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進化する「ユビキタス・パワーレーザー」

右上掲載写真

March, 19, 2018, 東京--レーザの発明は、20世紀最大の発明の一つに挙げられている。今では研究開発から産業までの幅広い分野で応用されており、数多くの成果も上げてきた。その一方で、パワーレーザはまだまだ装置が大きく、取り扱いも簡単とは言えない。それが原因となって、より広範な分野への適用が妨げられているのも事実だ。
 このレーザを、何時でも、何処でも、誰でも使えるようにしようというプロジェクトが進められている。ImPACTプログラム「ユビキタス・パワーレーザーによる安全・安心・長寿社会の実現」だ。このプロジェクトでは、究極の光と言われるX線自由電子レーザ(XFEL)の超小型化や高出力パルスレーザを手のひらサイズにまで超小型化する技術を確立して、安全・安心で快適な生活を送るための新技術・新産業を創出することを目的としている。
 プロジェクトのまとめ役は、佐野雄二・プログラムマネージャー(PM)だ。スタートしてから3年半が経ち、プロジェクトも余すところあと1年、着実に成果も上げて来た。プロジェクトは大きく二つのテーマに分かれる。XFELと超小型・高出力パルスレーザだ。超小型・高出力パルスレーザは、さらに二つに分かれる。一つがハンドヘルドレーザを実現するマイクロチップレーザ、もう一つがセラミック媒質と半導体レーザ(LD)を組み合わせたテーブルトップ高出力小型パワーレーザだ。プロジェクトの概要を紹介しよう。

XFELは、原子レベルの構造をフェムト秒の時間分解能で観ることができる。創薬や触媒など、多くの研究開発分野で有用な最先端の研究開発基盤になると期待されている。一方の高出力パルスレーザは、材料の材質改善や曲面形成ができ、インフラなど構造物の寿命を延ばしたり製造工期の短縮、3Dプリンタのような新たな加工・成形技術への展開も可能だ。
これらが実現できれば、原子レベルの計測技術であるXFELが、各機関や企業で何時でもすぐに使えるようになる。それによって、研究開発サイクルを大幅に短縮でき、競争が激しい創薬の開発など、国際的な研究開発力の向上が可能になる。また、高出力パワーレーザの超小型化によって、これまでは適用が難しかった生産・製造技術への展開が可能になり、生産技術の革新も可能になる。さらには時間や場所を選ばないユビキタスな設備診断、インフラの補修、生体撮像や粒子線治療など、様々な応用が可能になり、安全で安心な長寿社会を実現できると期待を集めている。

◆「レーザー加速XFEL実証」

XFELを利用できる設備は、日本では兵庫県の理化学研究所・播磨事業所にあるSACLAだけ。装置を利用できるユーザーも限られており、利用できる機会も多くないのが現状だ。研究や技術開発において世界的な競争に勝つには、より多くのユーザーが何時でも装置を使えるようしなければならない。そのためには各機関に配備できるような装置の小型化が必要となる。
XFELを発生させるためには、電子を光速近くまで加速するための加速器と、電子を蛇行させてX線を発生させるための磁石列、アンジュレータが必要だ。ただ、この二つが装置の大型化の原因となっている。プロジェクトでは、先ずレーザプラズマ電子加速技術によって加速器の電子加速長を1/1000にする。
電子加速器には、内部に高い電場を印加できる加速管が用いられる。電子を速く加速するには高い電場をかけるほど良いが、強くかけすぎると電子が破壊されてしまう。そのため、電子を少しずつ加速させていかなければならないのだが、そうすると今度は加速長が数百m~数kmにもなってしまう。一方、レーザを使ってプラズマを発生させれば、非常に高い電場を作れるので、光速近くまで加速する距離が数cm以下で済み、約1/1000の距離での電子加速が可能になる。
 アンジュレータについては、一体着磁型を用いて1/10という小型を実現する。アンジュレータは、幅が数十mmの短冊状の磁石を数千~数万個も並べて作るのだが、磁石を一つずつ並べて固定するため、磁石の幅を数mmオーダーまで小さくはできない。そこで、長い板状の磁石内にハードディスクのようにNSを着磁させ、磁石周期を約1/10の長さにする。プロジェクトでは、この二つの技術を組み合わせて、施設サイズを現状の1/100以下にする技術を確立する予定だ。
 この計画では、XFELの超小型化をいち早く実現し、圧倒的な優位性を確保するとともに、開発技術や装置を海外にも展開し、日本発の技術として標準化を図る。さらに、超小型XFEL技術を既存の加速器や放射光施設へ展開して、施設の性能向上に寄与することで、日本の科学技術力や産業競争力を強化するとしている。

◆「超小型パワーレーザー」

パワーレーザのうち、連続発振するCWレーザは溶接や加工など、様々な分野で使われているが、一方のパルスレーザは装置が大型・高額で、レーザ光の伝送が難しいといった問題もあり、産業界への普及が思うように進んでいない。また、レーザ装置の主要部品であるレーザ媒質や励起光源などの多くは輸入に頼らざるを得ないため、国産品は国際競争力に欠けるという深刻な問題を抱えている。そこで、プロジェクトではマイクロチップレーザや、セラミックレーザ技術とLD技術を組み合わせた、より超小型で何時でも何処でも使えるテーブルトップレーザを開発する。
具体的な目標は、マイロチップレーザでは、従来比で1/100の体積となる1kg以下のレーザヘッドと、パルスエネルギーを20mJまで高出力化する。テーブルトップレーザでは300Hzの高繰返しJ級レーザの装置化を実現する。
パルスレーザは、励起光をレーザ媒質に照射して共振器の内部に多くの励起状態を作った後、Qスイッチなどで誘導放出を起こして発振させる。ところが、レーザの出力(エネルギー)や繰り返しが高くなるほど、レーザ媒質の不均一性や結晶界面の不整合で光の損失が起こり大量の熱が発生、レーザ媒質や光学系は損傷を受け、出力低下や装置が壊れてしまう。したがって、レーザの出力を上げるには単位密度あたりのエネルギーを低くしなければならないが、そうすると今度は装置が大型になってしまう。高い繰り返しで発振させようとする場合も同様で、装置の大型化を招いてしまう。
プロジェクトでは、レーザ媒質である結晶や材料を光の波長レベルで制御するマイクロチップレーザ技術の開発と、さらなる高出力のレーザ発振を実現するため、日本の独自技術であるセラミックレーザ技術と、より高密度でレーザ媒質を励起する高出力LD技術を組み合わせて超小型・高出力国産パルスレーザを開発することが目標に掲げられている。
さらには、プロジェクト期間中でも開発したレーザを企業の製造現場などで試験的に適用するといった方策を取ることで、ユーザーと一体となったニーズドリブンを開発して超小型パワーレーザを産業に展開するとともに、日本が遅れをとっている高出力レーザ装置・システムのシェアを奪還するとしている。

◆実施体制

プロジェクトの実施体制は三つに分けられ、佐野PMのもと、テーマごとの責任者が研究開発を進めて行く。プロジェクト1の「レーザー加速XFEL実証プロジェクト」では、大阪大学の兒玉了祐氏が「レーザー加速統合プラットフォーム」、同じく大阪大学の細貝知直氏が「レーザー加速要素技術」、高エネルギー加速器研究機構の山本樹氏が「マイクロアンジュレーター」、量子科学技術研究開発機構の神門正城氏が「ビーム計測・制御技術」を担当する。
プロジェクト2の「超小型パワーレーザー」では、浜松ホトニクスの川嶋利幸氏が「テーブルトップレーザー」を、分子科学研究所の平等拓範氏が「ハンドヘルドレーザー」を担当する。
プロジェクト3の「システム化・XFEL実証評価」では、理化学研究所の矢橋牧名氏が「XFEL実証評価」、同じく理化学研究所の南出泰亜氏が「セキュリティー応用」、東北大学の濱広幸氏が「マイクロアンジュレーター評価」、加えて「超小型パワーレーザー」の技術移管・製品化を希望して採択された各企業が「超小型パワーレーザー応用」を担当する。

 2月21日(水)、東京・秋葉原で開催された第3回シンポジウムで、最新の研究成果が発表された「ユビキタス・パワーレーザー」。レーザ電子加速においては、6TWという小さなエネルギーで500MeVを超える加速を実現して世界最高効率を達成した。オープンイノベーションによる開発拠点として理化学研究所・播磨放射光科学総合研究センター内に構築していたプラットフォーム、LAPLACIAN(Laser Acceleration Platform as a Coordinated Innovative Anchor)も完成、実験をスタートさせた。
「超小型パワーレーザー」においては、マイクロチップレーザで既に20mJを達成、実験室レベルでは35mJという高出力化にも成功しており、レーザ媒質とヒートシンクの常温接合技術も確立した(写真:シンポジウム会場内でのデモ展示)。「テーブルトップレーザー」では300Hzで1Jを達成した。さらに、3社によるマイクロチップレーザを用いたハンドヘルドレーザの製品化開発も進められている。このレーザをユーザーが気軽に使えるように、浜松工業技術支援センターには「レーザー試用プラットフォーム」も構築された。余すところあと1年。プロジェクトから生み出される、さらなる成果に期待が集まっている。(川尻 多加志)