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フェムト秒レーザで脳内物質投与

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June, 30, 2014, Okinawa--物理学と神経生物学の英知を組み合わせることでパーキンソン病に取り組むことについて、沖縄科学技術大学大学院(OIST)のKeshav Dani准教授は「OIST以外ではとてもできない研究です」と、語っている。
 沖縄科学技術大学大学院のフェムト秒分光法ユニットと神経生物学研究ユニットでは、ニュージーランドのオタゴ大学の研究者らと共に、レーザ、ナノテクノロジー、神経科学の知見を駆使し、用途の幅広い新しい薬物輸送(ドラッグデリバリー)システムを開発している。パーキンソン病においてうまく放出されない神経伝達物質を、レーザにより自在に繰り返し放出する研究について、オープンアクセスの電子ジャーナルScientific Reportsで発表した。
 多くの病気の治療が期待される新しい研究分野が、標的型ドラッグデリバリー。現在の医薬品投与法では、薬が全身に運ばれるため、薬を必要としない組織や臓器にまで影響が及び、厄介な副作用が生じてしまいる。その顕著な例はがん化学療法で、標的となるがん細胞だけでなく、健康な組織にも毒性を示す。近年大きく進歩したナノテクノロジーと生物学により、標的型ドラッグデリバリーの可能性が拓け、研究者らは、医薬品や化合物を、狙った組織または細胞にのみ届ける技術の実現を目指している。論文でOIST研究者たちは、リポソームと呼ばれる脂質もしくは脂肪の殻の中に薬を閉じ込め、レーザのパルスを用いて薬の放出をコントロールする方法を示した。
 この研究成果は、神経生物学研究ユニットの研究者らがフェムト秒分光法ユニットのメンバーに、レーザ技術をパーキンソン病の治療に利用することが出来ないかと話を持ちかけたことがきっかけで生まれた。パーキンソン病では、神経伝達物質ドーパミンが適切に機能しない。研究者らは、フェムト秒レーザの持つ極めて精密なタイミングと強度を用いてドーパミンの放出をコントロールすれば、正常な脳でドーパミンが分泌されるパターンを模倣し、再現できるのではないかと考えた。
 まずリポソームのカプセルにドーパミンを閉じ込め、金ナノ粒子を繋ぎ止めた。フェムト秒レーザはエネルギー源として用いられ、このエネルギーがまず金ナノ粒子に吸収された後、リポソームに伝達されると、リポソームのカプセルが開いて中のドーパミンが放出されるという仕組み。リポソームが開いている時間の長さ、つまりドーパミンの放出量は、レーザの強度と照射時間を調節することにより、緻密にコントロールできる。この方法では、過去に報告された研究事例とは異なり、レーザが当たってもリポソームは破壊されない。そのため、ドーパミンやその他リポソームに内包した化合物を繰り返し放出するよう制御できる。OIST神経生物学ユニットの中野高志研究員は、「この技術では、実際に脳内で神経伝達物質が放出される時のように1秒以下の精度で、幅広い種類の薬物を投与することができるので、神経科学研究の新しいツールになると期待している」と語っている。
 今後の展望は、このレーザ活性化リポソームを生体組織に用い、いずれは動物生体内において実証していくこと。およそどのような薬や化合物、天然由来化合物でも、必要な量を、必要な場所に、必要なタイミングで、狙い通りに放出する技術は、医療分野の新たな可能性を広げると考えられる。Dani准教授は、「大学院時代に学んだ物理学の手法を神経科学分野に応用できることにわくわくしている」と期待を込めて話している。中野研究員は「今回の研究は、物理、化学、神経科学という異なる3分野の研究チームが協力したことで初めて生み出せた成果で、これはひとえにOISTでは日頃から学際的な研究が行われているからこそ、研究者間の理解が早く、共同研究がスムーズに進んだと言える」とコメントしている。
 新技術と医療の未来は、物理学と神経科学といった異分野の融合領域から生まれる可能性がある。OISTの研究者たちは、パーキンソン病のような今日の科学と医療の難題を、学術的分野をまたぐ未来の技術を開発することにより、解決しようとしている。
(By: Kathleen Estes/詳細は、www.oist.jp)