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新しいシリコンナノ物質の化学特性の評価に成功

November, 10, 2015, 東京--慶應義塾大学理工学部の中嶋敦教授らは、研究グループが開発した16 個のシリコン原子が中心の金属原子を球状に取り囲む「金属内包シリコンナノクラスタ」の、酸素との反応性や熱的安定性の評価に成功し、化学的安定性の高い物質であることを明らかにした。
 ナノクラスタは、数個から千個程度の原子・分子が集合した数ナノメートル(nm)ほどの大きさの超微粒子。原子・分子より大きく、バルクよりも小さいナノクラスタは、そのどちらとも異なる特異的な性質や機能を持っている。その物理・化学的性質は、原子数や組成、荷電状態によって制御することができ、触媒、電子デバイス、磁気デバイスなどへの応用が期待されている。特に、エレクトロニクス分野では、シリコンなど半導体材料のナノクラスタを積み木のように組み上げて、新たな機能を持つ超微細集積構造を生み出す技術が注目されている。
 ナノクラスタの化学的・熱的安定性は、材料として活用する上で、極めて大切な性質。しかし、これまで気相合成注3)されたナノクラスタの構造や反応変化の様子を的確に追跡する手段が乏しかったため、その化学特性を材料応用の視点から評価することは極めて困難だった。
 研究グループでは、16個のシリコン原子が、1個のタンタル金属原子を球状に包み込む金属内包シリコンクラスタ(Ta@Si16ナノクラスタ)の気相合成に成功している。このTa@Si16ナノクラスタをグラファイト基板上に蒸着し、化学特性を評価した。その結果、Ta@Si16ナノクラスタが、シリコン単体よりも酸化されにくいことや、400℃程度まで安定であることを明らかにした。
 この研究成果は、ナノクラスタを基本単位として新たな機能材料や超高集積光・電子デバイスを実現するための基盤技術として利用価値が高いと考えられる。
 研究は、ナノクラスタの気相合成、サイズ選別、蒸着、および化学特性を真空中で一貫して評価できる実験装置を用いた。Ta@Si16ナノクラスタをマグネトロンスパッタリング法によって気相合成し、それを原子1個の精度でサイズ選別した後に、グラファイト基板の固体表面に蒸着した。蒸着のための基板には高配向熱分解グラファイト(HOPG)の清浄面を用いた。この基板面に蒸着されたTa@Si16ナノクラスタの酸素との反応性や温度上昇などの化学的な挙動を、X線光電子分光法(XPS)によって原子レベルで評価し、以下の知見が得られた。
・Ta@Si16ナノクラスタが金属内包球状構造であることを初めて実証
・酸素との反応性が乏しく熱的安定性が高いことを実証
 これらの結果は、Ta@Si16ナノクラスタが、その特徴的な金属内包構造を保持した状態で安定に固体表面に固定・薄膜化され、その化学特性は酸素との反応性が乏しく熱的安定性が高いことを示している。
 材料物質を大きな塊からナノメートルサイズに微細加工するトップダウンナノテクノロジーに対して、機能制御されたナノクラスタを積み木のように組み上げて、構造体を作製する技術は、ボトムアップナノテクノロジーと呼ばれる。後者のボトムアップナノテクノロジーは、自然界に存在しない人工機能材料や微細加工技術の限界を超える超高集積電子デバイスを実現するための新たな基盤技術として注目されている。
 今回明らかにされた性質によって、これまでに確立されてきた物質表面への蒸着法に加えて、400℃まで構造が変わらない高い熱的安定性の特徴を生かした昇華精製や、酸化し難いことによる有機溶媒への溶解といった化学的な手法によって、金属内包シリコンナノクラスタを基本単位とした、新たな機能材料や機能デバイス作製が実現できると期待できる。研究チームは今後、物質表面での金属内包シリコンナノクラスタの秩序化や配列化をさらに進めることで、「シリコンナノ物質の機能材料化」の応用展開を図るとともに、ナノクラスタ超原子を出発点とする基礎研究をさらに深化していく。

(詳細は、www.jst.go.jp)