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宇宙ベース大型望遠鏡に薄膜ミラーを考案

May, 9, 2023, Washington--ドイツの研究チームは、宇宙導入望遠鏡にこれまで使用されていた主鏡よりも遙かに薄い大型、高品質ミラーを製造、成形する新しい方法を開発した。結果としてのミラーは、打ち上げ機内に巻いて収めることができるほど柔軟である。

マックスプランク宇宙物理学研究所(Max Planck Institute for Extraterrestrial Physics)のSebastian Rabienは、「宇宙望遠鏡の打ち上げ、導入は、複雑でコストのかかる手順である。この新しいアプローチは、一般的なミラー製造および研磨手順とは大違いであり、望遠鏡ミラーの重量とパッケージング問題解決に役立つ。したがって、感度が向上した大型望遠鏡を軌道に乗せることが可能になる」と説明している。

Applied Optics掲載の論文でRabienは、30㎝径までのパラボラメンブレインミラーのプロトタイプ製造成功を報告している。これらのミラーは、宇宙望遠鏡で必要とされるサイズまで拡大可能であり、化学気相蒸着法を使って、真空チャンバー内で回転する液体にメンブレインミラーを成長させた。同氏は、ミラーを開いた後に起こりうる欠陥を熱を使って適応的に補正する方法も開発した。

「この研究は、方法の実行可能性を実証したに過ぎないが、もっと大きく、安価な、詰め込み可能ミラーシステムの土台となる。直径15~20mの軽量ミラーの作製が現実になるので、現在導入されている、あるいは計画されているミラーよりも桁違いに高感度な宇宙ベース望遠鏡が可能になる」と同氏は、コメントしている。

旧いプロセスを新しい方法で適用
その新しい方法は、COVID-19中に開発された。Rabienによると、新しいコンセプトを考え、試行する余分な時間があったからである。「長い一連のテストで、そのプロセスで有用性を発見するために多くの液体を研究し、均質なポリマ成長がどのように行われ、そのプロセスの最適化のためにどのように機能するかを研究した」と同氏は説明している。

化学気相法では、先駆材料が蒸発し、熱的に単量体分子に分離される。その分子が真空チャンバーで表面に堆積し、結合してポリマを形成する。このプロセスは、一般に耐水エレクトロニクスを造るプロセスなどで、コーティングに適用されるが、これが、望遠鏡で使用するために必要な光学品質のパラボラ膜ミラー作製に使用されるのは初めてである。

望遠鏡ミラーに必要な精密な形状を作るためにチームは、真空チャンバー内部に少量の液体を満たした回転コンテナを追加した。液体は、完全なパラボラ形状を形成し、その上にポリマを成長させることができ、ミラーの基盤が形成される。ポリマが十分に厚いと、反射金属層は、蒸発により最上位に適用され、液体は、洗い流される。

Rabienによると、「局所重力軸に一致する回転液体は、パラボラ表面形状を自然に形成することが、以前から知られている。この基本的物理現象を利用して、ポリマをこの完全な光学面に成長させた。これにより、アルミニウムなどの反射面でコーティングすると望遠鏡の主鏡として使えるパラボラ薄膜が形成される」。

他のグループが、類似の目的のために薄い膜を作製したが、これらのミラーは、一般に、高品質光学モールドを使って成形される。形を作るために液体を使うことは、遙かに安価であり、大きなサイズにより簡単に拡張できる。

折り畳みミラーの再成形
この技術を使って作製された薄くて軽量なミラーは、宇宙への飛行中、簡単に折りたためる、あるい巻くことができる。しかし、パッケージを開いた後に完全なパラボラ形状に戻すのはほぼ不可能に近い。膜ミラーを再成形するために研究チームは、光による局所的温度変化を使い適応型形状制御を可能にするサーマル方法を開発した。これにより薄い膜を所望の光学形状にすることができる。

研究チームは、真空蒸着チャンバーで30-㎝径のメンブレインミラーを作製することで、そのアプローチをテストした。多くの試行錯誤の後に、チームは、望遠鏡に適した表面形状の高品質ミラーを作製することができた。チームは、その熱放射適応成形法がよく機能することも示した。これは、ラジエータアレイとデジタル光プロジェクタからの照射で実証された。

その新しいメンブレインベースミラーは、適応型オプティクスシステムにも使える。適応型オプティクスは、入射光の歪を補正するためにデフォーマブルミラーを使うことで、光学系のパフォーマンスを改善することができる。新しいメンブレインミラーの表面は、デフォーマブル(変形可能)であるので、これらのミラーは、静電アクチュエータを使って成形し、デフォーマブルミラーを作ることができる。これらは、従来法で作るよりも安価である。

次に、研究チームは、もっと高度な適応制御を適用する予定である。最終面が、いかによく成形され、最初の歪がどの程度許容できるかを調べるためである。さらに、チームは、メートルサイズの堆積チャンバーを作る計画である。表面構造とパッケージング、大型主鏡の展開プロセスを研究するためである。