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コロンビア大学、可視光変調器を開発

December, 10, 2021, New York--可視スペクトル、コンパクト、パワー効率がよく、低損失位相変調器は、集積フォトニクスにおけるブレイクスルーである。そのデバイスは、リモートセンシング、AR/VRゴーグル、量子情報処理チップ、移植可能光遺伝学プローブなどのためのLiDARを改善する。
 
過去数10年、研究者は、電流の利用から近赤外域の光波の操作に移行してきた。高速5Gネットワークなどの通信アプリケーション、オンチップバイオセンサ、ドライバーレス自動車などである。この研究領域は、集積フォトニクスとして知られており、進化が急速であり、研究者は今では、広範な新しいアプリケーション開発のために、もっと短い、可視光波長域を研究している。これらに含まれるのは、チップスケールLiDAR、AR/VR/MRゴーグル、ホログラフィックディスプレイ、量子情報処理チップ、脳に移植可能光遺伝学プローブ。

可視域でこれら全てのアプリケーションにとって欠かせないデバイスは光位相変調器である。これは、光波の位相を制御するもので、ワイヤレスコンピュータネットワークで電波の位相を変調する仕方と類似している。位相変調器により、研究者は、光を様々な導波路ポートに流すオンチップ光スイッチを構築できる。これら光スイッチの大規模ネットワークで、研究者は微小なチップを伝搬する光、あるいはチップからの光放出を制御できる高度な集積光システムを実現できる。

しかし可視光域の位相変調器作製は非常に難しい。可視光スペクトルで十分に透明な材料がない、また熱光学効果、電気光学効果のいずれでも大きな可変性(チューナビリティ)をもたらす材料がない。現在、2つの最も適した材料は、SiNとリチウムナイオベート(LN)である。両方とも可視域で非常に透明であるが、いずれも大きなチューナビリティはない。これらの材料をベースにした可視スペクトル位相変調器は、したがって、大きくなるだけでなく、エネルギー消費も大きい。個別導波路ベースの変調器の長さが数100µmから数㎜になり、一つの変調器が位相チューニングで数10mWを消費する。大規模集積、一つのマイクロチップに数千のデバイスを埋め込もうとしている研究者は、これまでのところ、こうした大きく、エネルギー消費が大きなデバイスで窮地に立たされている。

今回、コロンビア大学工学部の研究者は、この問題に対するソリューションを見つけたと発表した。研究チームは、可視スペクトル位相変調器のサイズと消費電力の両方を飛躍的に低減するマイクロリング共振器ベースの方法を開発した。サイズは、1㎜から10µmへ、π位相チューニングは数10mWから1mW以下になる、とNature Photonicsに発表されている。

「一般に、ものが大きくなればなるほど、ますまよくなる。しかし、集積デバイスは、全くの例外である。光を一点に閉込め、そのパワーの多くを失うことなくそれを動作させることは実に難しい。われわれがブレイクスルーを達成した今回の研究では、大規模の可視スペクトル集積フォトニクスの地平を大きく広げた」とチームの主席研究者、応用物理学准教授、Nanfang Yuは、コメントしている。

可視波長で動作する従来の光位相変調器は、導波路における光伝搬に基づいていた。Yuは、SiNベース集積フォトニクスの専門家Michal Lipsonと協働し、全く異なるアプローチを開発した。

「われわれのソリューションは、光共振器を使い、それを‘強力な過結合’域で動作させることである」と応用物理学教授、電気工学Eugene Higgins教授、Lipsonは説明している。

光変調器は、高度な対称性を備えた構造である。光ビームを何回も周回させ、わずかな屈折率変化を大きな位相変調に変えるリングのようなのである。

完全な2π位相チューニングと最小振幅変動を達成するために、Yu-Lipsonチームは、「強力な過結合」域でマイクロリングを動作させることを選択した。マイクロリングと光をリングに供給する「バス」導波路の結合力は、マイクロリングの損失よりも少なくとも10倍強い。Lipsonによると、マイクロリングの損失は、主にデバイスサイドウォールのナノスケール粗さでの光散乱に起因する。「完全に滑らかな表面を備えたフォトニックデバイスは製造できない」。

チームは、デバイスを強力な過結合域にするためにいくつかの戦略を開発した。最も重要なものは、断熱マイクロリング形状の発明。そこではリングは、狭いネックとリングの反対側の端にある広いベリー(胴)の間を滑らかに移行する。リングのネックは、バス導波路とマイクロリング間の光の交換を容易にする、したがって結合力が強化される。リングの広いベリーは、光損失を低減する。誘導光が、断熱リングの幅広い部分の内部サイドウオールではなく、外部サイドウォールのみと相互作用するからである。これによりサイドウォール粗さでの光散乱が低減される。

断熱マイクロリングと従来のマイクロリングを均一幅で並べて同一チップに作製して比較して、研究チームは、従来のマイクロリング(光損失が悪い)で過結合条件を満足させるものは存在しないことを確認した。一方、断熱マイクロリングの63%は、強力な過結合域で動作を維持した。

「可視スペクトルの最も難しい箇所であるブルーおよびグリーンカラーで動作するわれわれのベストの位相変調器は、半径がわずか5µm、π位相チューニングでは0.8mWを消費する。振幅変動は10%以下。そのようにコンパクト、パワー効率がよく、低損失位可視波長相変調器はこれまでに存在しなかった」(Heqing Huang)。

可視スペクトル位相変調器(半径10µmの中央にあるリング)は、蝶の翅よりも小さい。

デバイスは、Yuの研究室で設計、Columbia Nano Initiativeクリーンルームで作製された。デバイスの特性評価は、LipsonとYuの研究室で実施。

両研究室は現在、断熱マイクロリングベースの大きな2Dアレイ位相シフタで構成された可視スペクトルLiDARの実証で協働している。その可視スペクトル熱光学デバイスに用いられた設計戦略を電気光学変調器に適用し、そのフットプリントと駆動電圧を下げることができる。また、他のスペクトル範囲(UV、テレコム、Mid-IR、THz)やマイクロリング以外のその他の設計にも採用可能である。

(詳細は、https://www.engineering.columbia.edu)