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Science/Research 詳細

理研など、塗って作れる太陽電池で変換効率10%を達成

May, 27, 2015, 和光-- 理化学研究所(理研)の共同研究チームは、半導体ポリマを塗布して作る有機薄膜太陽電池(OPV)のエネルギー変換効率(太陽光エネルギーを電力に変換する効率)を、10 %まで向上させることに成功した。また、変換効率の向上には、半導体ポリマの分子配向に合った構造のOPVを作製することが重要であることを明らかにした。
 OPVは軽量で柔軟な上、半導体ポリマを塗布することで作製できるため大面積化が可能。このため、低コストで環境負荷が少ないプロセスで製作でき、現在普及しているシリコン太陽電池にはない特長を持つ次世代太陽電池として注目されている。OPVの研究開発では、変換効率10%の達成が1つの目標とされてきた。最近、国内大手企業や欧米のベンチャー企業が変換効率10%の達成に成功しているが、その技術内容はほとんど公開されていない。
 共同研究チームは、理研の研究チームが以前開発した結晶性の高い半導体ポリマを発電層に用いたOPV素子を改善することで、従来6%程度であった変換効率を10%まで向上させることに成功した。また、大型放射光施設「SPring-8」で、改善した発電層のX線構造解析を行った結果、OPV素子の上部電極と下部電極付近で半導体ポリマの分子配向が異なり、素子の上下方向で電荷の流れやすさが異なることが分かった。さらに、この構造の素子では、光吸収により発生した電荷が流れやすい方向に合うように陽極と陰極が配置されており、これが効率向上の鍵であることを解明した。
 この研究成果により、OPVの変換効率10%達成のために必要な半導体ポリマの分子構造や物性、分子配向と素子構造との関係を解明することができた。この知見を基に半導体ポリマを改良することで、実用化の目安とされる変換効率15%達成に向けた研究が加速すると期待できる。
共同研究チームは、以前に理研のグループが開発した半導体ポリマ「PNTz4T」)という、従来のものに比べ結晶性の高い半導体ポリマを用いたOPV素子の発電層や素子構造を改善することで、変換効率の向上を目指した。
その結果、半導体ポリマとフラーレン誘導体注6)を混合して作製した発電層の厚さを、従来の約150nmから約300nmと2倍に厚くすることで、電流密度が大幅に増大し、変換効率が約6%から8.5%程度まで向上することが分かった。続いて、従来のOPV素子の陽極と陰極の配置を入れ替えた逆構造素子を適用することで、変換効率を10%に向上させることに成功した。
 太陽電池は発電層を厚くすると光吸収量が増えるため、電荷の発生量も増加しますが、一般的に半導体ポリマはシリコンなどの無機半導体に比べてホール移動度が低いため、ホールが電極に到達する前に電子と再結合する。そのため電流として取り出すことが困難となり、変換効率は低下するが、PNTz4Tは従来の半導体ポリマに比べて結晶性が高くホール移動度が高いため、発電層を厚くしてもホールが電子と再結合せずに電極まで到達できる。そのため、電流量が増大し、変換効率が向上したと考えられる。
 一般的に半導体ポリマは、ポリマ分子が基板に対して平行な「フェイスオン配向」と、基板に対して垂直な「エッジオン配向」という2つの異なる配向状態を形成する。OPVではフェイスオン配向した分子の方が電荷を流しやすく、この割合が多い方が有利となる。大型放射光施設「SPring-8」のビームライン(BL46XU)で、発電層の詳しいX線構造解析を行った結果、PNTz4Tの場合は、フェイスオン配向とエッジオン配向の分子が混合した状態にあることが分かった。また、従来用いていた順構造素子と、今回用いた逆構造素子の発電層中に含まれるフェイスオン配向の分子の割合を比較し、逆構造素子はフェイスオン配向分子が多いことが分かった。さらに、どちらの素子構造でも、上部電極側にはフェイスオン配向、下部電極側にはエッジオン配向の分子の割合が多いことが判明。つまりPNTz4Tは上部電極方向にホールを流しやすいといえる。順構造素子では、ホールを収集する陽極は下部電極として配置されているため、フェイスオン配向のメリットを十分に生かし切れていない。これに対して、逆構造素子ではホールを収集する陽極が上部電極として配置されているため、ホールの流れに合った構造となり、変換効率が向上したと考えられる。
 これまで、半導体ポリマの分子配向様式を制御することが重要であることはよく知られていたが、今回初めて、OPV中において半導体ポリマの配向様式に分布があること、さらにこれに合った素子構造に改善することが効率向上の鍵であることを明らかにした。

研究グループ
理研創発物性科学研究センター創発分子機能研究グループの尾坂格上級研究員、瀧宮和男グループディレクターと北陸先端科学技術大学院大学の村田 英幸教授、バルーン ボーラ博士研究員、高輝度光科学研究センターの小金澤智之研究員。