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さらなる応用進展が期待されるホログラフィック光学素子
日本光学会ホログラフィック・ディスプレイ研究会、平成31年第1回研究会を開催

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April, 11, 2019, 東京--3月29日(金)、日大理工学部駿河台キャンパス(東京都千代田区)において、日本光学会ホログラフィック・ディスプレイ研究会(会長:千葉大大学院工学研究院教授 伊藤智義氏:写真)の平成31年第1回研究会が開催された。
 Dennis Gabor氏によって1948年に発明されたホログラフィは、完全な3次元像を表示する、現状存在する唯一の方法と言われており、その応用範囲は3次元表示を始め、計測や光学素子など、光学の発展に伴って拡大し続けている。
 同研究会は、ホログラフィの応用範囲の中でも、特に人間を対象とした表示応用やその他の3次元表示法についての最新の情報を交換する場として設立され、そこには国内外におけるホログラフィ研究の専門家やホログラムを実務に利用したり販売に携わっている関係者、ホログラフィ・アーティストなど、幅広い分野の人々が参加している。
 具体的な活動としては、原則として年4回の研究会や講演会(年1回)、見学会・展示会などの開催の他、会誌「HODIC Circular」の発行(年4回)、故・鈴木正根氏と故・岡田勝行氏の遺志を受け、本分野で活躍している人およびグループに対し毎年、鈴木・岡田記念賞を授与するなど、ホログラフィと3次元画像の啓蒙・普及のための活動を行っている。
 今回の研究会では「ホログラフィック光学素子」をテーマに、注目を集める最新の研究・開発事例4件が発表された。また、これらの発表に先立ち、長年ホログラフィと液晶に関する研究・開発に携わってきた同研究会の前会長、シチズン時計の橋本信幸氏による「液晶による空間光制御:その歴史と展望」と題する基調講演も行われた。

進展するホログラフィック光学素子の応用
 伊藤会長による冒頭挨拶の後、基調講演を行った橋本氏は、空間光変調器とその応用の歴史的背景や自身の液晶光学素子とその応用に関する研究・開発の歩みを振り返った。
 RCA研究所のGeorge Heilmeier氏によって1964年、世界で初めて報告された液晶表示素子は、電流注入型の散乱モードで消費電力も大きいことから、当初はあまり注目されなかった。ところが71年、スイスHoffmann-La Roche社のMartin Schdat氏が、現在のネマチック液晶に通ずる電界制御型の液晶デバイスを発表したことで、俄然注目を集めるようになる。このデバイスに特に注目したのが、バッテリー駆動時間の制約という課題を抱えていた時計メーカと電卓メーカだった。
 二十歳の時、大学でホログラフィに出会った橋本氏は、卒論も修論もホログラフィをテーマに選び、その後シチズン時計に入社、液晶ディスプレイの研究室に配属となった。液晶が位相変調素子として優れた特徴を有していることに気づいた橋本氏は、ホログラフィを再生できないかと研究・開発を進め1991年、液晶素子を用いた世界初の(ご本人曰く「多分」)3D動画ホログラフィ装置を発表している。
 遡って1988年、橋本氏は液晶素子による光波面制御やその応用展開に関する研究・開発において、液晶による補償光学と光ピックアップの焦点補正特許を1988年に出願(その後成立)。また、透明電極にコマ収差を近似するパターンを用いた液晶コマ収差補正素子を対物レンズの入射瞳面近傍に設置したDVD用光ピックアップを、パイオニアを始めとしたエレクトロニクスメーカとともに実現した。これは後にブルレイ用ピックアップにも使用され、累計1億個以上も生産された。ちなみに量産立ち上げは僅か1年、素子の基本性能に関するクレームは皆無だったという。
 その後、液晶による偏光制御とそれを応用した超解像技術の研究・開発に従事、これをバイオイメージング応用へと展開させていった。さらに、液晶GRINレンズを応用したスマホや携帯カメラ用オートフォーカスモジュール、老眼用アクティブ眼鏡の開発など、その研究・開発は多岐に渡る。
 橋本氏は、原理的に任意の波面や偏光分布をダイナミックに作成することが可能な液晶時空間光変調と、究極の光情報処理であるホログラフィを組み合わせた光のマイクロプロセッサや、複屈折レンズとして機能する液晶光学素子を用いた、各点光源の自己相関ホログラムが各々形成され、各点光源が独立に再生される自己相関型インコヒーレントホログラフィ顕微鏡などへの期待を口にして、液晶光学素子開発の今後の取り組みとしては、応答速度、耐光性、耐温度特性の向上が重要だと述べた。
 イノベーションは、独立した技術の組み合わせによって起こるという。橋本氏は、液晶もホログラフィもすでに実用化された技術だが、それらを組み合わせる際には未だ課題が多いと指摘、しかしこれらの課題を解決すれば、古典的な光学のみならず、情報光学においても革新が起こると述べ、講演の幕を閉じた。
 基調講演の後の研究会では、田辺綾乃氏(シチズン時計)が「透過型液晶光学素子のホログラム技術への応用」を講演。FINCH(Fresnel Incoherent Correlation Hologram)顕微鏡と顕微鏡におけるセンサレス波面検出技術、フレネルゾーン開口によるレンズレスライトフィールドカメラなどを紹介した。
 続く附田大輔氏(ソニー)は「A Plastic Holographic Waveguide Combiner for Light-weight and Highly-transparent Augmented Reality Glasses」の講演を行うとともに、このホログラム樹脂導光板を用いたシースルーフルカラー型ディスプレイの実機を会場に用意して、その映像の鮮やかさを聴講者が装着して実体験できるデモンストレーションを行った。
 加瀬澤寿宏氏(エガリム)は「次世代ホログラム技術:Ega-rim&Egarim PBSが導く1mmの光学世界及び高度ホログラム技術の応用」の中で、ガラス端面に光源を配置して照明光を回折出射する照明装置Ega-rimでホログラムを表示するgarim Holographyを紹介。さらにEga-rimを用いた偏光ビームスプリッタとフォトポリマー上にレンズ機能や多数の光束を生成する機能を集積化したEgarim PBSを用いたHOEユニット、1mm厚のガラスとホログラムで構成する軽量薄型プロジェクタHolo-Jectorなどを紹介した。
 観察者を正面から撮影できるディスプレイの開発を目指す中村友哉氏(東工大)は「HOEと画像再構成に基づく透明スクリーンカメラとその応用」を講演した。中村氏は、反射HOEをカプラに用いた導波路と画像再構成の組み合わせに基づく透明スクリーンカメラと照明撮影ディスプレイを提案、数値実験による原理実証と光学実験による撮影過程までの原理実証に成功して、さらにスマートフォンと組み合わせた実験において正面撮影ディスプレイの実現の可能性を確認したとのことだ。

今後の予定
 液晶光学素子というテーマに加え、橋本氏のこれまでの貢献に対する高い評価も重なり、会場はほぼ満杯、その後に開かれた懇親会においても、講演者を交えた活発な議論が交わされた。
なお、次回の研究会は5月31日または6月7日の金曜日、千葉大・西千葉キャンパス(千葉市稲毛区)において、「ホログラフィの標準化とデータ圧縮」をテーマに開催される予定だ。プログラム等、最新の情報は同研究会のWEBページ( http://www.hodic.org/ )で公開されるので、チェックされたい。
(川尻 多加志)