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世界拠点の形成を目指す東京大学・ナノ量子情報エレクトロニクス研究機構

arakawa

September, 20, 2019, 東京--東京大学・ナノ量子情報エレクトロニクス研究機構(研究機構長:平川一彦教授)は、ナノ科学技術や情報科学に立脚したイノベーションの創出と人材育成のために平成18年10月、総長室直轄の学内横断組織として設立された。同大学が保有するナノ技術や量子科学、ITなどの「知」を結集するとともに、海外を含めた学外研究組織とも連携を強く図りながら、ナノ量子情報科学技術分野における世界拠点の形成を目指して活動を続けている。
 同機構は、もともと平成18年度の科学技術振興調整費(現在の地域産学官連携科学技術振興事業費補助事業)先端融合領域イノベーション創出拠点プログラムに採択された「ナノ量子情報エレクトロニクス連携研究拠点」プロジェクトを推進するための中核的研究組織として発足したもの。プロジェクトは平成27年度に終了したが、事後評価においてS評価を取得している。
 組織としては、「ナノ量子情報エレクトロニクス研究部門」、「次世代ナノエレクトロニクス研究部門」、「量子情報科学技術基盤研究部門」、「量子イノベーション協創センター」で構成されており、高性能量子ドットレーザや単一光子光源の技術開発によって、次世代ユビキタス情報化社会に必要な超ブロードバンド、超高セキュリティ、超高エネルギー効率のグリーンITネットワークの実現と高性能なエネルギー変換技術の開発に取り組んでいる。
 さらには、有機トランジスタによる新世代のフレキシブルエレクトロニクスや光電子融合技術の研究開発を進めるとともに、量子暗号通信や量子中継などを用いた超高セキュリティ量子情報通信ネットワークの実用化技術を実現することでフォトニック・量子融合ネットワークの技術基盤を確立、加えて量子現象で飛躍的に計算量を増やすことのできる量子計算機の基盤技術を実証していくとしている。

各研究部門の目標
 「ナノ量子情報エレクトロニクス研究部門」は、単一光子発生デバイスや量子もつれ状態制御デバイスなど、量子情報デバイスの高性能化に向けたデバイス技術を開発する研究部門だ。量子テレポーテーションや量子中継などを含む高度な量子暗号通信システムの実現を目指し、ナノおよび量子技術による情報通信技術のイノベーションを目標としている。さらに、量子計算機の基礎となる量子演算素子の研究にも取り組み、量子計算機の基盤技術を実証する。
 「次世代ナノエレクトロニクス研究部門」は、量子ドットやフォトニック結晶などのナノ技術を駆使して、量子ドットレーザを始めとしたナノデバイスの高性能化を図り、早期実用化に向けた開発研究を推進している。また、フレキシブルエレクトロニクスにおける有機トランジスタ技術の高性能化に向けて、新材料の開発から取り組むとともに、光電子融合を図るシリコンフォトニクスや太陽電池の研究開発も進めている。
 「量子情報科学技術基盤研究部門」は、量子情報エレクトロニクスおよび次世代ナノエレクトロニクスの科学技術基盤として、ナノ技術の確立と量子物性科学を探求して、量子状態の完全制御を目指した研究を進めている。特に、量子ドットやナノ共振器などのナノ技術について結晶成長やプロセス技術などの基盤技術開発を行うとともに、量子ドットにおける新しい量子現象を探索して量子状態のより深い理解と完全制御を図り、量子計算科学の基礎の確立を目指す。

量子イノベーション協創センター
 同センター(センター長:荒川泰彦特任教授〈写真〉)は、10年以上の長い間培ってきた産学官協働を一層発展させるために2018年4月に発足。量子ドットラボと6つの東大企業ラボ(シャープ、日本電気、日立製作所、富士通研究所、QDレーザ、光電子融合基盤技術研究所)が緊密に連携して、同大学が持つ半導体ナノ科学や量子フォトニクスなどの先端科学と、産業界が有するレーザ技術やシリコンフォトニクスなどのデバイス技術開発ならびに事業化技術力を融合させ、社会還元の出口を目指した連携研究を進めている。また、関連分野を担う人材育成と成果の普及を図る「フォトニクス・イノベーション協創プログラム」も企画・推進している。
 研究では、半導体ナノ構造の結晶成長やプロセス技術、物性制御と共振器電気力学の物理探究、ナノフォトニックデバイスや量子情報デバイス、光電子融合技術などを推し進めており、最近ではシリコンフォトニクスやレーザ加工など多様な展開が期待される高性能量子ドットレーザ、単一光子発生素子、量子ビット集積回路基盤技術、暗号通信技術、センサ用量子ドット遠赤外検出デバイス、量子ドットディスプレイなどを重点テーマに掲げている。

フォトニクス・イノベーション共創プログラム
 同大学が実施している「人材育成」や「フォトエレクトロニクス技術の普及」、「将来ビジョンの醸成」を通じて、光電子融合システム領域の技術的発展と人材育成を通じたイノベーションを目指して活動を行っているオープンプログラム。
 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)プロジェクト「超低消費電力型光エレクトロニクス実装システム技術」の成果の普及と光電子融合領域のイノベーション人材の育成、さらに将来の光電子融合科学技術とそれを活用したイノベーションビジョンに基づいた国際的な競争力を持つ産業領域の形成を目標として、次に挙げる3つのプログラムが実施されている。
(1)大学院講義・ナノ量子情報エレクトロニクス特論
 物理学や半導体工学、光エレクトロニクス、情報科学などを含む工学、理学、数理科学など、多岐に渡る学際的研究・学問領域であり、かつ量子計算や量子暗号などの量子情報技術と関連ナノ技術を含むナノ量子情報エレクトロニクスを、部局・専攻横断型で学んでいく。
(2)フォトニクス・イノベーションセミナー
 光技術者・社会人・大学院・学部生を対象としたもので、超低消費電力型光エレクトロニクス実装システム技術に関わる成果普及と人材育成を目的としたセミナー。光電子融合科学技術の基礎からシステム応用に至る技術について、気鋭の研究者が講義形式で分かりやすく解説する。
(3)フォトニクス・イノベーション・ビジョンワークショップ
 プロジェクトで創出された成果を始めとして、光電子融合技術の社会実装に向けた将来ビジョンの形成を目指したワークショップ。

フォトニクス・イノベーションセミナー
 7月18日(木)に東大・駒場リサーチキャンパスで開催された第16回セミナーでは、異種材料集積技術を用いたシリコンフォトニクスの新展開とナノ構造によるフォノン制御の物理とその応用が取り上げられた。
 セミナーは、同大学の竹中充准教授の司会のもと、荒川センター長の開会挨拶でスタート。荒川氏は、「このセミナーで、基礎的な事項について理解を深めながら、技術の最新動向も学んでほしい」と述べた。
 松尾慎治氏(NTT先端集積デバイス研究所・上席特別研究員)は「化合物半導体異種材料集積によるシリコンフォトニクスの新たな展開」と題し、同社で行っている化合物半導体の異種材料集積に関する研究開発について解説した。
 直接変調レーザは、外部変調方式に比べ低消費電力で安価という特長を有しており、短距離用インターコネクションへの適用が期待されている。
 松尾氏は今後、データセンター内光インターコネクションの波長多重化とボード内、チップ内への光インターコネクションの導入が重要になると指摘、メンブレンDR(Distributed Reflector)レーザやLEAP(Lambda-scale Embedded Active-region Photonic crystal)レーザ、
メンブレンMZM(Mach Zehnder Modulator)、低消費電力メンブレンSOA(Semiconductor Optical Amplifier)など、最新の研究開発成果を紹介した。
 野村政宏氏(東大生研准教授)は「フォトニクスからフォノニクスへ〜ナノ構造を使った高度な熱流制御〜」の中で、フォノン輸送は機械振動で捉える波動的描像と準粒子として捉える粒子的描像があるため、それぞれ波動光学と幾何光学に類似した側面があると指摘。光学とのアナロジーに触れながら、フォノニックナノ構造を用いたフォノンエンジニアリングが可能にする熱伝導制御とその環境発電応用について紹介した。
 野村氏は、最近得られた高度な熱伝導制御の研究として、世界で初めて成功したフォノンの波動的性質に基づいた熱伝導率チューニングと指向性熱流および個体集熱の実現について紹介、シリコン薄膜に放射状に円孔を配置した個体集熱を「弾道フォノニクス」と名付け、分野研究を開拓すると抱負を述べた。

(川尻 多加志)