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Science/Research 詳細

青色光励起により強い赤色発光を示す新規シリケート系酸化物蛍光体の開発

September, 11, 2014, Sendai--東北大学・多元物質科学研究所の垣花眞人教授の研究グループは、青色光励起により強い赤色発光を示すシリケート系酸化物蛍光体を開発した。
 この研究では、これまで緑色蛍光体として知られてきた Eu2+賦活カルシウムシリケートに対して、「結晶サイト工学」の概念に基づいて Eu2+置換サイトを制御することで、酸化物としては初めてとなる実用的な青色光励起・赤色蛍光体を実現した。この蛍光体は、照明およびバックライト用高演色白色 LED 素子への応用が期待される。

赤色発光酸化物蛍光体の特徴
 垣花グループは、青色光励起により深赤色(650nm)で発光するシリケート系酸化物蛍光体 Ca1.2Eu0.8SiO4を開発した。この蛍光体の母体となる物質は、アルカリ土類金属-シリコン複合酸化物であり、古くからセメント材料の主成分として使用されてきた。この物質に発光イオンである 2価のユーロピウム(Eu2+)を高濃度賦活した場合、青色光励起において波長 650nm を中心とする深赤色発光を示し、その発光強度は市販の YAG:Ce3+とほぼ同等。また、Ca1.2Eu0.8SiO4蛍光体は、波長 350~500nm の範囲に強い励起バンドを有しており、市販の紫外および青色LEDによって効率よく励起することができるため、白色LED用に適した赤色蛍光体であるといえる。さらに、Ca1.2Eu0.8SiO4は、現在市販されている窒化物系赤色蛍光体の製造において不可欠とされる高圧焼成炉のような特殊な設備を必要とせずに合成できるというメリットを有している。今後、照明用光源を中心に高演色が求められる白色 LED 素子への利用が期待される。

研究の内容
 Eu2+を少量賦活した Ca2SiO4 が、紫外線励起により強い緑色発光を示すことは、古くから知られてきた。低濃度の Eu2+を賦活した Ca2SiO4蛍光体(Ca1.9Eu0.1SiO4)は、励起波長365nmにおいて、520nm付近を最大強度とするブロードな緑色発光を示す。これに対して、今回、垣花グループが発見した高濃度の Eu2+を賦活した Ca1.2Eu0.8SiO4は、波長 365nm で励起した場合でも、最大発光波長を 650nm とする強い赤色発光を示す。この Ca1.2Eu0.8SiO4赤色蛍光体開発には、「結晶サイト工学」の概念を利用した Eu2+の置換サイト制御が重要な鍵となっている。Eu2+は、Ca2SiO4の Ca サイトに置換することができる。ここでCa2SiO4は、大きく分けて2種類の Ca サイト[Ca(1n)および Ca(2n): n=1–3]を有している。Ca(1n)サイトの平均 Ca–O 距離は、Ca(2n)サイトのそれに比べて長くなっている。結合距離が短くなると結晶場が強くなるため、Eu2+からの発光が長波長化することが一般的に知られている。このことから、Eu2+賦活 Ca2SiO4 では、Eu2+を Ca(2n)サイトに置換することで長波長の発光が得られると期待される。しかし、Eu2+イオンは Ca2+イオンに比べて大きいために、空間的により広いサイトである Ca(1n)サイトに選択的に置換される。ここで、Eu2+賦活量を多くすると、Eu2+の一部は、Ca(2n)サイトにも置換されると発想した。実際に、Eu2+の賦活量を大きく変化させると発光スペクトルが顕著に変化し、Eu2+賦活量が 20mol%(Ca1.6Eu0.4SiO4)以上になると、長波長発光が発現することがわかった。続いて、リートベルト解析により、Ca(1n)および Ca(2n)サイトにおける Eu2+占有率について調べると、緑色発光を示す低濃度賦3活試料(Ca1.9Eu0.1SiO4)では、大半の Eu2+は Ca(1n)サイトに置換され、Ca(2n)サイトへの置換は0.2%程度にとどまっているが、長波長発光を示す高濃度賦活試料(Ca1.4Eu0.6SiO4 およびCa1.2Eu0.8SiO4)では、Eu2+は Ca(1n)サイトだけでなく、Ca(2n)サイトにも 2.5~3.5mol%も置換されることが明らかになった。このように、これまで緑色蛍光体として知られていた Eu2+賦活Ca2SiO4 蛍光体に対して、「結晶サイト工学」の概念に基づいて Eu2+の置換サイトを制御することで、高強度な赤色発光を得ることに成功した。
 今回開発した赤色発光酸化物蛍光体 Ca1.2Eu0.8SiO4では、Eu2+の Ca(2n)サイト置換を実現するためにレアメタルである Eu を高濃度に使用している。今後、「結晶サイト工学」を駆使した材料設計を行うことで、Eu 使用量の低減を実現させることが求められている。
詳細は、Angewandte Chemie International Edition 誌(John Wiley & Sons, Inc.)に2014 年 7 月 21 日付けで公表されている。