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光子を用いた量子情報処理のための、プログラマブルな線形光回路の実現

July, 13, 2015, 東京--日本電信電話(NTT)は、英国ブリストル大学、インペリアル・カレッジ・ロンドン、ノキア・テクノロジーズと共同で、光子を用いた線形光学量子情報処理に必要なあらゆる基本機能をたった一つのハードウェア上で提供する再構成可能な光集積回路を実現するとともに、世界に先駆けて広範な光量子情報処理実験に適用することに成功した。
この光集積回路は、外部から入力する電気信号の組合せを適宜プログラムするだけで、数秒で所望の光量子情報処理実験に必要となる回路構成への組み替えを実現する。NTTの石英系平面光波回路(PLC)技術の採用により、光子情報処理に必須となる低損失、高精度かつ多彩な光回路動作が初めて実現された。この光集積回路が一つあるだけで、回路規模の範囲で実現可能な光子状態に対して、あらゆる線形光学量子情報処理の実験が可能になる。このことは、高度な光学実験技術を駆使して長時間かけて光学実験系を組み上げる作業を短縮し、今後のこの分野の研究の発展を加速するものである。
NTT物性科学基礎研究所およびNTT先端集積デバイス研究所は、英国ブリストル大学などと共同で、石英系平面光波回路(Planar Lightwave Circuit, PLC)技術を用い、いかなる線形光学量子情報実験にもプログラマブルに対応可能な光集積回路を設計、作製し、その動作を確認した。この光集積回路は、それぞれ6本の入力および出力光導波路を備えている。この光回路に外部から入力する電圧をプログラムするだけで、回路構成を組み替える制御ポイントにおいて光の感じる屈折率を変更し、数秒のうちに任意の線形光学回路を再構成することができる。
研究チームでは、さらにこのハードウェアに実際に複数の単一光子を入力し、量子もつれ状態発生や量子ゲート操作といった量子情報処理の要素技術から、最新の量子計算方式の実装に及ぶ、極めて多彩な光量子情報処理の実験に適用可能であることを実証した。実験で用いた回路パターンは合計およそ1000通りに達する。このように、一つの光集積回路でさまざまな光量子情報処理を実現したのは、世界初。また、実験により得られた各種回路設定の動作精度は、従来の用途特化型の実験装置を用いた場合に比べても同等かそれ以上の水準であることを実証した。

技術のポイント
(1)石英系平面光波回路(PLC)
シリコン基板上に光ファイバと同様の縦横数µmのコアと呼ばれる光を導き伝搬させる構造(導波路)を半導体の微細加工技術を用いて形成することにより実現した小型・安定・低損失な光チップ。LSIと同様に平面基板上に作製することで高精度かつ複雑な回路を実現できることから平面光波回路(PLC = Planar Lightwave Circuit)とも呼ばれている。
単一光子検出器に適した波長800nm帯用のPLCを新たに設計し、光集積回路を作製。一般に、導波路の構造はその内部を伝搬する光の波長が短くなるほど小さくなるため、光通信波長(1550nm)用の導波路に比べて作製精度がより重要になる。また、回路は大小合わせて100個以上の光干渉計の入れ子構造を有しているが、そのような構成は従来の光通信用途では求められることのなかったが、NTTのPLC技術を用いることで、高い精度の線形光学回路を作製することができた。
(2)多光子発生及び測定実験技術
実際に量子情報処理用途に適用可能なことを示すためには、単一光子を用いた実験による実証が必須。研究チームは、波長800nm帯における光集積回路を用いた量子情報処理に関して先駆的な研究を行ってきたブリストル大学の研究チームとの共同研究により、一連の実証に成功した。波長800nmの単一光子を複数個同時に発生する光子源、最大12個の単一光子検出器を用いた多光子相関測定技術を用いることで、光集積回路の単一光子レベルでの動作確認及びさまざまな量子情報の実験を効率的に行うことができた。

数秒のうちに回路機能を切り替えることのできるハードウェアを構築し、線形光回路の一つの理想的な形を示した。今回の成果により、光子を用いた量子力学の基礎の検証から量子情報処理に渡る幅広い研究が大幅に加速することが期待される。
(詳細は、「Science」のオンライン速報版「Science Express」で公開ずみ)