コヒレント特設ページはこちら

Science/Research 詳細

原子時計精度向上に量子力学周波数フィルタを考案

March, 17, 2015, Copenhagen--原子時計は世界最高精度の時計であり、電子が軌道を移ることによって時計の周波数が決まる。電子の軌道遷移は、安定化したレーザ光で原子を照射する。高精度電子遷移を引き起こすためにはレーザ光は高精度周波数でなければならない。とは言え、常にわずかな「ノイズ」が存在するため、レーザ光周波数を超精密にするのは非常に難しい。
 ニールスボーア研究所の研究チームは、ノイズを100倍少なくする方法を開発した。
 原子時計内の原子は、真空チャンバーに収められたストロンチウムガスで作られている。磁場と精密レーザビーム(青色)を用いて原子をほぼ絶対零度付近、マイナス273℃まで冷却し、それを維持する。
 電子は原子核の周りの一定の軌道にあり、個々の軌道は1つのエネルギー準位を持っている。ストロンチウム原子をレーザ光で照射することで電子のエネルギー準位が高くなり、次の軌道に遷移するが、電子は直ぐに基の軌道に戻る。次にストロンチウム原子を照射すると、電子は古典的な意味で軌道間の遷移を繰り返し、原子時計の振り子となる。
 原子時計は現在、3億年ごとに1秒遅れるが、研究者はこれをさらに高精度にしようとしており、そうなると大きな可能性が開けることになる、宇宙探査のためのナビゲーション、宇宙光技術を含む。より高精度にするための問題はレーザ光の制御にある。光が正確な波長で原子の電子を直撃し、電子を高精度、正確に振動させる。
 研究グループ長、Jan Thomsen准教授によると、レーザ光は安定化されているが、わずかに変動し、それが「ノイズ」となる。「そのノイズのために同時に複数の波長が生ずる。われわれはミラーを介して光を共振器に送る。共振器は2枚のミラーを結合しており、一部の波を通して、残りが消える。これは1つの選別機構であり、これによってレーザ光の波長がより高精度になる。全てが適切にならなければならないが、ミラーはわずかに変動する、これはミラー内の原子が振動し、安定性に制限を加え、これをなくすことができないからである」。研究グループは、「発想を転換し、全てをひっくり返そう」と考えた。
 ミラーをさらに安定化する代わりに、研究グループはその振動を完全に無視することにした。レーザ光と共振器の2枚のミラーの間に「何か」を入れる。この「何か」がフィルタとして働く。
 そのフィルタは、2枚のミラー間に超低温ストロンチウム原子を持つ真空チャンバでできている。ストロンチウムは非常に「要求が厳しい」原子であり、光と反応するには極めて特殊な波長を必要とする。こうして光は2枚のミラー間で前後に振動するが、たとえ2枚のミラーが室温によりわずかに振動しても、それは光にとってどうでもいいことになる。と言うのは波長を選別するのは主に低温原子だからである。
 「この方法はシンプルだが、効果的であり、結果的にレーザビームが遙かに高精度かつ安定になり、ノイズは100倍少なくなっている。こうして、われわれは量子周波数フィルタを用いて超高精度レーザビームを実現する技術を開発した」とJan Thomsen氏は説明している。同氏によると、この技術を使って原子時計を現状よりも遙かに高精度することができる。また、これまでよりも遙かに簡素な方法である。