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Science/Research 詳細

3次元量子ドット構造の形成実現によるLED発光を世界で初めて観察

September, 11, 2014, Sendai--国内3大学の共同研究グループは、バイオテンプレート技術と融合して世界で初めて高均一・高密度・無欠陥の6層積層した3次元GaAs/AlGaAs量子ドットを作製することに成功した。さらにこの量子ドットを用いて発光ダイオード(LED)を作製し、電流注入によるLEDからの発光を世界で初めて実現した。
 研究グループは、東北大学 原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)および流体科学研究所(IFS)の寒川誠二教授、肥後昭男助教グループ、北海道大学 大学院情報科学研究科の村山明宏教授、東京大学 大学院工学系研究科の中野義昭教授らの研究グループで構成されている。
 ガリウム砒素などの化合物半導体はシリコンに比べて光の発光効率や吸光効率が極めて高く、特に化合物半導体の量子ドットレーザは、ナノスケールの構造から生じる量子効果によって、より単色化され高強度な光を低消費電力で温度の影響少なく発光できることが期待され、その実用化が精力的に検討されている。しかし、従来の加工法では、微細化に限界があるばかりではなく、脆弱な化合物半導体では激しく欠陥が生成されるため、発光効率が大きく劣化する。また、損傷を回避するために開発された量子ドット作製法では、サイズや密度、位置などの制御が難しく、高効率な発光の実現や発光波長の制御が不可能。
 研究グループは、鉄などの金属微粒子を内包したたんぱく質が、特殊な処理をした表面に自発的に規則正しく配列した構造を作る性質を用いて、金属微粒子を化合物基板の上に高密度(面密度:1×1011-2)に等間隔(20nm)間隔)で配置した。その後、たんぱく質だけを除去して金属微粒子を加工マスクとして中性粒子ビームによる無損傷エッチングを行うことにより、ナノメートルオーダの欠陥のないGaAs/AlGaAsが6層に積層した柱状の構造(ピラー構造)が20nm間隔で高密度(6×1011-3)に配列した構造を世界で初めて形成した。
 この研究により作製された高均一・高密度・無欠陥の積層GaAs/AlGaAsピラー構造は、量子ドットLEDおよびレーザにおける量子ドット構造として極めて有望。従来に比べて10倍以上の発光強度が期待され、究極のグリーンテクノロジーといわれる量子ドットLEDやレーザの実現に向けて大きく前進したといえる。
 共同研究グループは、次世代の高効率量子ドットLEDあるいはレーザの実用化に道を拓く技術としてバイオテンプレートと中性粒子ビームエッチングを組み合わせることで、世界で初めてGaAs/AlGaAsの6層積層構造の超低損傷・超高アスペクトエッチングを実現することに成功した。さらに、LED構造を実際に作製して電流注入で発光することを世界で初めて実証した。
 この研究では、バイオテンプレート極限加工法により化合物半導体(GaAs)の無損傷エッチングを実現することで、室温にて量子効果を示す厚さ数nm、直径10nm程度のナノピラー構造を、無欠陥、均一、高密度(1011-2以上)、等間隔(20nm)で2次元配置できることを初めて示した。有機金属気相成長装置(MOVPE)を用いて、GaAs/AlGaAsウェハをバイオテンプレートと中性粒子ビームの組み合わせで極限加工することで、GaAsのナノディスクが積層した高さ100nm程度のピラーを欠陥なく作製することに成功した。さらに、MOVPE装置を使ってAlGaAsバリア層を再成長させ保護膜を形成(パッシベーション)することで高品質界面の実現に成功し、世界で類をみないトップダウンエッチングで作製した量子ナノディスク構造を内部に持つLED構造の作製に成功した。このLED構造に、電流を注入することでLED発光させることに成功し、非常に強い発光特性を実現できることも確認した。
 設計した量子ナノディスク構造の発光波長に対応する760nmから明瞭な発光が確認できた。この量子ナノピラー構造アレイでは、従来困難であった均一なサイズのナノ構造を数十nm間隔で均一かつ高密度に材料を問わず形成できることから、あらゆる波長帯域を実現できる高効率な量子ドットLEDおよびレーザを実用化できる構造として極めて有望であるといえる。
 中性粒子ビームによる加工・表面改質・材料堆積技術は、現在の半導体業界が直面している革新的ナノデバイスの開発を妨げるプロセス損傷を解決する全く新しいプロセス技術であると考えられる。また、この技術を用いた装置はプラズマプロセスとして実績がありもっとも安定した装置において用いられているプラズマ源をそのまま用い、中性化のためのグラファイトグリットを付加するだけで実現できることから、今後、数十nm以下のナノデバイスにおける革新的なプロセスとして実用化されていくことも大いに期待される。中性粒子ビーム技術は既に均一大面積プロセスを実現できるプラズマ源を基盤に装置が実現できるため、極めて実用的であり、今後、最先端ナノデバイス製造プロセスにおいて中性粒子ビーム加工技術のみならず、中性粒子ビームを用いた表面改質・修飾技術の研究開発を進めて実用的なデバイス開発を大いに推進していく予定。
 研究グループは、今後の展開について、「今回、6層積層した量子ドット構造の作製に成功し、実際のLED構造での発光を確認することに成功したことで、実用化に向けて大きく前進した。既に、大手装置メーカーと装置化への検討も進んでおり、近い将来の実用化に向けてさらに研究を進めていく」と説明している。

(研究成果は、IEEE 24th International Secmiconductor Laser Conferenceで発表)。