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自動運転を加速させる光センシング技術

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July, 19, 2019, 東京--注目を集める自動運転。自動車メーカー間では、合従連衡の動きを絡めつつ、生き残りをかけた熾烈な研究開発競争が繰り広げられている。我が国の自動車産業は、貿易収支という面から見ても、日本経済を支える重要な基幹産業だ。自動運転技術の実用化で世界をリードできるかは、今後の国力をも左右する。このような状況の中、光センシング技術は自動運転におけるキーテクノロジーの1つと言われており、各方面から注目を集めているのが現状だ。
 6月11日(火)と12日(水)の両日、東京都新宿区の東京理科大・森戸記念館において「自動運転技術における光センシング」をテーマに、応用物理学会・光波センシング技術研究会(委員長:室蘭工業大教授・相津佳永氏:写真)が第63回の講演会を開催した。講演会の参加者は一般参加も多く、合わせて約80名にも及び、自動運転と光センシング技術への関心の高さがうかがわれるものであった。

光波センシング技術研究会
 光波センシング技術研究会( Lightwave Sensing Technology Professional Group:LST )は、1985年に設立された光ファイバセンサ研究会を母体として、1988年新たに発展的な形で設立された研究会だ。光応用計測技術や光センシング技術およびそれらを支える周辺技術の研究の発展を目指し、年2回(6月と12月)の講演会開催や春または秋の応用物理学会でのシンポジウム開催など、積極的に活動を行っている。
 同研究会の具体的な研究領域は、ファイバジャイロや構造物のヘルスモニタリングに代表される光ファイバセンサ技術、レーザ光の干渉・回折・偏光・散乱などを利用した精密計測技術や2次元/3次元計測技術、各種物質や材料の光学的評価技術、顕微鏡や光コヒーレンストモグラフィ(OCT)を始めとする生体計測技術、超短光パルスを応用した測定技術、光源や光計測用デバイスなど、幅広い光応用計測技術が対象となっている。
 産業の高度化や生活の多様化、社会経済のグローバル化が急速に進む昨今、信頼できる情報を正確に取得して分析・対応するためには、高度なセンシング技術が重要になる。さらには、災害救助や交通輸送障害の復旧、それらの予知・予防と安全対策、産業の効率化と自動化、そして医療分野における早期診断や健康管理に至るまで、さまざまな状況においてAIやデータベース、IoT等の新たな進展と活用の動きが活発化している。
 同研究会では、高い精度を持つ光計測技術の役割はますます重要になっており、光波の持つ波長、位相、振幅、偏光、非線形性等の基本となる物理的性質に立ち返り、精度、確度、速度、スケールの限界に挑戦していくことが、さらなる発展の礎になると述べている。

自動運転と光センシング
 自動運転技術は急速に進歩を遂げている。自動運転では、人間に代わって認知、判断、操作を行うことが求められており、認知にはライダやステレオカメラなど、さまざまな光センシング技術が用いられている。
 今回の講演会では、認知のための光センサ、センサで取得した情報処理技術、センサ間ネットワークなど、車両のみならず道路や信号などのインフラを含めた自動運転システムで使用される技術にスポットライトを当てて、8件の招待講演が行われた。
 また、一般講演論文では自動運転技術に関連する話題に限らず、MEMS-VCSELやブリルアン光相関領域解析法を用いた分布型光ファイバセンサ、光センシングを用いた水位計測、内面形状計測、生体計測、放射線計測など、16件のオリジナル論文が発表された。
 横田浩久氏(茨城大)によるイントロダクトリートークでスタートした講演会。横田氏は「今回の企画が、今後の光波センシング技術、ならびに自動運転技術の発展について議論する機会となれば幸いだ」と述べた。頁数の関係で、本稿では講演すべてを紹介できないので、招待講演8件のタイトルと講演者のみを以下に記す。

6月11日(火)
「自動運転・運転支援に使われる画像認識技術と車載カメラへの要求・課題」秋田時彦氏(豊田工大)
「車載用3D計測器の動向−ライダを中心として」桑山哲郎氏(元キヤノン)
「3D LiDARに揺動機構を用いた高精細環境情報取得とその応用」滝田好宏氏(防衛大)
「高度運転支援システムのセンシングと運動制御〜交通事故ゼロおよび究極の乗り心地を目指して〜」ポンサトーン・ラクシンチャラーンサク氏(農工大)

6月12日(水)
「Pedestrian Detection by Shallow Learning on Deep Representations」王彧氏(立命館大)
「Siフォトニック結晶スローライト偏向器とLiDAR開発( IEEE Photonics Society Japan Chapter/主催招待講演)」馬場俊彦氏(横浜国大)
「車載向け大容量有無線光伝送技術」相葉孝充氏(矢崎総業)
「国土交通省の自動運転への取り組み」池田裕二氏(国総研=国交省・国土技術政策総合研究所)

自動運転サービス実証実験
 招待講演最後の演者である国総研の池田氏は、実際に行った実証実験で明らかになった、いわばユーザー側から見えた自動運転に関する問題点を紹介した。
 国交省では、全国の「道の駅」などを拠点とした中山間地における一般道での自動運転サービスの実証実験を、平成29年度に全国13か所で実施した。平成30年度では前年度に実施した実験箇所のうち4か所で1〜2ヶ月間の長期実験を行い、新たに5か所で1週間程度の短期実験を行った。地方の中山間部は、高齢化に伴う地域住民の支援という意味でも自動運転のニーズがあり、実用化に寄せられる期待も大きい。
 使用された自動運転車両は、①GPSと磁気マーカーおよびジャイロセンサにより自車位置を特定して規定ルートを走行するバスタイプの「路車連携型」(定員20名、速度35km/h程度、最大40km/h)、②埋設された電磁誘導線からの磁力を感知して規定ルートを走行するカートタイプの、こちらも「路車連携型」(定員7名、速度:自動時12km/h程度、手動時20km/h未満)、③事前に作製した高精度3次元地図を用いライダで周囲を検知しながら規定ルートを走行する乗用車タイプの「車両自立型」(定員4名、速度40km/h程度、最大50km/h)の3種類。
 講演では、さまざまな道路交通・地域環境下で自動運転が困難となった状況が紹介された。

浮き彫りになった課題
 歩道がなく路肩も狭い区間では、車両センサが歩行者や自転車を検知して停止したり、円滑に走行するためドライバーが手動で回避しなければならない場合があったそうだ。これでは自動運転と言えない。ドライバーの人件費も削減できない。路上に駐車している車両に対しても、同様の問題が生じたという。
 実験における自動運転車両の走行速度は、一般的に遅い。安全確保のためだ。そうすると、一般車両との間で速度差が発生する。結果として、後続車両の滞留や無理な追い越しが発生する。そして、自動運転車両は追い越し車両を障害物と認識して、急ブレーキをかけてしまう。
 また、沿道の民地等からの植栽や道路脇への除雪で道路幅が狭くなると、これも車両センサが障害物として認識、ここでも走行停止や手動運転で回避しなければならないという問題が生じたという。
 山間部の地形区間では、GPS衛星からの電波が山や樹木に遮られ、位置特定ができないという事象も発生した。さらに、ライダを用いる自動運転車両では濃霧によって位置の特定や周辺状況の把握ができなくなり、自動運転制御ができなくなるという事象も生じたそうだ。降雪量が多い場合も、ライダが雪の粒を障害物として認識して、走行ができなくなってしまったという。
 走行空間内に除雪で積まれた雪も障害物として認識され、ここでも自動運転ができなくなる。また、路面が積雪で覆われると、ライダで取得される周辺の地図データは、自動運転車両が保有する積雪のない状態のデータと異なってくるので、積雪量が多いほど、両者のかい離は大きくなり自己位置の特定ができなくなるという。
 講演会全体では、シーズ側からの研究開発事例が数多く紹介されたが、この実証実験から見えたのは、世の中で語られている「バラ色の世界」とは異なる別の顔だ。池田氏は、広い視野を持つセンサの開発に期待すると述べるとともに、過疎地でのビジネスモデル確立の難しさや誰がコストを払うのかという問題点も指摘した。自動運転が実システムになるために、センサ側の研究開発の進展に寄せられる期待は大きい。
(川尻 多加志)