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情報通信技術の明日はどっちだ ‐混乱する!?標準化‐
光材料・応用技術研究会、平成30年度第1回研究会を開催

July, 2, 2018, 東京-- 光産業技術振興協会(光協会)の光材料・応用技術研究会の平成30年度第1回研究会が6月15日(金)、東海大学高輪キャンパス(東京都港区)において開催された。
 同研究会は、1989年度に「LN結晶研究会」として発足、以来研究会の守備範囲と名称を変えながら、光学結晶および光学材料から関連デバイスまでの広範囲な分野においてユニークな研究会活動を展開してきた。1998年度には現在の「光材料・応用技術研究会」と名称を改め、光学材料関連のデバイス・システムまで範囲を広げて活動を続けている。

プログラム
 今回のテーマは「情報通信技術 —5Gモバイル・100Gbpsと以降の展望— 」。情報通信分野において今一番ホットな話題が取り上げられた。当日プログラムは以下の通りだ。

1. 代表幹事挨拶: 皆方誠氏(静岡大:写真)
2. 光通信技術の最新動向:平野章氏(NTT)
3. 100Gbps 光通信用デバイスを支えるパッケージング技術 ~縁の下から主役に?~:望月敬太氏(三菱電機)
4. 高密度ユーザ環境における5G無線のための有線・無線融合技術 ~大規模サッカースタジアムにおける5G無線実験~:村田博司氏(三重大)
5. 相変化材料を用いた光導波路機能素子:津田裕之氏(慶應大)
6. 国際会議OFC2018報告:松本敦氏(NICT)

デファクトVS. デジュール
 代表幹事の皆方氏は、研究会設立以前LNを研究するグループが数多く存在したが、それぞれの研究の進捗状況はあまり芳しくなかった、と30年前を振り返った。そこで、自らの所属は脇に置いて皆でLNについて討論しようと、光協会の中に結晶の標準化をテーマに据え「LN結晶研究会」が設立されたのだという。
 皆方氏は、2020年以降の次世代移動・無線技術である5GはAI、IoT、ロボット、自動運転、フィンテック等の飛躍的な発展に貢献するとして、現在の1,000倍の高速大容量、10分の1の超低遅延、100倍の多数同時接続が実現できれば、ビジネスやライフスタイルは劇変すると述べた。経済効果も絶大で、市場は2015年の108兆円から2025年には1,300兆円に成長するとの予測も示した。
 講演では情報通信分野の最新動向がそれぞれ紹介されたが、本レポートでは光通信全般にスポットライトを当てた2番目の講演者、NTTの平野氏による「光通信技術の最新動向」を紹介する。
 平野氏は、2020年から2030年にかけての光トランスポートネットワークの将来像は、5Gの浸透・普及によって人に紐づくトラフィックの増大とIoTの進展によってモノがつながる新しい社会インフラが構築されると述べた。
 IoTの進展でコネクテッドカーが実現すれば、車は外部と通信を行うスマートフォン化やエンターテイメント化する。スマートホームにおける監視カメラ情報の伝送やスタジアムでの撮影映像・動画のアップロードも増えていく。一方、これまで行ってきた人口分布等からのトラフィック予測が困難になるため、ネットワークのインテリジェント化によるバースト、ピーク対応が必要になる。平野氏は、サービスアプリ投入からトラフィック増大までの時間をこれまでの事例から予測、IoTの本格化から5年遅れでトラフィックは爆発すると指摘した。
 2030年時点のトラフィックに対応するには、無線容量の拡大(高速化、マイクロセル化による基地局数増加に伴う高密度配置)に合わせて、光アクセスの大容量化と効率的な収容技術が必要。既存のFTTH設備と効率的な共存・移行も課題で、コア・メトロネットワークについても5T級の超大容量伝送と超低電力化は必須だ。
 2020年頃にはシングルコアの限界がやって来るという。そして2030年時点での100Tbpsを超えるファイバ容量を実現するには、従来の波長多重に加えてマルチコア等の空間多重を活用した超並列多重化が必須。ファイバやコネクタ等を含めた空間多重光伝送関連技術、一括低雑音光増幅技術、高集積光送受信モジュール技術と光信号処理技術、複数DSPによる10T級パラレル信号処理技術(マルチDSPモジュール)が必要になる。
 「標準化が混乱している」と平野氏は指摘する。ICT機器開発におけるOTT(Over The Top:GoogleやFacebookなど)の影響力は増大している。北米における設備投資額では通信キャリアを抜きつつある。彼らは標準化を気にしない。デファクトでネットワークを作る。大量調達すれば作ってもらえるのだ。データセンタ向けポートでは実際、非標準の調達が増えている。
 データセンタでは、ネットワークコストの低減が最優先。それゆえデータセンタとキャリアの運用条件はかなり違う。耐用年数、推奨温度範囲、装置建設方法、伝送路や機器の冗長性、データセンタはキャリアに比べて条件が緩い。その違いは、データセンタでは全てのデータを一つのデータセンタのサーバーに保存するのではなく分散的に保存しているので、一つが駄目になってもサービスに影響がないというアーキテクチャから来る。
 平野氏は、IEEE、ITU、OIF、CableLabsといった標準化機関における標準化の現状と動向も紹介した。伝送レートのフレキシブル化のトレンドとしては、100Gの次は400Gだけでなく、n×100Gbps(200G、300G、500G)の定義で議論が進んでいるとのことだ。
 デファクトスタンダードとデジュールスタンダード(国際標準化機関による規格)が対立している。そして、デファクト側は光トランスポートのオープン化を進めようとしている。動きの一つがfacebookの発足させたTIP(Telecom Infra. PJ)だ。従来のテレコムネットワークにおけるインフラ構築手法を分解するとも言われている。この他、ATTはROADMに異なるメーカのトランスポンダ等を組み合わせることができ、低価格の部品・装置の調達が可能なOpen ROADMを発表。マイクロソフトは、レイヤー2/3スイッチにコヒーレント・インターフェースを搭載して、トランスポンダを省略するMicrosoft Open line Systemを発表した。データセンタ相互接続の場合はP to P通信が基本、トランスポンダに多機能性や伝送に特化したオペレーションシステムは求められていないのだ。

研究会の今後に期待
 研究会では最新の情報通信技術が披露された。国際会議報告では日本のプレゼンスや世界の研究開発トレンドを効率よく把握できる。同研究会では、これまでも3年ワンクールで見直しをしながら活動を続けてきた。2019年度以降については今年暮れにもアンケートを取って、研究会の継続を判断するとのことだが、材料を制する者はビジネスを制するとまで言われる。研究会の継続をぜひ望みたい。
(川尻 多加志)