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グラフェン光源チップによる赤外分析の新技術を開発

April, 20, 2022, 東京--慶應義塾大学理工学部物理情報工学科の牧英之教授と中川鉄馬訪問研究員、同大学院修士課程の志村惟らの研究グループは、多層グラフェン光源チップによる新しい原理の赤外分析技術を開発した。
 新技術は、多層グラフェン光源チップを用いたことで安価かつ小型な赤外分析を可能とするだけでなく、従来のフーリエ変換赤外線分光装置(FT-IR)の空間分解能や理論限界の「回折限界」を超える、極めて高い空間分解能の赤外イメージングを実現した。

分析技術は、基礎研究や工業分野をはじめ、近年は疾病や病原体の診断や環境分析といった身近な技術としても重要となっている。その中でも、FT-IRなどの赤外光を用いた分析技術は、もっとも有名な分析手法の一つであり、物質構造の情報がダイレクトに得られることから、色素などのマーカーを必要としない分析として、化学・材料・環境・バイオなどの様々な分野で幅広く利用されている。しかし、現在のFT-IRでは、ハロゲンランプやセラミック光源といったミリメートルオーダーのマクロな赤外光源が用いられていることと、回折限界で知られる理論的な限界が存在することによって、空間分解能は10µm程度と低く、可視光のような分解能の高いイメージングや微小・微量分析が困難だった。

今回、最小で500nm角となる非常に微小な多層グラフェンを用いたチップ上の赤外光源を独自に開発するとともに、グラフェン光源チップに対して分析サンプルをダイレクトに近接させて、赤外分析を行った。その結果、従来のFT-IR用光源と比べて発光面積が100万分の1という極めて微小な光源であるにも関わらず、市販のFT-IRと同様の赤外分析が可能であるとともに、光源自体に生じる近接場を用いる新たな原理によって、回折限界を超える極めて高い空間分解能(1µm)を実証した。この技術を用いることにより、レーザなどの大型で高価な赤外光源を用いることなく、可視光並みのイメージングや微量分析が赤外領域で可能となることから、医療・バイオ・新物質開発・環境分析などの様々な分野での全く新しい赤外分析技術の創出が期待できる。

研究成果は、2022年4月18日(現地時間)に米国化学会(ACS)のNano Letters誌オンライン版で公開された。
(詳細は、https://www.keio.ac.jp/)