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強制的な突然変異がHIVの運命を決める

August, 6, 2014, Cambridge--15年前、MIT教授、John Essigmann氏とワシントン大学から来た研究者がHIV薬の新しいアイデアを思いついた。もしウイルスが抑えきれずに突然変異するように誘導できると、ウイルスを弱め、最終的に死滅させることができる。これはヒトの免疫システムが多くのウイルスに対して用いる戦略である。
 研究者たちはそのような薬を開発した。薬は、期待通りにHIVに素早い突然変異を起こさせたが、小規模の臨床トライアルでは患者からウイルスを除去することはできなかった、と2011年に報告された。
 新しい研究では、Essigmann氏のチームは、薬の作用の背後にあるメカニズムを見つけ出した。これは、一段と速くウイルスを破壊する新バージョン開発に役立つ、と研究チームは説明している。
 研究チームは、Koronis Pharmaceuticals社を設立し、5-ヒドロキシシトシンよりも突然変異性が100倍以上強い化合物KP1212を開発した。32患者を対象とした4ヶ月の臨床試験では、患者のウイルスに関係したDNAに突然変異体が堆積したが、集団的消滅を引き起こすには足りなかった。薬は、安全であることが確認された。薬は患者自身のDNAを突然変異させることはなかったが、一つには、薬がヒトのDNAポリメラーゼが受け付けないように設計されていたからである。
 発表された論文によると、研究チームは最先端の分光技術を使ってKP1212の互変異性促進能力を分析した。また、窒素の中の陽子と核酸塩基の酸素原子の移動に関わる化学的現象の分析も行った。これにより、研究チームは、KP1212が一度ゲノムに入り込むと、5つの異なる形状、互変異性体に変わることを確認した。
 「5つの分子は、ナノ秒の時間スケールで形状を変えて行き、各々の形状は異なる塩基対合特性を持っている。したがって、KP1212が対になっている塩基の観点からは混乱する」とポスドク生Vipender Singh氏は言う。
 この形状変化を見るために、研究チームはNMRとTokmakofが開発した2D赤外分光計を使用し、この技術により、核酸塩基の原子組成と構造を見つけ出すことができた。
 Essigmann氏のラボで開発された遺伝的手段を使うことで、研究チームはKP1212がHIVゲノムにおいて正確に10%の突然変異率を引き起こすと判断した。この発見に基づいてEssigmann氏は、KP1212がHIVの突然変異率を2倍すれば、1~2年で患者のウイルスを一掃できると見積もっている。
 Koronisは、KP1212のもっと長い試験を行いたいと考えており、また、より高速の薬を開発することにも関心を示している。これは分子の化学的特性の一部を変え、突然変異をスピードアップできるかどうかを試験することで実現する。
 論文では、薬のパフォーマンスを改善するために研究者が操作できる他の要素が指摘されている。
 「われわれは、新しい分子の設計の仕方について多くの洞察を与えてくれる新たな戦略を立てている。それは将来の薬を開発するための新しいツールセットである。それらの薬は、HIVに限られるわけではない」。
 MITの研究チームは、同様の化合物で腫瘍細胞に突然変異を起こさせて死滅させる可能性についてもテストする計画をもっている。
(詳細は、www.mit.edu)