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Science/Research 詳細

光ファイバ通信のパワーと距離の限界を破る技術を開発

June, 29, 2015, San Diego--電気工学の研究チームは、情報が光ファイバケーブル中を伝搬でき、レシーバによって正確に検知できる距離を制限している主要な障害を打破した。
 カリフォルニア大学サンディエゴ(UCSD)のフォトニクス研究チームは、光信号がファイバ中を伝搬される最大パワーを、したがって伝送距離を増やした。この成果により、インターネット、ケーブル、ワイヤレス、陸上通信ネットワークのバックボーンとなっている光ファイバケーブルの伝送データレートが増える可能性がある。研究成果はScience(6月26日)に発表された。
 新しい研究は、光ファイバにおけるデータ伝送レート増加に関する以前からの障害に解を与えている。障害とは、閾値パワーレベルを超えてパワーを加えると、光ファイバ中を伝搬する情報を歪ませ、修復不可能になるというものであった。
 「今日の光システムは流砂のようなものである。流砂では、もがけばもがくほどますます速く沈んでいく。ファイバオプティクスでは、ある点を超えると、信号にパワーを加えれば加えるほど、ますます歪が増え、実際に伝送距離を延ばせなくなる。われわれのアプローチはこのパワー制限を取り除くものである。つまり、リピータを使わずに信号が伝搬できる距離が増えるということを意味している」とクワルコム研究所(Qualcomm Institute)の研究者、実験主任、論文の共著者、Nikola Alic氏は説明している。
 ラボの実験ではUCSDの研究チームは、標準のアンプを使い、電気的再生器であるリピータを使うことなく、記録的な12000km伝送後の信号を解読することに成功した。
 この新しい研究成果により、ファイバリンクに周期的に設置されている電気的再生器が不要になる。こうした再生器は効果的なスーパーコンピュータであり、各伝送チャネルに適用しなければならない。80~200チャネルを伝送する最新の光伝送における電気的再生がコストを左右することになり、さらに重要なことは、トランスペアレント光ネットワークの建設の障害となる。その結果、周期的な電気再生を除去することでネットワークインフラの経済を劇的に変え、究極的にはより低コストで効率的な情報伝送につながる。
 この研究のブレイクスルーは、研究チームが開発したワイドバンド「周波数コム」に依存している。この論文で説明している周波数コムによって、光ファイバを長距離伝搬するバンドルした情報ストリーム間に生ずる信号歪、いわゆる「クロストーク」が予測可能になり、したがってファイバ端の受信で回復できるようになる。
 「光ファイバ中の通信チャネル間のクロストークは、不変の物理法則にしたがう。ランダムではない。今ではわれわれは、クロストークの物理学に対する理解が向上した。この研究で、光ファイバのパワー障壁を除去するためにクロストークを利用する方法を示している」とUCSDの電気・コンピュータ工学部教授、論文のシニアオーサ、Stojan Raicは説明している。「われわれのアプローチは、情報が伝送される前でもそれを調整するので、レシーバはカー効果によって生ずるクロストークから自由になる」。
 UCSD研究チームのアプローチは、コンサートの始めにオーケストラの多数の楽器を同じピッチに調整するコンサートマスターに近い。光ファイバでは、情報は多様な周波数で動作する多数の通信チャネルで伝送される。電気技術者は、周波数コムを使って光情報、ファイバを伝搬する「光キャリア」の異なるストリームの周波数の違いを同期させる。このアプローチによって、同じファイバ中に多数の通信チャネル間に起こるクロストークが前もって補償される。周波数コムは、通信チャネル間のクロストークの回復可能性も保証する。
 「送信する光信号のパワーを20倍に増やした後、最初に周波数コムを使うと元の信号を回復することができた」と筆頭著者、Eduardo Tempranaはコメントしている。周波数コムによって、システムは、受信器で元のコンテンツを再構築できなくするランダム歪を蓄積しないことが保証される。
 研究室の実験では、石英光ファイバ内で相互作用する光チャネル3chsおよび5chsの両方のセットアップを行った。研究チームは、このアプローチが遙かに多くの通信チャネルを持つシステムで使えると考えている。今日の光ファイバケーブルのほとんどは、32チャネル以上となっており、その全てが相互作用する。
 論文では、研究チームは周波数レファランスアプローチが、ファイバ中の通信チャネル間に生ずる非線形効果を事前補償すると説明している。情報は、ファイバで伝送する際に、予測可能であり、回復可能な方法で最初に予め歪ませておく。周波数コムにより、情報は受信端で元の状態にもどし、完全に回復できる。
 「われわれは、光ファイバ中で起こる歪効果を先取りしている」とクワルコム研究所の研究者、Bill Kuoは語っている。同氏は、周波数コムの開発責任者。