October, 16, 2018, 東京--日本学術振興会(理事長:里見進氏)ワイドギャップ半導体光・電子デバイス第162委員会(委員長:上智大・岸野克巳氏)の第110回研究会・特別公開シンポジウムが、9月27日(木)と28日(金)の両日、東京大学駒場IIキャンパス生産技術研究所コンベンションホールにて開催された。
ワイドギャップ半導体への期待
窒化物や炭化物、酸化物などのいわゆるワイドギャップ半導体は、材料としてバンドギャップが大きく、かつ高い電子移動度や耐高温度性、さらに無害といった特長を有していることから、情報技術や省エネルギー技術を支える新機能短波長光デバイス、超高速電子デバイス、大電力デバイス、省電力電子デバイス、白色LED、太陽電池などを飛躍的に進化させる可能性を秘めている。
同委員会は、このワイドギャップ半導体の結晶成長や物性制御、さらにはデバイス化までを視野に入れ、産業界と学界の研究者が協力することによって革新的な基盤科学技術を確立するために活動を続けてきた。1996年発足当初の名称は「短波長光デバイス」であったが、5年後の第2期からは現在の名称に変更されている。
委員会の取り扱う研究テーマとしては、短波長LDやLEDの開発、超高周波・大電力・高温動作・省電力電子デバイスの開発、グリーンテクノロジーの開拓の他、ワイドギャップ半導体材料のエピタキシ制御、物性制御、新材料開拓などが掲げられているが、焦点を光エレクトロニクス分野に絞ってみると、緑色を初めとする可視LDの開発、紫外領域でのLEDならびにLDの開発、窒化物系赤色発光素子開発による可視から紫外までの全窒化物化、高効率白色LEDや高効率太陽電池などの開発が目標とされている。
進展する紫外発光デバイスの研究開発
110回を迎える今回の研究会は、特別公開シンポジウムという形を取り「紫外発光デバイスの最前線と将来展望」というタイトルで、最先端の研究開発事例が紹介された。
深紫外発光デバイスは、殺菌や浄水、さらには医療を中心とした市場展開が進みつつある。企業間では、高出力化や高効率化、信頼性向上に向けた素子開発で激しい競争が繰り広げられている。最近では、電力変換効率が10%を超える深紫外LEDも実現され、高出力化においても目覚ましい進展が見られる。
シンポジウムでは、AlGaN系深紫外発光デバイスについて、AlN基板、結晶成長、基礎物性評価と高効率発光に関する最新の研究開発事例とともに、非線形光学結晶を用いた波長変換紫外レーザについても紹介された。
本レポートでは、初日(27日)に行われたチュートリアル講演の中から、高効率化・高出力化という非常に重要な研究開発課題を俯瞰的に解説した、理研・平山秀樹氏(写真)のチュートリアル講演「深紫外LEDの課題、進展と将来展望」を中心にレポートする。平山氏は、今回のシンポジウムの企画主査でもある。初日プログラムの題目と講演者は以下の通りだ。
◆委員長挨拶:岸野克巳氏(上智大)
◆企画趣旨説明:平山秀樹氏(理研)
◆チュートリアル1:紫外発光デバイスの基礎と結晶成長
・深紫外LEDの課題、進展と将来展望:平山秀樹氏(理研)
・AlNテンプレート高品質化の進展:三宅秀人氏(三重大)
◆チュートリアル2:紫外発光物性・波長変換レーザー
・AlN、AlGaN薄膜および量子井戸の発光特性:秩父重英氏(東北大)
・波長変換による全固体紫外レーザー光源の進展とその応用:森勇介氏(阪大)
高効率化・高出力化への道
「深紫外LEDの課題、進展と将来展望」を講演した理研の平山氏は、深紫外LEDの効率・出力は青色LEDに比べ、まだ非常に低いと指摘した。LEDの外部量子効率(EQE)は、内部量子効率(IQE)、電子注入効率(EIE)、光取り出し効率(LEE)の積によって決まるが(電力変換効率(WPE)も非常に重要)、AlN結晶の貫通転位密度の低減とInの組成変調によって1%程度だったIQEは50%程度に向上、EIEも多重量子障壁(MQB)によって20%以下だったものが80%を超えるようになった。一方、LEEは現在のp-GaNコンタクト層を用いた構造では向上が難しく現状では10%程度、これらを掛け合わせると実験室レベルでもEQEはたかだか7~10%程度に留まっているのが実情だ。
IQEについては、高温アニール(1700℃)再結晶法でAlNの転位密度を大幅に軽減して70%以上の向上が報告されている。PSS(サファイア加工基板)上AlNの高品質化によっても同じく70%以上の向上が報告されており、AlN単結晶基板の採用によっても向上が期待できる。EIEについては、280nmであればシングル電子ブロック層で高い効率が実現でき、250nm以下の波長ではMQBが有効、Pドープ効果も注目すべきだ。LEEについては、コンタクト層の透明化や高反射電極の採用が検討されているが、コンタクト層を透明にするとコンタクト抵抗が上がって電圧ロスが発生、WPEをかえって低下させてしまうというトレードオフがあるので、WPEの高出力化は今一番議論すべきテーマだという。レンズの採用や縦型構造にして裏面をモスアイ構造にする方法も注目されている。
平山氏は、p-GaN低抵抗コンタクト層を用いた場合でも高反射で高いLEEを実現できる構造として反射フォトニック結晶(PhC)の利用を提唱した。p-GaN抵抗コンタクト層に反射PhCを形成して、基板の裏側にレンズを取り付けることで従来の3倍の36%というLEEを実現しており、サファイア基板を剥離して縦型構造とすることで、50%以上のLEEも可能であることが分かったという。
研究では、高品質AlNによって50%以上のIQEを実現するとともに、LEEの効率向上によって20.3%のEQEと10.8%のWPEを実現、さらにナノインプリントとドライエッチングでPhCの微細加工を行い、その反射効果によって、電圧を上げることなく1.7倍のLEE向上に成功、今後最高で2.8倍の向上が期待できるという。平山氏はPSSとレンズ効果に加え、反射PhCの最適化と縦型化および高反射材パッケージの開発を組み合わせてLEEをさらに向上させ、EQE40%とWPE20%の高効率化と高出力化を目指すと述べた。
三重大の三宅氏は「AlNテンプレート高品質化の進展」を講演した。高効率AlGaN深紫外LEDを実現するには、高品質なAlN/サファイア・テンプレートが必要とされている。三宅氏は、低コストでかつ大口径での堆積が可能なスパッタ法に着目、このスパッタ法でサファイア上に堆積したAlN層に対してFace to Face法を用いて1700℃で1~3時間アニールを行い、貫通転位を108cm-2台前半まで低減させた高品質AlNテンプレートの作製に成功した。
東北大の秩父氏は「AlN、AlGaN薄膜および量子井戸の発光特性」の講演の中で、時間分解ルミネッセンス(TRPLならびにTRCL)や時間空間分解カソードルミネッセンス(STRCL)、陽電子消滅測定(PAS)といった各種評価法を概説するとともに、AlN、AlGaN昆晶薄膜、量子井戸の発光特性について、励起子、発光ダイナミクス、点欠陥起因非輻射再結合中心(NRC)という観点から考察を行った。
阪大の森氏は「波長変換による全固体紫外レーザー光源の進展とその応用」の講演で、深紫外波長変換素子、CLBO開発の歴史を振り返った。溶液攪拌法や水溶原料合成法の開発、結晶内部の水不純物を低減する脱水処理技術や結晶成長条件の検討などによって高いレーザ損傷耐性を持つCLBOは開発された。これを用いて266nmのピコ秒パルスレーザで平均出力25.6W(変換効率35.8%)を達成、現在はレーザ加工機の試作と加工実験への展開を図っているとのことだ。複数のベンチャー起業を経験した森氏は、ベンチャー向きの技術は進化すればするほど価格が向上する特殊な製品、いわば川上の商品が向いていて、ニッチで注文生産なので競合は少なく、利益率が大きいとも指摘していた。
チュートリアル講演の後は、別会場において若手研究者・学生の議論の場としてポスター討論・意見交換会も開かれ、最先端の研究に対して多角的な議論が交わされた。
また、二日目(28日)には、名城大、トクヤマ、日亜化学、ナイトライド・セミコンダクター、旭化成、LG Innotekなどが、深紫外デバイスの基板、ドーピング、高効率化、光取り出し、製品応用に関する最新の研究開発レビューを行うとともに、富士キメラ総研は深紫外LEDの市場動向と今後の展望を紹介、さらにはモデレータを含むレビュー講演者数名によるパネル討論も行われた。
(川尻 多加志)