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半導体ナノ粒子の発光が安定化するメカニズムを解明

June, 19, 2015, つくば--産業技術総合研究所(産総研)などの研究グループは、半導体量子ドット(量子ドット)の退色機構を解明し、発光を安定化する有効な手法を提案した。
 研究では、量子ドットをカバーガラス表面にまばらに固定し、単一量子ドットからの発光を光学顕微鏡で観察した。その結果、励起状態にある量子ドットが電子を放出(オージェ・イオン化)すると、一重項酸素によって酸化されなくなり、発光が安定化することを見いだした。また、一重項酸素捕捉剤を用いれば、オージェ・イオン化していない中性の量子ドットの酸化が抑制されることも明らかにした。これらの成果は、生きている細胞内で個々の分子の働きを研究する一分子生体イメージング技術への貢献が期待される。
 CdSe/ZnS型量子ドットを、100×100 µm2あたり約100個の均一な密度で、カバーガラス表面に固定。これを顕微鏡に設置し、波長532 nmのレーザを照射し、単一量子ドットからの発光強度を観察。発光の早い振動やオンオフの挙動はブリンキングと呼ばれ、単一量子ドットの発光に見られる特有の現象であり、オフの状態はしばしば数秒から数十秒の間続く。ブリンキングはオージェ・イオン化によって生じることが知られている。空気中では、カバーガラス上の単一量子ドットの発光強度は、ブリンキングを伴いながらも長時間にわたって安定していた。一方、カバーガラス上の量子ドットを有機溶媒であるジメチルスルホキシド(DMSO)に浸漬すると、発光強度は急速に減少、消失。また、水中に浸漬しても、同様に発光が減少した。
 DMSOや水に浸漬すると、励起された量子ドットが、溶存する酸素に効率よくエネルギー移動を起こして一重項酸素を生成し、自らは酸化される。このような反応が繰り返し起こると、非発光性の酸化物が量子ドットの表面に島状に生成し、量子ドットの発光強度を徐々に低下させる。
 一重項酸素の生成は、特有のリン光(約1270 nm)が観察されることから確認。他方、空気中では空気と量子ドットの界面が不均一であるため、一重項酸素の生成と量子ドットの酸化の効率が悪く、発光強度が安定していた。

 単一量子ドットからの発光強度は、空気で飽和したDMSO中では急速な減少を示したが、窒素ガスで飽和したDMSO中では、その減少は緩やかになった。また、一重項酸素と非常に早く反応する一重項酸素捕捉剤である1,4-アミノブタンを、空気で飽和したDMSOに添加したところ、単一量子ドットからの安定な発光が観察された。これらの結果は一重項酸素が、単一量子ドットの安定した発光を妨げていることを示している。
単一の量子ドットにレーザ光を照射すると、オージェ・イオン化による特有のオン・オフを伴う発光を示す。それぞれの「オフ」の後の発光強度は「オフ」になる前とほとんど同じレベルに回復していた。量子ドットは発光のオフの間オージェ・イオン化された状態にあると考えられるが、その間に発光強度の減少が見られないことから、オージェ・イオン化された量子ドットは酸化されないことを示している。
 研究グループは今後、「いろいろのナノ材料からの間断のない発光を得ることを目的とし、電荷キャリアの緩和、オージェ・イオン化、表面欠陥、活性酸素の生成、酸化の間の関係を系統的に明らかにするため、他のナノ材料についても研究を進める」ことを予定している。また、一分子レベルで間断のない発光に基づく生体イメージングを実現するため、半導体、有機材料、生体分子などを組み合わせたナノ生体複合体の開発も検討されている。

研究成果はドイツ化学会が発行する雑誌Angewandte Chemie International Edition(英語版)とAngewandte Chemie(ドイツ語版)に発表。

研究グループは、産総研健康工学研究部門生体ナノ計測研究グループ バスデバン・ピライ・ビジュ 主任研究員、脇田慎一 総括研究主幹(兼)研究グループ長らと、香川大学工学部 中西俊介 教授(兼)工学部長ら、長岡技術科学大学物質・材料系 野坂 芳雄 名誉教授などで構成。