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Science/Research 詳細

量子暗号通信への応用が期待されるゲルマニウム導入し光るダイヤを開発

August, 13, 2015, 東京--東京工業大学 大学院理工学研究科の岩崎孝之助教と波多野睦子教授らの研究グループは、ダイヤモンド中の空孔(V)、とゲルマニウム(Ge)からなる新しいカラーセンタの形成に世界で初めて成功した。
 ダイヤモンド中にゲルマニウムを導入することによって、ゲルマニウムと格子欠陥(空孔)が結びつき、室温・大気中で安定して発光することを見いだした。アンサンブル状態(カラーセンターが多く含まれている状態)だけでなく、ゲルマニウム原子1個と空孔の組合せからなる単一カラーセンタも安定して形成できることを確認した。さらに、マイクロ波プラズマ化学堆積法を使用し、発光波長の均一性に優れた高品質アンサンブルGeVセンタを作り出すことにも成功した。生細胞イメージング用のバイオマーカーや量子暗号通信への応用が期待でき、さらに高感度センサとしての可能性もある。
 東工大の岩崎助教と波多野教授らは、ダイヤモンド中にゲルマニウムを導入することにより、ゲルマニウムと空孔からなるGeVセンタを形成した。GeVセンタは、外部からの光励起により波長602nmで強い発光を示し、高い再現性で形成できることを確認した。アンサンブル状態だけでなく、単一の状態でも安定したカラーセンタとして機能させることに成功した。
 2次自己相関関数測定から、単一GeVセンタが単一光子源として働くことを証明し、飽和発光強度として170 kcpsという高い値が得られた。励起波長の最適化により、GeVセンターの発光強度をさらに上昇させることができ、再現性良く形成できるダイヤモンド中のカラーセンターのうちで最も高輝度な構造となる可能性がある。第一原理計算により、ゲルマニウム原子は炭素原子が存在する格子位置ではなく、格子と格子の間に存在していることを明らかにした。
 イオン注入法を用いると、ダイヤモンド自体にダメージを与えて、GeVセンタの発光波長がばらついてしまうことが観測された。一方、マイクロ波プラズマ化学堆積法を用いると、より鋭く発光波長の均一性に優れたアンサンブルGeVセンターを作り出すことにも成功した。SiVセンタはマイクロ波プラズマ化学堆積装置中の真空チャンバ-(容器)部品などから容易にダイヤモンド中に取り込まれるが、GeVセンタはより制御しやすく、拡張性が高い発光源として利用される可能性がある。
 ダイヤモンド中のGeVセンタは炭素とゲルマニウムからなる新しい原子レベルサイズの機能性構造であり、ダイヤモンドの特長である高い生体適合性を有する。さらに、発光強度が大きいことから、ナノダイヤモンド中へのGeVセンタの形成により、細胞内で退色しない安定な高輝度マーカーとして機能し、生体機能の解明や細胞レベルでの新しい診断技術につながる。さらに、均一な発光波長の単一GeVカラーセンタによって、量子暗号通信用光源への応用が期待される。