コヒレント特設ページはこちら

Science/Research 詳細

東大、世界最小量子ドットレーザの室温動作に成功

July, 1, 2015, 東京-- 東京大ナノ量子情報エレクトロニクス研究機構の荒川泰彦教授、舘林潤特任助教らは、高効率ナノレーザとして、ナノワイヤ量子ドットレーザの室温(300K=27℃)動作に世界で初めて成功した。
 このレーザは、世界最小体積の量子ドットレーザであり、直径290nm、長さ4.3µmの半導体ナノワイヤ中に50層積層された量子ドットの光利得と、単一のナノワイヤの両端をミラーとした共振器構造を用いて実現された。今回の室温発振の達成は、結品成長の高度な精密制御技術と先端的レーザ設計手法を駆使したことによるものである。さらに、半導体レーザの性能指標である特性温度でも133Kとナノワイヤレーザとして最高値を実現し、量子ドットによる性能向上を裏付けた。今回の成功により、量子ドット本来の超低消費電力・高温度安定性等を備えた超小型・高性能なナノレーザの高密度集積化が可能となり、シリコンフォトニクス分野の光電子融合集積回路への実装や環境・生体分野への応用開拓も図れるものと期待される。
.開発した技術の特徴
a)量子ドットの積層化・高均一化をナノワイヤ中で実現
 ナノワイヤ中に量子ドットを積層するためには、高品質・高均一なナノワイヤが必須。詳細な実験・解析に基づいてMOCVDによるGaAsナノワイヤの選択成長技術を確立した。
 そのうえで成長したナノワイヤ中にInGaAs/GaAs多層ヘテロ構造を 成長することにより積層量子ドット(高さ7nm、幅45nm、積層数50)を形成し、さらにGaAs/AlGaAs/GaAsコアシェル構造で被覆し、量子ドットを埋め込んだ、ナノワ イヤ構造とした。
 これらの構造は先端的レーザ設計手法に基づいた選択成長で実現。個々の量子ドットの発光エネルギーを揃えることにより均一性の改善を図り、コアシェル構造を導入することによりキャリアの量子ドット発光層への効率的な閉じ込めを実現した結果、室温でも十分な発光を得ることに成功した。

b)ナノワイヤ量子ドットレーザの光励起による室温発振を実現
 開発したナノワイヤ量子ドットレーザのデバイス評価の結果、光励起による室温発振を世界で初めて実現した。デバイス性能の指標である特性温度は133Kと、従来のナノワイヤレーザの最高値(=109K)と比べても高い値を得られている。これは量子ドット導入によりキャリアの効率的な閉じ込めが起きていることを示唆している。
 ナノワイヤレーザに量子ドット構造を導入し室温発振が実現したことで、今後、ナノレーザ光源の高性能(低閾値・高温度安定性)・多機能(波長制御性)化が見込めるため、成長・プロセス・評価技術の深化による更なる低閾値動作化や長波長化、更には実用化に向け電流駆動によるレーザ発振動作を目指す。シリコンフォトニクス分野の光集積回路への集積・実装に留まらず、今後のナノフォトニクスや環境・生体といった様々な分野の発展に貢献できるものと期待される。
 発表されたナノワイヤレーザは、GaAs基板に成長しているが、舘林氏によると、UCSBのようにシリコン基板を利用することもできる。また、現状は光励起であるが、研究チームは次の課題として電気励起に取り組んでおり、数年以内の実現を目指している。いくつかの課題をクリアすれば、5~10年でグーグルグラスのようなウエアラブルデバイスへの実装が可能になる。
(詳細は、Nature Photonicsに公開)