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地球環境から自動運転まで、応用進展が期待されるライダ
レーザセンシング学会、第37回レーザセンシングシンポジウムを開催

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September, 24, 2019, 東京--9月5日(木)と6日(金)の両日、千葉大・西千葉キャンパス(千葉県稲毛区)においてレーザセンシング学会(会長:首都大名誉教授・長澤親生氏〈写真〉)主催による第37回「レーザセンシングシンポジウム」が開催された。
 1960年のT. H. Maiman氏によるルビーレーザ発振の3年後、MITのG. Fiocco氏らはレーザレーダ(ライダ)によって高度数十kmの大気からの散乱エコーの観測に成功、このことは優れたアクティブセンサとしてのライダの将来性を示唆するものであった。
 ライダ研究の揺籃期、我が国でもレーザ応用を模索するレーザの研究者と、大気観測におけるレーザの有望性に着目した大気科学関連の研究者がライダ研究を開始、お互いの情報交換の場として1972年、我が国のライダ研究の先駆者である東北大の稲場文男教授を会長として「レーザ・レーダ研究会」が発足した。
 同研究会は、これまでにレーザレーダシンポジウム(1972年、仙台で第1回開催)とその後継であるレーザセンシングシンポジウム(第12回以降)を計35回開催、ライダ分野における有力な国際会議であるILRC (International Laser Radar Conference)も、28回の内3回(94、99、06年)を同研究会主体で日本国内において開催するなど、国内外におけるライダ分野の研究開発を牽引するとともに、国内各分野の利用者への普及に注力してきた。そこでは、広範なバックグラウンドを持つ研究者が一同に会し、基礎技術の研究開発から生まれるシーズと応用分野から求められるニーズをダイレクトに結びつけ、シナジー効果を発揮する環境が創出されてきた。

研究会から学会へ
 ライダに関する研究開発は、大気環境計測のようなソフトターゲット測定においては、大気中のエアロゾルや黄砂などの微粒子観測のみならずオゾンやCO2、金属原子などの微量成分観測や気温・風などの多次元観測などへと発展している。また、航空機搭載や衛星搭載ライダなどによって、従来の測定機器と比べて異次元のデータ提供が可能なことも示されてきた。車間距離の高精度測定のようなハードターゲットへの展開も目覚しく拡大しているのが現状だ。
 このような状況のもと、ライダ分野の研究開発や応用技術の普及など、さらなる活性化を目指して組織的かつ即応性を持った活動を行える体制を整えるため、同研究会は昨年の4月、名称を「レーザセンシング学会」と改め、新たなスタートを切った。
 5月には「衛星搭載ライダーに関するプロジェクト調査委員会」(委員長:国立環境研・内野修氏)も立ち上げられた。これは、将来の衛星搭載ライダの実現を目指して、科学的にも技術的にも支援していくことが非常に重要との認識のもと設置されたもので、現在提案されている衛星搭載ライダの社会的・科学的な必要性と現在の技術的達成度や今後解決すべき課題の他、米国、EU、中国などを中心とした世界的な動向などを調査、その結果は同学会の論文や解説としてまとめられるという。
 昨年度からは、新たに学会の研究会として「大気ライダー研究会」もスタートした。3月1日には首都大・秋葉原サテライトキャンパスにおいて、特別セッションを含めた研究会が開催された。

シンポジウムとセミナー
 シンポジウムの対象は、レーザ技術(各種レーザ、波長変換、レーザ分光など)、光学技術(光学システム、光学フィルタ、光検出器など)、レーザセンシング(環境計測、生体計測、工業計測、測距など)、ライダ技術(高スペクトル分解能ライダ、CO2ライダなど)、ライダ観測(エアロゾル、水蒸気、雲、風、温度、微量物質、中間圏など)、ライダデータ利用(ライダネットワーク、データ同化、気象予測など)、飛翔ライダ(衛星搭載ライダ、航空機搭載ライダなど)と、多岐に渡っている。
 初日午前には、福岡大の白石浩一氏によるレーザセンシングセミナー「ライダーのソフトウェア基礎講座」も別会場において開催された。これは「シンポジウムに参加すると解らない専門知識や用語が出てくるため、理解できないことがある」との参加者からの意見に応えるため、シンポジウムに先立ち光センシング技術を解りやすく説明してくれる初学者・技術者向けのセミナーだ。
 一方、実行委員長である千葉大の椎名達雄氏による挨拶で午後からスタートしたシンポジウムでは、SessionA(大気計測)7本、2日目のSessionB(衛星・宇宙)8本、SessionC(要素技術)6本、SessionD(水域・植生観測)+SessionE(光波センシング)7本の合計28件の講演が行われた(配布資料をもとに集計)。近年、各地で大きな被害をもたらしている線状降水帯に関する予測を始め、注目の研究開発がいくつも発表されていた。

功労賞
 初日のシンポジウム講演後、功労賞の受賞式と記念の講演会が行われた。今年の受賞者は、九大名誉教授の前田三男氏と東北工業大名誉教授の浅井和弘氏の2名だ。
 前田氏は、ライダ研究開発の黎明期にフラッシュランプ励起色素レーザを開発して中間圏ナトリウム層観測を成功に導いた功績、およびエキシマレーザを開発してオゾン層観測を世界に先駆けて成功に導いた功績、さらに学会運営や人材育成に対する多大な貢献が評価されたもので、一方の浅井氏は、ライダ研究開発の黎明期に炭酸ガスレーザによるオゾン計測用差分吸収方式コヒーレントライダを初めて開発した功績、および衛星搭載ライダの実現に向けた長年の研究活動推進の功績、学会運営や人材育成に対する多大な貢献が評価された。

自動運転への応用
 続いて行われた特別講演では、パラダイムレーザーリサーチの鷲尾邦彦氏が「世界における車載用各種LiDARの開発動向」を講演(講演者に従い、本章ではライダをLiDARと表記する)、車載用LiDARの市場予測、レベル4の自動運転車用LiDARの仕様、各種方式(機械的走査方式、MEMS走査方式など)や新方式の全固体車載用LiDARの開発動向などが紹介された。
 鷲尾氏は、車載用LiDARの本格化はまだ先(2021年以降)と考えられるが、新技術開発は活発に行われていて、低コストな完全固体型LiDAR実現を目指した新規参入が多いと指摘。SWIR(短波赤外)帯で高感度かつアレイ化および低コスト化が期待できるGe on Si型光検出器(SPAD〈Single Photon Avalanche Diode〉アレイ)やシリコンフォトニクスなどの進展で、今後は1550nm帯LiDARを始めSWIR帯の各種LiDARの開発が加速する可能性があると述べた。また、メタ表面を活用した高速スキャナなど、新しい物理を利用した新方式のLiDARの動向も注目されるとして、センサフュージョンの高度化の進展が望まれると述べた。

地球環境から自動運転まで
 隣接する会場では、32件(配布資料より集計)に及ぶポスターセッションも行われ、多岐に渡るライダに関する研究開発事例が紹介された。
 地球環境から自動運転まで、幅広い応用展開が期待されるライダ。その研究開発動向には今後も注目していきたい。なお、同学会の活動については、下記URLホームページを参照していただきたい。
https://laser-sensing.jp/index.html

(川尻 多加志)