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微小光学研究会 特別セミナーを開催
光学の基礎とこれからの応用を学び、未来を探索!

June, 25, 2018, 東京-- 6月12日(火)と6月13日(水)の両日、東京大学 先端科学技術研究センター ENEOS ホール(駒場Ⅱキャンパス)において、応用物理学会 微小光学研究会主催による第20回微小光学特別セミナーが開催された。
 20回目を迎えるこのセミナーは、本格的に研究活動を始める大学院生や光関連の商品開発を担当することになったフレッシュな企業研究者を対象に、幅広い知識を得るための足掛かりになればという趣旨で企画されたものだ。「微小光学 -基礎とこれからの応用-」というテーマが表すように、基礎的な光学関連分野のキーデバイスやキーテクノロジーを幅広く網羅した内容となっている。

微小光学研究会
 微小光学研究会は1980年12月、応用物理学会の分科会である光学懇話会(現在の日本光学会)の一研究グループとして、微小光学研究の推進および微小光学技術の普及/発展をはかることを目的に発足した。これまで研究会などの主催、国際会議の運営、微小光学研究分野に関わる広報活動、その他、本研究会の目的達成に必要な事業・活動を行ってきた。名称は、応用物理学会 日本光学会 微小光学研究グループから、2015年1月には応用物理学会 微小光学研究会に変わった。
 研究会の主な委員は、代表:伊賀健一氏(元東工大:写真)、副代表:後藤顕也氏(元東海大)、運営委員長:中島啓幾氏(早大)、運営副委員長:波多腰玄一氏(早大/元東芝)、実行委員長:横森清氏(ナノフォトニクス工学推進機構)、実行副委員長:宮本智之氏(東工大)の面々だ。
 同研究会では、微小光学および関連分野の最新トピックスについて、当該分野および関連分野の今後の展開に向けた討論を活発に行うことを目的とした研究会、「微小光学研究会」を年に4回開催している。この講演論文は「Micro optics News」に掲載される。
 国際会議としては、微小光学素子とそれらを用いたシステムや関連分野に関する最新の研究成果を発表し議論するとともに、この分野の発展のための討論を活発に行うことを目的とした「MOC(Micro Optics Conference)」を2年に1回、西暦の奇数年には国内で、偶数年には海外で開催している。
 国内においてMOCのない偶数年には、微小光学分野の理解を深めるために、重要領域の基礎や注目領域などを短期間で幅広く学べる機会を提供する「微小光学特別セミナー」を開催している。今回取材したのが、このセミナーだ。この他、当該分野の専門書籍の出版も行なっている。

特別セミナープログラム
 今回のプログラムは以下の通りだ。なお、ここで表記されている「ディスカッサー」については、後述を参照していただきたい。

6月12日(火)
(1) 開会の挨拶:横森清氏(所属・前掲)
(2) レンズ光学 -幾何光学の基礎といろいろな光学機器-:森伸芳氏(山下電装)/ディスカッサー:志村努氏(東大)
(3) 計算イメージング -光学における情報科学のインパクト-:堀崎遼一氏(阪大)/ディスカッサー:横森清氏(前掲)
(4) 光導波路 -導波の原理と光集積回路への応用-:高橋浩氏(上智大)/ディスカッサー:浜本貴一氏(九大)
(5) 光変調と光スイッチ -似て非なる機能と性能-:中島啓幾氏(前掲)/ディスカッサー:後藤顕也氏(前掲)
(6) VCSELフォトニクスと光制御・操作:小山二三夫氏(東工大)/ディスカッサー:東盛裕一氏(ツルギフォトニクス財団)
6月13日(水)
(7) 光ファイバー -基礎から光通信・レーザ・センシグ応用まで-:山下真司氏 (東大)/ディスカッサー:金森弘雄氏 (住友電工)
(8) 量子光学 -光の量子化とその周辺-:岩本敏氏(東大)/ディスカッサー:波多腰玄一氏(前掲)
(9) 半導体レーザーとLED -半導体はなぜ光る?-:波多腰玄一氏(前掲)/ディスカッサー:伊賀健一氏(前掲)
(10) 受光デバイス・太陽電池 -光信号として受信するか、光エネルギーとして受光するか-:加藤和利氏(九大)/ディスカッサー:宮本智之氏(前掲)
(11) 閉会の挨拶:中島啓幾氏(前掲)

トピックスとディスカッサーの役割
 各講義の概要や(あくまで個人的に)印象に残った点を列記してみたい。
 (2) レンズ光学:光の伝搬、幾何光学、近軸光学の他、スマホを始めとした様々な光学機器のレイアウト等を解説。(3) 計算イメージング:情報科学は光学における有用なツール。光学システムの再考を迫り、物理“学”フリーの計測・制御を実現する。(4) 光導波路:光集積回路は位置誤差が波長の1/100以下で干渉計を設計通りに作製可能。シリコンやInPの半導体導波路の実用化も進展中。(5) 光変調と光スイッチ:光変調器は材料・構成など百花繚乱。光スイッチは本命不在で半世紀が過ぎたが光集積回路の本来のターゲット、デジタル素子に期待。(6) VCSELフォトニクスと光制御・操作:さらなる高速化と多波長集積化、波長エンジニアリングや光集積化が進展。LiDARや近距離センサ、加工等、新たな高出力応用にも期待。(7) 光ファイバー:空間多重方式と超高速デジタル電子技術を用いた超大容量・長距離通信の研究が進む。光インターコネクションはチップ間やチップ内へ進み、ファイバーレーザを用いた加工やOCT、センシング応用の研究も進展。(8) 量子光学:エネルギー量子としての光子、光の量子性と量子化、強度相関関数と単一光子など、講師いわく出来る限りイメージ中心で概略を解説した。「物理学者は光子が何であるかを知っていると思っている。私は光子が何であるかの答えを見出すのに、一生を費やしたが未だわからない」というアインシュタインの言葉を紹介。最先端領域でのスリリングな議論が交わされた。(9) 半導体レーザーとLED:半導体はなぜ光る? 反転分布とは? 遷移とは? なぜpn接合が必要か? 半導体レーザーの横モード、縦モードとは? LEDの色温度、主波長とは? 結局、半導体レーザーとLEDとはどこが違うのか? 等々、いまさら聞けない疑問に答える。(10) 受光デバイス・太陽電池:pn接合や空乏層の説明の他、受光デバイスの基本動作、高周波応答特性、受光感度と量子効率、構造と動作においてフォトダイオードと太陽電池の違いを解説。受光デバイスの雑音についても解説した。
 今回のセミナーで特徴的だったのは、講義内容がより一層理解できるよう、講師の他に「ディスカッサー」という役割の人が加わり、講義を進行した点だ。ディスカッサーは講義の途中でも、説明不足と感じたら聴講者がより理解できるよう内容を補足するための質問をしたり、また他の質問者と講演者の間における議論を深化させるような役目も担っている。それゆえ、時間の関係などがあって、どうしても通り一遍になりがちな一般的な講義や講演とは、ひと味違うセミナーになったという印象を受けた。伊賀代表は、将来どこに生きる道があるのか、それを探索してもらうがこのセミナーの役割だと述べていた。

今後のイベント
 MOC2018(23rd Micro Optics Conference)は、10月15日(月)から18日(木)まで、台湾・台北にあるChang Yung-Fa Foundation International Convention Centerで開催される。
 一方、研究会としては9月5日(水)、日本女子大・新泉山館(東京都文京区)で第149回微小光学研究会が開催される。テーマは「認識・認証の微小光学」だ。基調講演で「ディープラーニング」を岡谷貴之氏(東北大)が、特別講演で「自動運転センシング」を野辺継男氏(インテル)が講演を行う。
 12月18日(火)には、東工大(東京都目黒区 大岡山キャンパス)デジタル多目的ホールにおいて、第150回記念研究会「微小光学の重要技術からのぞむ将来社会(仮)」が開催される。1件10分程度の短時間の講義を約30のテーマで行うという、これまでにないユニークな構成の研究会になるもよう。
 現状で予定されているテーマは、(1) 微小光学研究会の生い立ち、(2) 半導体レーザーと微小光学のあけぼの、(3) スキャナー光学、(4) 光メモリ、(5) 半導体レーザーとLED、(6) スマートイメージングとレンズ、(7) レーザーディスプレイとスマート照明、(8) QD、(9) PhC、(10) POF、(11) 有機ELと有機LD、(12) 光ファイバー、(13) 波長掃引半導体レーザー、(14) 光通信用半導体レーザー、(15) 光ファイバー伝送の大容量化・長距離化、(16) 波長多重と微小光学デバイス、(17) 光センシング、(18) 面発光レーザー、(19) 青色・紫外LED、(20) ナノLED、(21) 光変調器、(22) 光アイソレーター等々。テーマはさらに加わる予定だ。
 なお、これらイベントの最新情報は、下記ウェブサイトに掲載される。ぜひアクセスを。
http://www.comemoc.com/
(川尻 多加志)