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超スマート社会実現のキーテクノロジー!レーザセンシング
光材料・応用技術研究会、2019年度第2回研究会を開催

September, 9, 2019, 東京--超スマート社会とは、ロボットやAI、ビッグデータ、IoTを駆使して創られるサイバー空間とフィジカル空間(現実社会)が高度に融合した社会。二つの空間を繋ぐには、センシングで得られた現実をデータ化することが必須条件だ。
 8月30日(金)、「レーザーセンシングが拓く超スマート社会」をテーマに、光産業技術振興協会/光材料・応用技術研究会(代表幹事:皆方誠氏〈静岡大〉)の2019(令和元)年度・第2回研究会が、東京理科大・森戸記念館(東京都新宿区)で開催された。
 同研究会はもともと1989年度にLN結晶研究会として発足したもので、以後研究会の守備範囲と名称を変えつつ、光学結晶、光学材料から関連のデバイスまで、幅広い分野において研究会活動を展開してきた。現在の名称に改めたのは1998年度で、光学材料関連のデバイス・システムまで範囲を拡げて活動を続けている。
 今回の研究会では、小型集積レーザと計測応用、レーザ打音技術、ロボットフォトニクス、ドローンからのレーザ測量技術、さらには光センシングの農業と食への応用やSocity5.0との関わりなど、注目を集めるトピックスが紹介され、今後の超スマート社会を考察するに相応しい内容となった。

超スマート社会実現に向けて
 副代表幹事の山本和久氏(阪大〈写真〉)の挨拶からスタートした今回の研究会の講演題目と演者、講演概要は以下の通りであるが、本稿では総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)の前議員で、現在は農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)理事長である久間和生氏の特別講演をメインにレポートさせていただく。

「超スマート社会に向けたセンシング技術の進化と、その展開」平等拓範氏(理研、分子研)
 SPring8とSACLAのセンシング応用とImPACTの成果である小型集積レーザの応用事例(118nmの第9高調波発生にも成功)を解説。さらなる研究推進のために設立されたコンソーシアムTILA(Tiny Integrated Laser)と、オプトセラミックス研究の情報共有と研究開発強化のため日本ファインセラミックス協会内に設けられたオプトセラミックス研究会についても言及した。

「レーザーを利用した最新打音検査技術-ここまできた、構造物の高速センシング-」北村俊幸氏(量子科学研、フォトンラボ)
 インフラコンクリート構造物の老朽化に対する従来の接触式打音検査の課題を克服するレーザ打音検査技術の原理や高速センシングに向けた装置の概要、天王第一トンネルでの屋外実証実験、理研と量子科学研の共同ベンチャー企業、フォトンラボの設立とレーザ打音法の他分野への応用(インプラント用人工骨のボルト締結強度測定等)などが紹介された。

「次世代の測域センサが求める光技術-ロボットフォトニクスへの期待-」嶋地直広氏(北陽電機)
 サービスロボットの普及とそこで用いられる測域センサ(LiDAR)の役割と構成、さらに投光部やスキャナ部、受光部、光学窓における課題を抽出するとともに、人間の流動計測や人数カウンタ、建機の安全性向上や無人化施工、列車停止位置検知センサやホーム柵センサなどの鉄道への応用といった他分野への応用にも触れながら、ロボットフォトニクスに対する期待を語った。レーザー学会内には、ロボットフォトニクス専門委員会も設立されたとのこと。

「新たな測量の幕開け?-ドローンからのレーザーセンシングによる防災、減災、強靭化-」冨井隆春氏(アミューズワンセルフ)
 同社のレーザ測量システムはクラス最軽量、ドローンのフライト時間27分を実現したという。レーザ測量は、樹木の下の地表面もデータ化できるが、通常用いられている波長905nmでは黒いものや濡れた部分で吸収されるのでデータを取得できない。同社の532nmレーザは、この課題をクリアするとともに水域(水面、水底)でもデータを取得できるそうだ。エジプトやメキシコのピラミッドの測量を始め、幅広い測量事例が紹介された。

「農業革新-IoTによる最新の農業・食品現場-」久間和生氏(農研機構)
 久間氏は、イノベーションが持続的経済成長と社会発展を実現するとして、産学官の役割分担と連携が重要だと指摘、持続的イノベーションと破壊的イノベーションに加え、基礎技術・基盤技術の予算配分のバランスが大切だと述べた。
 講演では、国家レベルのイノベーション創出のために設置されたCSTIが創設した、府省庁連携と産学連携で基礎から実用化までを一気通貫する研究開発モデルSIPと米国のDARPAを参考に制度設計された、破壊的イノベーション創出にチャレンジするプログラムImPACTを紹介、それぞれに置かれたPD(プログラムディレクター)やPM(プログラムマネージャー)によるリーダーシップの重要性が語られた。なお、後継のプログラムとしては、第2期SIPやPRISM、ムーンショット型研究開発などがある。
 CSTIは、第5期科学技術基本計画を策定して、未来の産業構造と社会システムのあるべき姿として「超スマート社会」の実現(Socity5.0)を目標に掲げている。これは、サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させることで、経済的発展と社会課題の解決を両立させ、人々が快適で活力に満ちた質の高い生活を送ることのできる人間中心の社会を創ることを目指すものだ。産業だけでなく、社会全体を改革する概念を世界に先駆けて発信するという。
 農研機構の光センシング応用研究は、可視・近赤外分光やラマン分光を用いた果実・食肉の非破壊品質検査、高感度カメラ搭載ロボットによる農業用水路トンネル内の異常監視、生体センサを用いた非侵襲的な家畜の飼育管理、ドローンを使用したほ場内の雑草検出や牧草出穂率の推定と作物病害の検出、作物の育成状態モニタリング、農地の不陸(凸凹)計測など多岐に渡っている。
 久間氏は、農業を強い産業として育成して、海外市場で農産物・食料のマーケットシェアを伸ばし、政府の経済成長政策(GDP600兆円実現)に貢献することが農研機構の目標だとした上で、政府の掲げるSocity5.0の農業・食品版をスピーディーに実現するために、革新的スマート農業の構築やスマート育種システムの構築、輸出も含めたスマートフードチェーンの構築、生物機能の活用や食のヘルスケアによる新産業の創出、農業基盤技術(バイオテクノロジー、ジーンバンク、防疫等)、先端基盤技術(人工知能、データ連携基盤、ロボット等)などの研究開発を重点的に進めると述べた。
 農研機構では、そのために理事長直属の農業情報研究センターを開設するとともに、農業データ連携基盤WAGRIの機能拡大と稼働を今年4月からスタートさせ、徹底的なアプリケーション指向の農業AI研究を推進する計画だ。AIを中心としたICT人材を農研機構研究者の1割(200名程度)を目標に育成する。
 さらに、SIPの研究成果を事業省主導のプロジェクトにつないでイノベーションを創出するとともに、産業競争力の強化と民間投資の拡大を促すため、今年3月から2年間で、第1期SIPで開発したスマート農業技術等(ロボットトラクタ、自動田植機、遠隔・自動水田水管理システム等)を全国に設置するスマート実証農場で実証する(69課題、初年度予算47億円)。
 これらに加え、九州沖縄経済圏の高い農業産出額(2兆円)と立地条件を活かし、付加価値の高い農畜産物や加工品のアジア輸出を拡大するために、農研機構、産業界、農業界、公設試、大学等が連携して、育種から生産、加工、流通、輸出までのスマートフードチェーンの事業化に向けた研究開発を推進する。今年1月には、そのための九州沖縄経済圏スマートフードチェーン研究会が発足、7月には中核8課題を推進するプロジェクトを立ち上げた。
 久間氏は、イノベーション創出の条件は、①インパクトの大きな経済・社会的効果、②アイデア創出と技術革新+キラーアプリの開拓、③コスト、性能、品質、寿命、タイミング等のマッチングだと指摘、光材料・応用技術研究会には、①産業界・社会ニーズと技術シーズのマッチング、②異分野融合の推進、③システム化による高付加価値化、④産業界との連携強化、⑤人材育成などを期待すると述べて、講演を締め括った。

次回は宿泊で開催
 超スマート社会というホットな話題に加え、久間氏が講演するということもあって、多数の参加者を見た今回の研究会。講演後は別会場にて、久間氏を含めた講師も参加した上で名刺交換会が行われ、意見交換が活発に行われた。
 次回研究会は11月7日(木)と8日(金)の両日、静岡県三島市の東レ総合研修センターで「揺らぎ・散乱の制御および画像化技術」をテーマに、宿泊形式で開催される予定だ。日帰り参加も可能とのことだが、詳細は下記URLのホームページにて確認していただきたい。
http://www.oitda.or.jp/main/study/omat/omat.html
(川尻 多加志)