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新たな潮流! AIと光技術

May, 24, 2019, 東京--AI(人工知能)は、データの爆発的増大に加え、コンピューティングとアルゴリズムの高度化によって第3次ブームを迎えている。そしてAI技術の進化やクラウドなど、AIを活用しやすい環境が拡がっている状況に伴い、これまで特定分野で先行していたAIの利活用が、幅広い産業分野や製品・サービスへと拡大しつつある。4月19日(金)、板橋区立グリーンホールにおいて、AIと光技術の関わりを探るというテーマで日本光学会・光設計研究グループ(代表:リコー・辰野響氏:写真)の第66回研究会が開催された。そのタイトルは「人工知能-AI-活用による光設計の展開」。今回は、同研究グループが主催を務め、同じく日本光学会に属するAI Optics研究グループ(代表幹事:阪大・谷田純氏)が共催という形になった。

2つの研究グループ
 光学設計の歴史は長く、一方で新しくかつ高度な光学機器や光学素子用の技術開発が常に進められている。将来の光産業においても、基幹的な役割を担うと期待されている。しかしながら、我が国では研究者や技術の交流が少なく、それが技術進歩の障害の1つになっているとも指摘されていた。
 このような状況の中、光設計研究グループは、光学設計およびその周辺の研究者の情報交換をはかり、光学設計分野の研究推進に寄与することを目的に平成5(1993)年7月、日本光学会の研究グループとして設立された。
 その適用領域には、回折光学、光記録、光通信、軟X線光学、光コンピューティング、光集積回路、補償光学、非結像光学、光学薄膜など、すべての光学分野が含められ、レンズ設計や光学設計、光学系の加工・測定・評価、光学設計ソフトなど、光学
系・光学素子などの設計に関連する技術領域を網羅、研究会や国際会議の開催、学術講演会における発表支援や環境の整備、優れた研究・技術・発明を表彰する「光設計賞」の授与や会誌の発行などを行っている。
 一方、共催のAI Optics研究グループは、世界の先駆的な光学技術者がすでにAIを活用し始めている現状を踏まえ、AIへの対応は得手不得手を問わず、すべての研究者に求められ、AIを使いこなせないばかりに我が国が持つ光学分野での技術的な優
位性を失ってはならないと、昨年の10月に設立されたものだ。
 同研究グループでは、光学技術者に必要なAI技術の情報共有や技術的サポートを提供するとともに、AI時代において世界最先端の光学研究者として活躍していくために必要な技術基盤を、参加メンバーが具備し得るための活動を行っていく。
 具体的には、最新AI技術の情報共有と議論の場として、シンポジウムや研究会の企画、Webマガジン等の情報発信、講習会の開催や掲示板等での技術サポート、オープンソース提供、異分野や他学会との交流などを行う。昨年11月には、筑波大でキックオフシンポジウムも開催した。

AIと光技術の最新状況
 研究会は、光設計研究グループ代表の辰野氏による「開会の挨拶」でスタート。続く講演では、AIと光技術に関わる研究を推進する我が国のエキスパート達によって、その研究開発の最新状況が報告された。

高速ビジョンのアーキテクチュアと新展開:石川正俊氏(東大)
 石川氏は、高速並列演算機能を内包した積層型高速ビジョンチップのアーキテクチュアを解説。2017年に開発した高速高感度CMOSイメージャと並列処理ハードウエアを一体化した積層型CMOSイメージャは、0.363Wという低消費電力で1,000fpsの撮像と画像処理が実行可能だという。講演では、知能ロボットやFA・検査、プロジェクションマッピング、ヒューマンインタフェース、バイオ・医療、自動車などの分野における応用事例を紹介。新たな設計思想「ダイナミクス整合」による知能システムが、現在の人工知能技術の限界を突破して、将来の実世界・実時間での高速処理を可
能にする新しい知能システムの基盤技術になると述べた。

自己符号化器を利用したデータ変換法による汎用的光検索システム:渡邉恵理子氏(電通大)
 大容量データを高速処理できる光相関システムの研究開発を行ってきた渡邉氏は、2次元画像照合実験において画素転送照合速度143Gbps(2.4Mfps)を達成、現在1Tbps(12Mfps)以上を目指した研究開発を進めている。講演では、深層学習の一種である自己符号化器を用いたデータ変換手法と、特徴量抽出器を用いた、多様なデータを高速検索できる汎用的光データ検索システムを解説。応用事例として、テキス
ト、画像、動画検索や、動画共有サイトから自動的にクローリングし、登録した動画を検出する(海賊版対策)著作権管理システムを紹介した。

機械学習駆動コンピュテーショナルイメージング:堀﨑遼一氏(阪大)
 信号処理を前提にしたコンピュテーショナルイメージングは、光学系と信号処理を独立して設計する従来型アプローチに比べ、大幅な性能向上や筐体の簡略化を実現すると期待を集めている。講演では、機械学習を軸に自身の研究事例として、散乱光を通した透過行列ベースの物体認識、ゴーストイメージングを用いた高速フローサイトメリー、深層学習を利用した波面計測や計算機合成ホログラフィなどが紹介された。

深層学習がもたらす問題解決のパラダイムシフトと画像分野での応用:岡谷貴之氏(東北大)
 AI ブームの立役者である深層学習は、単にAIの範疇にとどまらず、広く工学全般に対する問題解決方法にパラダイムシフトをもたらしつつある。岡田氏は、深層学習を「もうAIと呼ばなくても良いのでは?」と提案する。一方、深層学習の最大の欠点は、学習用訓練データに対する依存度が高すぎることであり、さらに深層ニューラルネットワークの構造デザインも難しいという。講演では、画像劣化というドメインシフトの問題解決のため自身が提案した双残差結合ネットワークと、単純な注意機構を導入する事で劣化した画質を改善する手法が紹介された。

ドローン×AI(Deeptector®)による漁業密猟の監視抑止:佐々木秀紀氏(NTTコムウェア)
 密猟対策は、近年の漁業における大きな課題の1つ。日本では毎年約2,500件も摘発されており、さらに増加する傾向にある。被害総額は年間で4,000〜5,000億円、手口は組織的かつ巧妙になる一方で、対策の難しさが指摘されている。佐々木氏は、同社が提供するドローンとAIを組み合わせた密漁対策ソリューション、画像認識AI「Deeptector®」を紹介、従来の監視法に比べて効果を上げていると述べ、中山間地域の住民支援(健康状態解析)応用についても触れた。

自動運転車からサポート・クラウドまでのトータル・システム:馬路徹氏(NVIDIA)
 ムーアの法則が終焉した後も、GPUはアーキテクチュアやソフトウエアの進歩によって処理性能が向上、CPU単独では処理できないAIやスパコンなど、幅広い分野で用いられている。自動運転の分野においても、GPUをSoCに内蔵してスパコン用GPUと合わせて、車載ECUからAI学習、テスト、検証用データセンターまで、end-to-Endのプラットフォームが構築されている。馬路氏は、自動運転に関わる、同社の最新のAI(ディープラーニング)実装技術を紹介した。

AIと共存する未来にむけた役割分担:上田恵陶奈氏(野村総合研究所)
 AIで完全に自動化できる職業労働人口は49%に過ぎないという。上田氏は、AIが得意な業務もあれば、不得意な業務もあり、たとえ自動化される可能性が高い職業でも、すべての業務がAIに代替される可能性は低く、逆に自動化される可能性が低い職業でも、一部の業務はAIやロボットを使いこなしながら行うことになるとして、人とAIは共存すると述べた。そして、AIを活用しつつ、人それぞれ異なる評価軸で価値を加えることで、多数の負け組が出るのではなく、一人一人が自分なりの付加価値を加えてエキスパートとして活躍する、そうした未来を実現するには、自動化技術が完全自動化を志向せず、人間との協働関係を前提とした実装を志向することが重要だと指摘した。

次回研究会
 次回研究会は「デジタルカメラの進化と多様化」をテーマに7月12日(金)、キャンパスプラザ京都で開催されるが、変更の場合もあるということなので最新情報は以下のウェブサイト上で確認。http://www.opticsdesign.gr.jp/index.html
 また、来年の6月2日から4日まで、国際学会ODF’20(12th International Conference on Optics-Photonics Design and Fabrication)が、台湾の国立中央大で開催される予定だ。
(川尻 多加志)