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新しい応用展開に挑戦する光技術
フォトニックデバイス・応用技術研究会、2019年度の第2回討論会を開催

August, 20, 2019, 東京--7月31日(水)、光産業技術振興協会のフォトニックデバイス・応用技術研究会(代表幹事:下村和彦氏(上智大・理工学部教授)の2019年度・第2回研究会が、上智大・四谷キャンパス(東京都千代田区)で開催された。
 1986年、同研究会はフォトニックデバイスとその応用技術の現状、動向、展望を話し合い、産官学会員相互の情報交換と討論を通じて光産業技術の育成と振興を図ることを目的に設立され(当初の名称は「OEIC懇親会」、その後現在の「フォトニックデバイス・応用技術研究会」に変更)、光デバイスから光通信システム、光実装、光インターコネクションなど、会員の要望に沿った様々な技術テーマを切り口とした定例研究会(年5回)や一般公開スタイルのワークショップ(年1回)を開催するなど、積極的に活動を続けてきた。
 今回は「新しい光技術」という切り口のもと、赤外光を電気や信号に変換する無色透明材料とデバイスへの応用、レーザ照明・ディスプレイ技術とその応用、さらに無線基地局の駆動に使用する光ファイバ給電技術など、応用・実用化という観点から非常に興味深いチャレンジャブルな研究開発に関する3本の講演が行われた。講演タイトル、演者、講演概要を以下に記す。

挑戦する研究開発
「赤外光を電気や信号に変換可能な無色透明材料の開発と透明デバイスへの応用」:坂本雅典氏(京大・化学研究所准教授)
 可視域の吸収を持たない材料で光誘起電子移動を実現できれば、透明太陽電池など、目に見えない電子機器を作ることも可能だ。そのためには、情報通信や太陽光エネルギーの変換に向いていない紫外光ではなく、赤外光を電気エネルギーや信号に変換できる新しい材料が必要だという。
 坂本氏は、スズドープ酸化インジウムナノ粒子のナノ粒子は赤外域にLSPR(局在表面プラズモン共鳴)を持ち、スズのドーピング量を制御することで吸収波長を制御できる理想的な赤外光捕集材だと指摘。スズドープ酸化インジウムナノ粒子を光捕集材、スズドープ酸化インジウムナノ粒子からの電子移動に適した伝導帯を有する酸化スズを電子アクセプタとして利用することで、実現困難と言われていた赤外光による高い電子移動効率(電荷注入効率33%)と無色透明性(可視域の透過率>95%)の両立を世界で初めて実現した。
 坂本氏は、今回の材料は無色透明でありながら近赤外~中赤外領域(1,400~4,000nm)の光を信号やエネルギーに変換できる材料であり、景観やデザイン性を損なわず社会のあらゆる所に設置できる透明ガラスのような太陽電池や見えない通信機器、透明センサといった電子機器の開発につながるキーテクノロジーになるだろうと述べた。

「レーザー照明・ディスプレイ技術と応用」:山本和久氏(阪大・レーザー科学研究所教授)
 民生用レーザTV、超小型携帯プロジェクタ、ホームプロジェクタ、データプロジェクタ、ヘッドアップディスプレイなどの商品化に続き、レーザヘッドライトや投光器、インテリジェント照明など、レーザ照明・ディスプレイ技術の応用は急速に進んできた。
 山本氏は、普及における技術的課題であったスペックルノイズや緑色半導体レーザ、レーザの出力と効率の問題については既に解決され、商品化課題であったレーザ安全や半導体レーザのコストについても、ある程度の解決が見られたと指摘するとともに多岐に渡る具体的な応用事例を紹介、将来応用としては、自動運転では夜間も各種センサで自動認識が行われるので前方を照らす照明は不要になり、その役割は歩行者、自転車、他の車に対し、車の接近を知らせて注意喚起を行うものに変化するとして、そうなれば照明の色も白色である必要はなく、むしろ目立つ色になり、照射する位置も変わるのではないかと述べた。
 また、植物工場への展開においては、レーザコストの急速な低下と効率の大幅向上で植物工場用光源としてのレーザ適用の障壁は低くなったとして、R・G・Bそれぞれのレーザと偏向ミラーを用いたスナゴケ育成の研究事例を紹介。さらに、NEDOのエネルギー・環境新技術先導プログラムで推進中の、可視光レーザの超高速走査によるLiDARでデータを収集して、必要な人に、必要なだけ、照明、情報、エネルギーを供給する、レーザ走査によるIoT照明ステーションについても、その概要を紹介した。

「無線基地局の駆動を実現する光ファイバ給電技術」:松浦基晴氏(電通大・大学院情報理工学研究科教授)
 松浦氏は、携帯電話やスマホといったモバイル通信の高速化に伴って、中央局から無線基地局間の通信では光ファイバ回線を利用した光ファイバ無線(RoF:Radio over Fiber)が主流になってくると述べ、その際この光ファイバ回線を利用した光ファイバ給電で無線基地局を駆動できれば、送電線からの電力供給は必要なくなり、低コストでかつ設置・管理の簡単な無線基地局が構築できると述べた。
 講演では、1本のダブルクラッド光ファイバ(DCF)で信号と電力を送る光ファイバ給電の最近の研究成果として、最大21.3Wの給電と30.5%の伝送効率を実現するとともに、150Wの給電光入力における高い伝送特性(EVM〈エラーベクトル振幅〉ペナルティは給電パワーによらず0.04%以下)の達成について解説。さらに、災害時に必要とされる空中無線局の駆動手段として、光ファイバ給電ドローンを用いた方式の検討についての研究も紹介された。
 松浦氏は、光ファイバ給電の今後の課題・展望として、さらなる伝送効率の高効率化、実用化に向けた取り組み、光ファイバ遠隔給電による応用技術の開拓を挙げた。

次回は「光デバイスを支える技術」
 講演後は会場を移して懇親会が開催されたが、同じ会場でポスターセッションも行われるなど、会員相互の交流とともに、各講演の内容について、より具体的な議論が行えるよう工夫されていた。
 なお、次回研究会は10月9日(水)、機械振興会館(東京都港区)にて「光デバイスを支える技術」をテーマに開催される予定だ。詳細は下記URLのホームページにて。
http://www.oitda.or.jp/main/study/pd/pdstudy.html
(川尻 多加志)