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フォトニクス技術はBeyond 5G社会の 実現にいかに貢献するか!

March, 26, 2019, 東京--目の前に迫った5G 時代、我々の生活は大きな変革を遂げようとしている。そして、さらに先のBeyond 5G、果たしてどんな未来が待ち受けているのだろうか。
 2 月20 日(水)、リーガロイヤルホテル東京(東京都新宿区)において、平成30年度の光産業技術シンポジウムが開催された(光産業技術振興協会(光協会)ならびに光電子融合基盤技術研究所(PETRA)主催)。今回のテーマは、注目を集める「Beyond 5G社会を支えるフォトニクス技術」であった。

4Gから5G、そしてBeyond 5Gへ
 5G 技術は、現在の4G よりも圧倒的な高速大容量、多数同時接続、低遅延を実現する。高速大容量は4Gの1Gbpsから20Gbpsへ、多数同時接続は10 万デバイス/km2から100 万デバイス/km2 へ、さらに低遅延は10msから1msにレベルアップする。これがBeyond 5Gになると、高速大容量は100Gbps へ、多数同時接続は100万デバイス/km2をケタ違いに超え、遅延は0.1msという高いスペックが求められるという。
 シンポジウムでは、各分野のエキスパートが5G、Beyond 5G時代における光技術の役割と進むべき方向性について貴重な提言を行った。以下に、その講演タイトルと講演者を記し、講演内容を概説する。

光技術の貢献
 ◆「開会挨拶」…光協会 副理事長兼専務理事 小谷泰久氏
 小谷氏は、シンポジウムの一昨年のテーマが自動車と光技術であり、昨年はAI・IoTと光技術だったと振り返りつつ、ビッグデータが流通するなか、その収集、伝送、処理の3つの流れが非常に重要になってくると指摘した。 
 その上で、情報収集場面ではイメージセンサやバイオセンサといった光センサ、情報伝送場面では5G時代の無線通信技術に対応する情報通信システム、情報処理場面では省エネを実現する光集積回路や高速光スイッチなど、光技術はこれらすべての場面において重要な役割を担っていると述べた。
◆「来賓挨拶」…経産省 商務情報政策局 情報産業課 課長 菊川人吾氏。
 菊川氏は、昨年の「インターオプト」を見学して、光技術の社会実装を実感できたと述べるとともに、5Gの社会実装も眼の前に来ていると改めて感じていると語った。
 また、「Beyond 5Gに向けた次世代ネットワークの光テクノロジーロードマップ」の作成など、光協会の先駆けた取り組みに期待をするとした上で、PETRAの行っているプロジェクトやその研究成果の事業化などを例に挙げ、関係者の研究開発と社会実装のスピードについて行けるよう、政策サイドからもしっかりと支援をしていきたいと述べた。さらに、社会実装が進めば進むほど、セキュリテイをどう確保して行くかが重要であり、政府調達を含め、政策を展開して行くと語った。
◆基調講演「5G、Beyond 5G時代の新たな『ワクワク』の創造」…KDDI理事 技術統括本部 新技術企画担当宇佐見正士氏
 宇佐美氏は、5Gを用いた自動運転車の遠隔管制や建機の遠隔操作、自立飛行ドローンによる米づくり・酒づくり、マグロの養殖基地、除雪車運行支援などの実証実験を紹介。同社が提案する、さまざまなライフシーンで5G を用いて「ワクワク」を感じる体験の技術検証例として、5Gスタジアムや音のVR、バーチャルキャラクター「レナ」などを紹介した。
 同社では、Beyond 5G / IoTの取り組みとしてビジネス開発拠点「KDDI DIGITAL GATE」を東京・虎ノ門にオープンしており、ベンチャーとのコラボも推進しているとのことだ。テレイグジスタンスを用いたアバターロボットもビデオで披露した。
 宇佐美氏は、5G、Beyond 5Gは新たなモバイルインフラとして認識されているが、そのバックボーンはほとんどが光技術で構築されていると指摘、新たな光技術と無線技術の融合開発も含めて、光産業のますますの発展を期待すると述べた。
◆「5G 時代の車載ネットワークと路車協調の取組み」…住友電工 自動車新領域研究開発センター 車載システム研究部 部長 高山浩一氏。
 高山氏は、移動体無線通信技術、アクセス通信技術、構内LAN通信技術、半導体の集積度増加等を例に、クルマを取り巻く情報化の進展状況を解説。それらを踏まえて将来の車載ネットワークを考察し、その実現の鍵となるマルチギガ2.5Gbps、5Gbps、10Gbps)やマルチギガ超の車載Ethernetの動向とその業界団体であるNAV-allianceの活動を紹介した。
 同社の取り組み事例としては、道路のスマート化を基本コンセプトとしたNTTドコモとの共同実車実証実験や車線変更も含めた走行ルート計画を立てることができる車線別小区間方式、路線バス等の公共交通への5G 適用構想などを紹介した。
◆「Beyond 5G時代の光アクセスネットワーク」…三菱電機 情報技術総合研究所 通信技術部 主席技師長 小崎成治氏
 小崎氏は、光アクセスネットワークの概要と構成技術ならびにその進展について概説するとともに、5Gを中心としたモバイルネットワークの進展やアクセス系ネットワークであるMBH(Mobile Backhaul)とMFH(Mobile Fronthaul)の構成、想定されるBeyond 5G時代におけるネットワーク要件やMBH /MFHの関係について解説した。
 小崎氏は、1チャネルあたり100Gbpsを実現する高速化技術、無線の高周波数化に対応する技術、有線と無線が連携した低遅延化技術、サービスの多様化やネットワークの複雑化に対応する仮想化技術、インテリジェント化技術などについても紹介した。
◆「Beyond 5Gに向けた次世代ネットワークの光テクノロジーロードマップ」…東大 大学院工学系研究科 電気系工学専攻 准教授 種村拓夫氏
 種村氏は、Beyond 5Gでは、光アクセスと無線アクセスの融合がますます重要になると指摘した上で、光アクセスでは、同時接続端末の増大に伴い、PON技術の重要性が増すとともに、帯域利用効率の拡大とアンテナサイトの小型・低コスト化に向け、高速アナログ伝送技術(RoF伝送によるMFH帯域低減や無線リレー、マルチコアファイバRoFを用いた低コストMIMO /ビームフォーミング、コヒーレントPON、アナログコヒーレントなど)への期待も大きいと述べた。
 光デバイス技術としては、低コストかつ省電力テラビット級トランシーバの開発が急務で、超高速OE/EO 変換器などの革新的な光・無線融合デバイス技術も鍵になるとした。
 種村氏は、特に高速光送受信デバイスでは、国内の研究開発が現状では先行しているとして、今後は産学連携によって技術力を強化すると同時に、低コスト化・国際標準化に向けた戦略を明確にし、グローバルなビジネスに結び付けることが重要だと提言した。
◆「ディスアグリゲーション型次世代データセンタに適用する光電ハイブリッドスイッチを用いた高速低電力データ伝送システムの研究開発」…PETRA研究開発責任者 才田隆志氏
 才田氏は、NEDO委託事業として9月からスタートした上記プロジェクトを紹介。ディスアグリゲーション型次世代データセンタとは、サーバ内の機能を分割して各機能をリソースプール化し、ネットワークで接続して動作効率を向上させようというもの。
 プロジェクトでは、切り替え時間を100μs程度に短縮し、ポート数を1000 ポート級にスケールする光スイッチシステムを新たに開発した上で、データセンタ内を流通するトラフィックフローの特性を勘案して、フローの長さに応じて、短いフローをパケットスイッチに、長いフローを光スイッチに振り分ける光電ハイブリッド型スイッチの開発を目指す。
◆「超低消費電力型光エレクトロニクス実装システム技術開発 ~ポリマー光導波路を用いた光電子集積インターポーザ~」…PETRA 光実装技術テーマリーダー 天野建氏
 天野氏は、上記NEDOプロジェクトのなかで、これまで取り組んできた、低損失でリフロー可能なマルチモードポリマー光導波路と高密度(125μm)かつ多芯(24 芯)光コネクタの開発で実現した「パラレルマルチモードを用いた光電子集積インターポーザ」を紹介。
 それに加え、今年度から新たにスタートした、低伝搬特性を持つシングルモードポリマー光導波路と波長多重が可能な45°ミラーを搭載した半導体レーザによる「波長多重を用いた高密度光電子集積インターポーザ」の開発についても紹介した。

櫻井健二郎氏記念賞
 講演終了後は、恒例の櫻井健二郎氏記念賞授賞式が行われた。今年度の受賞は、浜ホトの山西正道氏、枝村忠孝氏、藤田和上氏、秋草直大氏が「高性能量子カスケードレーザの研究開発および実用化」で受賞するとともに、三菱電機の平野嘉仁氏、柳澤隆行氏、山本修平氏、﨑村武司氏が「小型高出力平面導波路型レーザーの開発と風計測ライダーへの応用」で受賞した。
(川尻 多加志)