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大阪大学、新型量子ドットを開発

April, 14, 2022, 大阪--大阪大学産業科学研究所の中川智裕(研究当時、理学研究科博士後期課程)、藤田高史助教、大岩顕教授(兼 量子情報・量子生命研究センター)と、カナダ国立研究機構 David Guy Austing博士、Louis Gaudreau博士の研究グループは、(110)面上のGaAs量子井戸構造を使い、従来よりも光子量子状態から電子スピン量子状態への変換を効率的に行うことができる量子ドットを新たに開発し、そのスピンの特性を明らかにした。

半導体量子ドット中の電子スピンは量子コンピュータの量子ビットであり、一方、光子は量子通信の量子ビット。この量子間で量子情報を変換できると量子中継が可能となり、絶対に安全な通信や量子インターネットなど将来の量子情報のインフラとして量子ネットワークの構築に貢献する。その課題の一つが光ファイバ網による量子情報の伝送距離の長距離化。これには量子テレポーテーションにより情報を伝送する量子中継器が必要。単一光子の偏光にのせた量子情報を半導体量子ドット中の単一電子スピンへ変換する機能は、この量子中継器へ応用が期待されるが、1万から10万回光子を照射しても1回程度しか量子ドット中の単一電子スピンへ変換されないという低い変換効率が大きな問題だった。これは将来量子中継における通信速度を律速し、実用化へ向けての大きな課題の一つ。

今回、大岩教授とカナダ国立研究機構(NRC)のAusting博士の研究グループは、従来の(001)面上のGaAs量子ドットではなく、対称性の低い(110)面上のGaAs量子ドットを世界で初めて開発し、電子スピン状態を決定するg因子を測定した。従来広く用いられている(001)面上のGaAs量子ドットでは、軽い正孔状態を励起することでのみ光子から電子スピンへの量子状態変換が可能だった。しかし、(110)面上のGaAs量子ドットでは、重い正孔からも量子状態変換が可能になるため、理論的には変換効率が3倍高くなることが期待される。変換効率の増大はわずかであるが、量子暗号通信や量子インターネットの構築を可能にする量子中継器の量子インターフェースプラットフォームとして開発が世界的に拡がることが期待される。

研究成果は、米国科学誌「Journal of Applied Physics」に、2022年4月6日に公開された。
(詳細は、https://resou.osaka-u.ac.jp)