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光ベースのメモリチップが初めてデータを永久保存

September, 28, 2015, Oxford--オックスフォード大学(Oxford University)材料科学研究チームは、カールスルーエ(Karlsruhe)、マンスタ(Munster)、エクスタ(Exeter)と協働で、データを永久保存できる初の完全光ベースメモリチップを開発した。
 CDやDVDで使用されている材料を利用するデバイスが、現在のコンピューティング速度の飛躍的改善に寄与する。
 今日のコンピュータは、プロセッサとメモリ間の電子データの伝送が相対的に遅いことによる制約を受けている。「制限要因がメモリとの情報のやりとり、つまりフォンノイマン(von-Neumann)ボトルネックであるなら、プロセッサの高速化は意味がない」と研究リーダー、Harish Bhaskaran教授は説明している。「だがわれわれは、光を利用することで大幅なスピードアップが可能であると考えている」。
 単純にフォトンでプロセッサ-メモリギャップをブリッジすることは効率的ではない。他端でフォトンを電気信号に変換しなければならないからだ。その代わりに、メモリと処理機能も光ベースにする必要がある。研究者たちはこれまで、このようなフォトニックメモリを実現しようとしてきたが、結果はいつも不安定であり、データ蓄積のためのパワーが必要になる。コンピュータディスクドライブなど、多くのアプリケーションでは、パワーの供給あるなしにかかわらず、データを無限に蓄積できなければならない。
 今、オックスフォード大学材料学部の研究者を含む国際的な研究チームが、世界初のオールオプティカル不揮発性メモリチップを開発した。この新しいデバイスは、データ蓄積のために、相変化物質Ge2Sb2Te5(GST)を使用する。これは書き換え可能CDsやDVDsで使用されているものと同じだ。この材料は、電気パルスまたは光パルスを利用することで、硝子のようにアモルファス状態になるように作ることができる、あるいは金属のような結晶状態にもできる。Nature Photonics発表論文で、そのデバイスについて報告している。デバイスは、窒化シリコンリッジ、つまり光を伝送する導波路でGSTの一部を使う。
 研究チームは、導波路を通して伝送される強い光パルスがGSTの状態を周到に変えることを示した。強いパルスが、それを瞬間的に溶かし、素早く冷却するとアモルファス状態になる。わずかに強度の弱いパルスは、それを結晶状態にすることができる。
 後で、極めて弱いパルスを導波路で伝送すると、GSTの状態の差が、どの程度の光が伝送されるかに影響を与える。研究チームは、その状態を判定する差を計測し、次にデバイスに存在する情報を、1または0として読み出すことができる。「これは初めて実現された、真に不揮発性集積光メモリデバイスである。われわれは、確立された材料を用いて実現した。長期間データ保持用で知られている、つまりGSTは何十年もその状態を維持する」と論文著者の一人、Carlos Ríosは説明している。
 導波路で同時に別の波長の光を送る、つまり波長多重技術を使うことで、単一パルスを使ってメモリの読み書きを同時にできることも研究チームは示した。「理論的には、われわれは数千ビットを一度に読み書きできる。これは実質的に無限の帯域である」とMunster大学Wolfram Pernice教授はコメントしている。
 研究チームは、強いパルスの多様な強度により、GST内にアモルファスと結晶構造の多様な混合を正確に、繰り返し作製できることも確認した。パルス強度を弱くして導波路で送ってデバイスの内容を読み取るとき、伝送される光の微妙な違いも検出できるので、完全な結晶から完全なアモルファスまで、8つの異なる状態組成から高信頼に読み書きができた。このマルチステート機能は、従来のバイナリ情報0と1よりも多いメモリ単位を提供でき、メモリの1個のビットが複数の状態を蓄積し、プロセッサに代わって計算さえできることになる。
 「これは、実証済みの既存材料を用いた全く新しい種類の機能である。このような光ビットは、1GHzまでの周波数で書き込み、膨大な帯域を提供できる。これは、現在のコンピューティングが必要とする超高速データストレージである」とBhaskaran教授は説明している。
 研究チームは、この新しい技術を利用することを目的に数多くのプロジェクトに取り組んでいる。特に、新しい種類の電気-光インタコネクトの開発に関心をもっており、ここではメモリチップが、電気信号ではなく光を使って他のコンポーネントと直接相互作用する。