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フォトニクス分科会が推進する改革
フォトニクスの未来像をテーマにInterOptoでセミナーを開催

November, 12, 2018, 東京--10月18日(木)、応用物理学会(応物)フォトニクス分科会セミナーが、千葉県千葉市の幕張メッセにおいて開催された。このセミナーは、10月17日(水)から19日(金)までの3日間、同展示会場にて行われた「InterOpto」、「LED Japan」、「Imaging Japan」の3展示会から構成される最先端フォトニクス技術・製品総合展示会「All about Photonics 2018」の中の特設会場で開催されたものだ。
 セミナーのテーマは「フォトニクス分科会が描くSociety5.0」。日本のフォトニクス技術の発展を目指した同分科会における先進的なアクティビティが紹介されるとともに、最先端技術である高速分子イメージングと光無線給電の二つにスポットライトが当てられ、フォトニクスが描く未来像が紹介された。
 フォトニクス分科会(幹事長:千葉大・尾松孝茂氏(写真))の前身である光学懇話会が応物の中に設立されたのは、今から65年以上も前の1952年4月、2015年には組織改編によって名称が変わり、現在に至っている。
 同分科会は、量子フォトニクスや非線形フォトニクス、ナノフォトニクス、バイオフォトニクス、光エレクトロニクス、デジタルイメージングといった最先端フォトニクスに関する研究の推進および技術向上を図ることを目的に、これまでに各種講演会や討論会、シンポジウム、チュートリアルなどを開催、フォトニクスニュースレターの発行やウェブサイト上での広報活動を行ってきた。
 今回のセミナーでは、3本の講演が行われた。プログラムは以下の通りだ。

①Society5.0におけるフォトニクス:千葉大 大学院融合科学研究科 教授 尾松孝茂氏
②細胞ビッグデータ解析に向けた高速分子イメージング:東大 大学院工学系研究科 電気系工学専攻 准教授 小関泰之氏
③光無線給電はIoTをさらに拡げるか?:東工大 科学技術創成研究院 未来産業技術研究所 准教授 宮本智之氏

◆改革のための戦略
 セミナーは、同分科会幹事である三重大・大学院工学研究科教授の村田博司氏の司会でスタート。一番手で「Society5.0におけるフォトニクス」を講演した幹事長の尾松氏は、Society5.0とフォトニクス技術の関わりや同分科会が推進する改革を紹介した。本稿では、改革部分にスポットライトを当ててレポートする。
 尾松氏は、膨大な情報をAIで処理することで実現するSociety5.0には、レーザという光のインフラによって「測る」、「視る」、「伝える」という三つの技術が必要不可欠であり、フォトニクスが目指す目標とSociety5.0には整合性があると指摘した。
 一方、学会を取り巻く状況は厳しく、少子化等の影響もあって応物の会員数は毎年1%ずつ減少している。その背景には、学会は「単なる大学研究者の発表の場」であって、「実業につながらない」、「大学を卒業したら関係なくなる」、「国際化に乗り遅れている」ので、結論として「つまらない」し、「役に立たない」という印象を多くの人に持たれていることがあるようだ。
 尾松氏は、このままでは学会の使命である社会還元が果たせなくなる時が来ると警鐘を鳴らすとともに、今こそ学会運営を見直すべきであり、光技術という社会との連携が深い技術領域を扱う同分科会が率先して改革に取り組むとして、その戦略を紹介した。
 戦略の柱は、学際的研究の推進・支援・発信、産学官連携におけるハブ化、国際化、若手人材の育成などだ。同分科会では毎年、春と秋に開催される応物シンポジウムを単なる基礎研究の発表の場ではなく、学際的な企画に変えて行った。フォトニクスと熱(フォノンエンジニアリング)やペロブスカイト、光AIというテーマの他にも、フォトニクスが生み出すイノベーションと新産業創出という切り口でImPACTの高出力パルスレーザの開発と応用を取り上げるなど、シンポジウム内容を斬新なものに変えて行った。
 分科会の機関紙であるフォトニクスニュースの編集では、特集記事に必ず応用の切り口でストーリー性を持たせるよう内容を変更した。
 産学連携支援という面では、企業の人とフェイス・トゥ・フェイスで触れ合う機会を創出するため、今回初めてInterOptoにおいてセミナー開催を実施。同分科会がシーズとニーズの橋渡しの役割を担って産学の研究者交流を行うとともに、賛助会員への展示ブース提供やホームページでの無料広告掲載も行っているという。
 さらに、米国の産学官連携・製造統合プロジェクト「AIM Photonics」において、OSAやSPIEといった学会が主導的な役割を担っていることを例に挙げ、我が国においても同分科会が先陣を切ってこの役割を担って行くと決意を述べた。我が国には幅広い、膨大な数の光企業が存在している。同分科会の現在の賛助会員を含め、さらに多くの企業と一体化して日本の将来の学術と産業を担う、新しいプラットフォームを創っていく戦略を立案中だという。
 国際化についても、すでに秋の応物シンポジウムでの発表の1/3を英語化、将来はこれを半分以上にしたいと抱負を述べた。9月にはJSAP-OSAのジョイントシンポジウム、11月にはJSAP-OSA-OSJ-OSKのオプティクスシンポジウム、来年3月にはJSAP-SPIE特別シンポジウムを開催する。
 若手人材教育においては、沖縄科学技術大学院大学(OIST)とのコラボレーションで、大学院生と外国人研究者との合宿交流を実施、日本に少ないスチューデントチャプターをより活性化させ、学生による学会運営を推進するとともに、顕著な研究成果を挙げた若手にはフォトニクス奨励賞を授与するなど、若い人のモチベーションを促す活動を行っていると報告した。
 尾松氏は最後に「ローマは一日にして成らず」という諺とともに、作家で思想家のヘンリー・デイビット・ソローの「物事が変わるのではない。私達が変わるのだ」や「人は失敗するために生まれるのではなく、成功するために生まれるのだ」という名言を示し「われわれと一緒に未来を変えてみませんか?」と聴衆に訴え、講演を終えた。

◆注目の最先端技術
 次に登壇した東大の小関氏は「細胞ビッグデータ解析に向けた高速分子イメージング」というテーマで講演、分子振動分光法を用いつつ高速イメージングを実現する誘導ラマン散乱(SRS)顕微法を紹介した。
 小関氏は、細胞の構造と機能を正しく理解することが生命科学、医学、バイオ産業の発展に不可欠とした上で、そこに存在するスループットと精度の間のトレードオフの壁を突破して細胞ビッグデータを解析することの重要性を語り、SRSを用いた高速イメージング法の原理や応用、多数の微細藻類の分子イメージング等に関する研究を紹介した。

 最後の講演は、東工大の宮本氏による「光無線給電はIoTをさらに拡げるか?」だ。情報通信の分野では、もはや無線通信が標準になったと言っても過言ではない。最後に残っているのが機器の給電であり、これも無線化することで、IoTに用いられる多数の端末が高機能化できるなど、多様な展開が期待できる。
 光無線給電方式は、既存方式に比べて小型、長距離給電、電磁ノイズフリーといった優位性を有する。その一方で、光源と太陽電池という既存デバイスで構成されるこの方式は、十分な検討が進んでいないのが実状だ。宮本氏は、光無線給電の特徴、特性、課題、研究状況などの最新動向を紹介した。

◆展示ブースと次回研究会
 All about Photonics 展示会場の特設ステージ脇には、AGCの協力を得て同分科会の展示ブース(写真下)が設けられ、透明ディスプレイを使って来場者に分科会活動などが紹介されていた。
 なお、11月30日(金)と12月1日(土)の両日、沖縄のOISTにおいて第3回フォトニクス研究会が「光の可能性を追求する!!」というテーマで開催される。研究会を含め、同分科会のアクティビティの詳細は下記URLを参照してほしい。
https://annex.jsap.or.jp/photonics/

展示ブース

展示ブース


(川尻 多加志)