする。

招待講演「放射線科からのニーズとイメージセンシング~血管外漏出検出を含めて~」中村和正氏(浜松医科大医学部)
 点滴や静脈注射など、血管内に薬液を注入する医療行為は日常的に行われているが、薬液の血管外漏出は頻繁に発生しており、時には重篤な有害事象を引き起こすという。特に、放射線科領域では造影剤の注入漏れや核医学検査・治療薬の漏れなどが問題となるが、この血管外漏出を検出する技術は十分には確立していないと言われている。中村氏は、4タップCMOSイメージセンサを用いた近赤外イメージングシステムを紹介するとともに、放射線治療において、治療計画時に取得した体表面の3次元情報を治療の時同じ体位に合わせる技術、Surface guided radiation therapyを紹介した。TOFカメラや3次元計測小型カメラ、サーモグラフィなどが使用されているとのことだ。

招待講演「マルチスペクトルイメージングの外科手術ナビゲーションとしての有用性の検討」池田哲夫氏(九大先端医療イノベーションセンター)
 ヘモグロビンの光学的特性を応用した生体イメージング装置は広く普及したが、消化器学分野においては、この技術をナビゲーションに応用できる装置が強く求められている。池田氏は、手術中における組織の酸素飽和度とヘモグロビン量を非侵襲で非接触、かつリアルタイムに定量イメージングできるマルチスペクトル装置を開発、非臨床実験として人の血液や動物の臓器を対象に、各々の相関値の算出方法の正当性を実証するとともに、臨床実験においても食道がん手術における再建臓器の評価を実施して正当性を確認、手術などの治療ナビゲーションに有用だと指摘した。

招待講演「光音響イメージング法による熱傷診断の現状」佐藤俊一氏(防衛医大防衛医学研究センター)
 熱傷の治療方法は受傷深度により大きく異なるため、その識別診断が重要となるが、客観的な診断法は確立されていない。佐藤氏は、熱傷組織においては血流が遮断されることに着目、光音響イメージング法を用いた熱傷深度診断法を提案した。具体的には、熱傷創部に血液(ヘモグロビン)に吸収されやすい波長の微弱な短パルスを照射、光は血液のない受傷組織層を効率よく伝搬し、その下部の非受傷組織層の血液に吸収され、そこで発生する光音響波を創部表面で検出、その伝搬時間によって受傷深度を検知する。

基調講演「高機能・高性能CMOSイメージセンサ~医用イメージングのシーズとして~」川人祥二氏(静岡大電子工学研究所)
 川人氏は、新デジタル撮像技術HbCMOS(折り返し積分/巡回型ADC)によって超高感度と広ダイナミックレンジ、高階調を同時に実現したCMOSイメージセンサ(CIS)を紹介、極低ノイズの実現で光電子増倍が不要の時代が来ると指摘した。さらに、低電界分布による超高速変調、高量子効率、戻り電荷が発生しない、CISテクノロジーとの互換性といった特長を有する高速ロックインピクセルのための変調素子、ラテラル電界制御電荷変調素子(LEFM)も紹介。応用展開分野としては、TOF距離画像センサやバイオ・メディカルイメージングなどを挙げ、この素子が新たな医療機器や自動運転分野のキーデバイスになると述べた。

招待講演「X線画像診断に向けた定量的サブピクセル関節破壊量計測」池辺将之氏(北大量子集積エレクトロニクス研究センター)
 初期治療における診断が最も重要とされる関節リウマチ(RA)や変形関節症の関節腔狭小化(JSN)治療では、その進行を正確に測定することが求められている。池辺氏は、関節破壊量を時系列で計測するためのX線画像処理技術において、JSN進行を検出するために位相限定相関法(POC)を採用、0.1mmという精度の破壊量検出に成功した。病院との連携による臨床応用を推進するとともに、この成功は診断用AIの演算負荷も緩和すると指摘した。講演では、X線画像に対するトーンマッピングに関する良好な結果についても報告された。

招待講演「拡散反射分光法に基づくカラー画像解析と脳機能イメージングへの応用」西舘泉氏(東京農工大大学院生物システム応用科学府)
 RGBカラーカメラを用いた拡散反射光イメージングは、シンプルな光学系で実現が可能で、実験室における基礎研究から医療現場における画像診断まで、様々な応用が期待できる。西舘氏は、RGBカラーカメラを用いた脳組織の血行動態や組織形態変化に由来する光散乱特性変化の計測法と脳機能イメージング応用について紹介。具体的には、光伝搬モンテカルロシミュレーションと重回帰分析を利用することで、露出脳表面のRGB画像から血行動態と光散乱特性を推定して2次元マッピングを実施した。術中脳組織のバイアビリティ診断や脳機能の基礎研究のツールとして利用できるという。

次回研究会
 次回研究会は12月20日(金)、NHK名古屋放送局(愛知県名古屋市東区)において「立体映像および高臨場感映像技術全般」をテーマに開催される(立体映像技術研究会と情報ディスプレイ研究会の共催)。
 NHK放送技術研究所のAR/VR技術による新たな視聴スタイルと今後のメディアの可能性、BS8Kスポーツ中継で活躍中の最新8Kスローモーション技術など、招待講演で最先端のメディア技術が紹介される予定だ。詳しくは、下記ウェブサイトで。
https://www.ite.or.jp/ken/program/?tgid=ITE-IST

(川尻 多加志)