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ますます活用領域を拡げる3Dプリンティング-3D Printing 2018、盛況のうちに閉幕-

February, 21, 2018, 東京--2月14日(水)から16日(金)の3日間、東京ビッグサイトにおいて3D Printing 2018-Additive Manufacturing Technology Exhibition-が開催された(主催:JTBコミュニケーションデザイン、共催:ナノテクノロジービジネス推進協議会)。主催者発表によれば、今回の展示会には40社を超える新規出展者を含め88社(149小間/8か国・地域)が出展、過去最大の規模となった。来場者は3日間合計で44,437名に上った。
今年も期間中に様々なセミナーが開催されたが、ここでは特別セミナー「活用広がる3Dプリンティングの技術動向と課題」の中で、日本3Dプリンティング産業技術協会の大庭秀章氏が講演した「製品製造へ向かう海外3Dプリンティング最新動向」と、産業技術総合研究所 エレクトロニクス・製造領域 研究戦略部 研究企画室長の芦田極氏による基調講演「3Dプリンティングの国際標準化最新動向と活用のポイント」を紹介する。

1. 海外3Dプリンティング動向

日本3Dプリンティング産業技術協会 大庭秀章氏

日本3Dプリンティング産業技術協会 大庭秀章氏

1.1. 日本3Dプリンティング産業技術協会
大庭氏が講演冒頭で紹介した日本3Dプリンティング産業技術協会は、3Dプリンティング分野の利用技術向上と人材育成を目的に、装置メーカ、材料メーカ、造形サービス、装置ユーザなどが参画して2015年11月に設立された。
これまでにもビジネスや技術に関するセミナーや研究会・勉強会などを開催しており、3Dプリンティング講座などの教育講座も実施、会員サービスとしては技術や経営に関する相談も行なっているとのことだ。

1.2. 3Dプリンティングの特長と新たな活用フェーズ
3Dプリンティングの特長としては、①従来工法で不可能だった形状を実現できるとともに、トポロジーの最適化手法やLattice構造による軽量化を実現でき、さらにこれまで複数の部品で出来上がっていたものを単一部品で作ることで組立工数を低減できるといった設計の自由度の高さ、②一品毎にカスタマイズが可能で、カスタマイズしたパーソナル商品へ応用できる製造の自由度の高さ、③CADデータがあれば即座に造形でき、簡易金型を造形して試作ができるといった短納期性、④使用する現地へデータを送って造形できたり、スペアパーツを作るための金型保管が不要といった時間・空間の自由度の高さなどが挙げられる。
大庭氏は、3Dプリンタの活用フェーズが試作(Rapid Prototyping)や型・治具(Rapid Tooling)への活用から製品製造(Rapid Manufacturing)に移行するとして、時代はDirect Manufacturingに向かっていると指摘した。

1.3. 欧米における技術動向
昨年5月、米国最大の3Dプリンティング関連展示会RAPID+TCT 2017がピッツバーグで開催された。11月にはフランクフルトにおいて欧州最大の展示会formnext2017も開催された。講演では、両展示会で注目すべき欧米企業の最新技術動向が紹介された。

1.3.1. 金属造形
米国・欧州ともに金属部品製造への3D造形の活用が大きな流れとなっている。また、我が国では金属造形はSLM方式といった印象が強いが、欧米ではDED(Directed Energy Deposition)もAMの一つのカテゴリーとして確立しているそうだ。ユーザ業種としては、特に医療、航空宇宙産業分野が大きい。
医療分野では、個人向けにカスタマイズが必要な分野であることからインプラントなどの歯科応用への応用が進んでおり、体内に埋め込む人工関節ではTi64(Ti-6Al-4V)などの材料がFDAで認可されたことから、今後伸長すると予想されている。
航空宇宙分野では、GEによるジェットエンジンの燃料噴射ノズルの実用化が紹介された。複数個の部品が一つになり、かつ従来法では製造できなかった内部構造も実現、その結果約20%の燃料消費率低減が達成されたとのことだ。
自動車産業への応用については、確かに金属造形装置の導入は進んでいるものの実製品への搭載は限定的で、各社とも検討段階というのが実態。ただし、機能試作部品としての活用は拡がっており、レースカーや高級車などの限定分野では実用化されているもようだ。
自動車分野は宇宙航空分野に比べ利益率が小さいので、コストを上げてしまう部品を使うことに対しての許容度はまだ低く、コスト面の改善が必要だろうという意見が紹介された。
金属造形技術の新しい動きとして注目されるのが粉体の供給や回収、造形物の回収などのポストプロセスの自動化だ。自動生産ラインとしてEOSや Concept Laser、SLM Solutionsなどの企業がコンセプトを発表している。
プロセスモニタリングによる造形品質の安定化については、各社とも造形時の様子をモニターし、異常が起きていないかをモニターする仕組みを実装もしくはオプションしている。ただし、今のところはリアルタイムでフィードバックをかけているところはなく、バッチ異常を知らせるか、アラートを出して造形をストップさせるといった活用をしているのが実情だ。プロセスモニタリングの目的は、自社の品質管理や造形品を納入する顧客へのデータ提供であり、講演ではRenishawやConcept Laser、SLS Solutions、EOS、Trumpf などの事例が紹介された。
より低コストで簡便に金属部品の造形を行なうための新しい方法として注目されているのが、樹脂と金属を混ぜたグリーンパーツを脱脂・焼結することで金属造形物を得るという技術。
装置コスト、材料コストが数分の1になり、造形速度も速く、材料の幅も広いという特長を有している。ただし、焼結時に20%程度収縮する分を見込んで造形を行なう必要があり、寸法精度を出すには後加工が必要。各社の方式は異なるがDesktop Metal、Markforged、ExOne、 AIM3D、HAGEなどが技術発表を行なっている。

1.3.2. 樹脂造形
実用レベルの造形品を作製するためにPEEKなどのエンジニアリングプラスチックに対応した造形装置が各社から発表され、ともにビルドチャンバーを100~260℃まで加熱できるようになっている。この他Powder Bed Fusion方式でPEEKを低温造形する技術をドイツのRauchなどが開発、造形サービスの提供も始まっている。樹脂造形の適用は航空機産業に展開されており、AirbusのA350には1,000ものパーツが用いられているとのことだ。
SLS方式でPEEKなどを造形した場合、シンタリングウィンドウが高温になって装置の負荷が大きくなり、樹脂が傷んで回収率が低下してしまうといった課題がある。これを解決するものとして、造形雰囲気を80℃から100℃という低温にして、樹脂を溶かして造形するThermo Melt Processが検討されている。
FDM方式の進化系としては、次に挙げる2社の技術が注目される。Essentium Materialは、FDM方式が不得意な積層方向の強度アップを図るため、ナノカーボン粒子を塗布したフィラメント造形において、プラズマで発熱、溶融することで強度向上を実現した。一方Rizeは、造形物からのサポート除去において、FDMとIJIによる材料塗布を組み合わせ、サポート材と造形物の間に薄い異種材料を塗布して、簡単に皮をむくようにサポート材が取れるシステムを提案している。

1.3.3. 複合材料
炭素繊維などと樹脂の複合化により軽量かつ高強度な造形物を作成する技術が登場した。Impossible Objectが展示会で発表したサンプルは、樹脂と混ぜる材料がPEEKやPSUなど非常に幅広く、かつ高い強度が得られることから、今後の装置開発の状況によっては一気に受け入れられる可能性を持っている。
この他、Markforgedは、FDM方式のヘッド部から炭素繊維、グラスファイバなどを同時に供給して、繊維を埋め込んだ造形を実現した。
シートラミネーションによる複合材料造形では、Impossible Objectがカーボンファイバ、グラスファイバ、ケプラーなどを樹脂(金属も可)に埋め込み、軽量で高強度な造形物を作る新たな方式を提案。Envision TECはSLCOMという装置で、CFRPのプリプレグ(樹脂硬化前)をレイヤ形状に合わせて切断しながら重ねて圧縮加熱硬化する方式を提案している。

1.3.4. 材料の拡がり
セラミックにおいては、UV樹脂に分散して造形・焼結して造形物を得る方式が基本となっており、装置メーカも増加している。この方式を採用しているのはAdmatec(フィルム上で露光)、3DCERAM、Lithoz(ともにSLA方式)で、AIM3Dはセラミック入りMIM材料をFDMで、Xjetはサブミクロン粒子をIJで直接積層する方式を採用している。
テフロン造形においては、3MがSLA方式でテフロン系材料を3D造形する技術を発表した。

1.3.5. 新しい方式
より大きなものやたくさんの造形を行ないたいという要求に応えようと、GEやADIRAは露光のためのレーザユニットを移動させながら大きな造形物を製造する方式を発表している。ADIRAのTLM(Tiled Laser Melting)は、大面積の造形エリアをレーザで露光するためにエリアを区切って露光するユニットを移動させながら造形する仕組みを採用、エリア間をうまく繋ぐことで大きな造形物も作製できるとのことだ。

1.3.6. その他
Vader Systemsは、溶融した金属を電磁誘導で液滴として飛ばして直接造形して行く方式を開発中だ。金属材料として安価な材料を使い、高速に造形することで、将来的にコストが劇的に下がる可能性を持っている。ただし、現状の材料はAl(850℃)とBronz(1200℃)のみとのことだ。

2. AMの国際標準化動向

2.1. 国際標準が求められる理由
産業技術総合研究所の芦田極氏は、講演の中でAM(Additive Manufacturing )の定義や各種方式や材料を紹介、国際標準において注視すべき点を指摘した。
ファイバレーザの出現によって2000年頃から金属AMが急速に進歩、それによってAMもこれまでの模型づくりから本物の部品として使えるようになってきた。さらに製造工程/部品の信頼性が上がることでAM技術は進化し続け、応用範囲も一層に拡大している。芦田氏は、国際標準が必要になってきた背景には、AMがPrototypingからManufacturingへ進化して、試作ではなく本物の部品が出来始めているということがあると指摘した。

2.2. ASTM International
ASTM International(ASTM)は、米国が中心となった世界最大の民間・非営利の国際標準化・規格設定機関。設立は1898年と古く、2009年1月にAMという言葉を定義したことで知られている。
一方、国際標準化機構であるOSAは2011年にようやくAMに関するテクニカルコミッティを立ち上げるなど、AMに関してOSAはASTMよりはるかに対応が遅れていた。
ただ、国際機関であるOSAは各国が1票ずつ投票権を持つため、例えば欧州が連合を組むと票数差で米国規格が国際標準に通らないという米国にとっては都合が悪い構造になっている。
そこでASTMは2011年、OSAがAMテクニカルコミッティを立ち上げた直後、AMにおける国際標準で主導権を握るため、OSAと素早くPSDO(The Partner Standards Development Organization)協力協定を結んだ。
ASTMは個人や会社で構成される任意団体。いくらでも組織を作ることができるし、数多くの企業や個人を加入させて票を買うなどということも可能だという。実際、その後ISOにはASTMとのジョイントグループが幾つも作られ、AMに関して両者連名の規格が次々追加されている。
さらに、これとは別にASTM内では続々と単独の(Fナンバー)規格が発行されていて、ASTMはこの中からOSAに規格を提案していく計画のようだ。今後ISO/ASTM52900シリーズが順次発行されることになるだろうが、スピード感においても提案数においても、もはやアクティビティの高いASTMがAM規格の主導権を完全に握っていると言えそうだ。芦田氏は、日本のAM関係者はこの状況を良く理解しておくべきだと述べ、ASTMの独自規格も注視しておく必要があると述べた。

2.3. AMへの取り組みに必要なもの
国標準活動への参加を広く呼び掛ける芦田氏は、規格文書を読んでいれば技術の中身は理解できるという。その意味で、規格を教科書的に活用することが大事だと述べた。
さらにAMにしかできないものづくりには、疑いの気持ちがあってはダメで、心底からAMを好きになり、目標を持って本気で取り組む必要があると述べた。一方、AMを使う理由と効果を数字で示してコストメリットを明確にして、儲かるビジネスモデルを提案することも大事だと指摘、AMは既存プロセスの置き換えでは勝ち目はなく、装置を使い倒して日本の現場力を引き出し「従来のものづくりの常識をぶち壊し、AMでものづくり革命を起こそう」と、講演を締め括った。(川尻 多加志)

産業技術総合研究所 芦田極氏

産業技術総合研究所 芦田極氏