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高ボーレート化が進展する光ネットワーク
光ネットワーク産業・技術研究会、平成30年度の第2回公開討論会を開催

August, 23, 2018, 東京--光産業技術振興協会 光ネットワーク産業・技術研究会(代表幹事:千歳科学技術大学・山林由明氏)の平成30年度第2回公開討論会が7月31日(火)、慶應義塾大学・三田キャンパス(東京都港区)において開催された。
 同研究会は、光ネットワークにおける光ノードや光スイッチ、光伝送装置、次世代光ファイバ、光アクセス系、光インタコネクション等に関連する産業・技術動向の情報収集や意見交換を行うとともに、産業界関係者に学官を交え将来展望を討論することで、光ネットワーク分野の産業育成と振興を図ろうと2001年に設立されたもの(設立当初の名称は、光ネットワークに関する技術・産業懇談会)。これまで光ネットワークに関する最新の産業・技術テーマで討論会を開催するなど、積極的に活動を続けてきた。

プログラム
 今回のテーマは「次世代光送受信技術動向」。注目を集めるボーレートの高速化を中心に、光送受信に関する最新の技術動向が紹介された。当日プログラムは以下の通りだ。

1 挨拶:植之原裕行氏(担当幹事、東工大)
2 データセンター・5Gワイヤレスを支える超高速半導体レーザの技術動向:魚見和久氏(日本オクラロ)
3 デジタルコヒーレント通信用InP光送受信デバイス:上坂勝已氏(住友電工)
4 高シンボルレート光伝送に向けた超高速アナログマルチプレクサ・アナログ帯域拡張デバイス技術:長谷宗彦氏(NTT)
5 Probabilistic shaping technology for future digital coherent optical communication:Ezra IP氏(NEC)
6 ストークスベクトル変復調光集積デバイス:種村拓夫氏(東大)

ボーレートの高速化
 挨拶に立った東工大の植之原氏は、データセンタの発展や2年後に実用化が迫る5Gモバイルの成長などに向け、光ファイバ通信ネットワークの高速・大容量化に対する要求はますます高まっていると述べた。同研究会では、1年に1回は光送受信系デバイスを討論会で取り上げているそうだが、今回は主要国際会議等において議論が盛んなボーレート(Baud rate:1秒間あたりの変調回数、シンボルレートとも言う)の高速化を中心に据え、通常より講演を1本増やしたとも述べた。
 「データセンター・5Gワイヤレスを支える超高速半導体レーザの技術動向」を講演した日本オクラロの魚見氏は、半導体レーザの直接変調方式とEA変調方式での超高速変調技術を担ってきた設計・材料技術に関するブレークスルーを過去から俯瞰的に紹介。今後PAM4変調方式が基軸になるであろうと指摘したうえで、400Gb/sとその先の800Gb/sに向けた、さらなる性能向上と省電力化へのチャレンジとアプローチに関する研究動向と将来展望を解説した。
 次に「デジタルコヒーレント通信用InP光送受信デバイス」を講演した住友電工の上坂氏は、高ボーレート化に伴ってトランシーバ内にコヒーレント通信用デジタル信号処理ICを実装するDCO(Digital Coherent Optics)タイプが主流になりつつあると指摘するとともに、InP材料をベースとしたコヒーレント光デバイスは、小型・低消費電力・広帯域・低光損失/高感度特性に適しており、光デバイスは光源(ITLA:Integrable Tunable Laser Assembly)、変調器(CDM:Coherent Driver Modulator)、受信機(ICR:Intradyne Coherent Receiver)の個別デバイスから、全てを集積したIC-TROSA(Integrated Coherent-Transmitter Receiver Optical Sub-Assembly)へ移行すると述べた。
 「高シンボルレート光伝送に向けた超高速アナログマルチプレクサ・アナログ帯域拡張デバイス技術」を講演したNTTの長谷氏は、超1Tb/s(超100GBaud)光伝送システムでは、ADC(アナログ/デジタル変換器)とDAC(デジタル/アナログ変換器)におけるアナログ帯域がボトルネックになっていると指摘。InPヘテロ接合バイポーラトランジスタ(HBT)によるアナログマルチプレクサ回路(AMUX)と前置デジタル信号処理を付加することでCMOS-DACのアナログ出力を2倍に拡張できる帯域ダブラ技術を新たに開発、その原理実証実験に成功するとともに、同技術を用いて超100GBaudでのデジタルコヒーレント伝送に成功、その有用性を確認したと述べた。
 休憩をはさんでの講演「Probabilistic shaping technology for future digital coherent optical communication」を取り上げたNECのIP氏は、Probabilistic shapingを用いた144QAMによって148×32 GBaud/33GHzで41.5Tb/s伝送と周波数利用効率9.02b/s/Hzを達成、96×48 GBaud/50GHzで38.1Tb/s伝送と周波数効率8.28b/s/Hzも達成したと述べた。
 最後の講演は、東大の種村氏の「ストークスベクトル変復調光集積デバイス」。光の編波状態(ストークスベクトル)に情報を乗せるストークスベクトル変調直接検波(SVM-DD:Stokes-vector modulation direct-detection)方式を解説した。これは、高価なデジタルコヒーレント技術を用いることなく光信号の多次元化を実現するというもので、SVM-DD送受信機の低コスト化・小型化に向けて、InP基板上にモノリシック集積した偏波変換素子を用いたストークスベクトル変復調デバイスの開発を紹介した。

研究会の今後の予定
 光ネットワークは、ネットワークを使う側と提供する側だけでなく、デバイスからシステム、ネットワーク、さらにはサービス・運用などの総合力で成り立っている。これを踏まえ、光ネットワークに関する最新の産業/技術に関連したテーマを今後も提供したいとする同研究会では、公開ワークショップも1年に1回開催しているそうだ。今年は11月2日(金)に、東工大・蔵前会館(大岡山キャンパス)で、この公開ワークショップが開催される。テーマは「次世代の光ネットワーク動向」の予定だ(下記URLを参照)。
http://www.oitda.or.jp/main/study/pnstudy/pnstudy.html
(川尻 多加志)