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量子ドットの輝度向上を阻むプロセスを解明

May, 25, 2021, Menlo Park--量子ドットとして知られる半導体ナノ結晶によりQLED TVスクリーンは鮮やかな色になる。しかし、その光の強度を高めようとすると、代わりに熱が発生し、ドットの光生成効率が低下する。

新しい研究は理由を説明しており、その結果は、将来の量子およびフォトニクス技術開発に広範な影響をおよぼす。例えば、コンピュータや冷蔵庫の流体で光が電子を置き換える場合である。

QLED TVスクリーンでは、ドットは青色光を吸収し、それをグリーンまたは赤に変える。TVスクリーンが低エネルギーで動作すると、一つの色から別の色へのこの光変換は、実質的に100%の効率である。しかし、高輝度スクリーンや他の技術のために必要な高い励起エネルギーでは、その効率は急落する。研究チームは、これが起こる理由について理論を持っていたが、今日までそれを原子スケールで観察したものはいなかった。

エネルギー省(DOE)のSLAC国立加速研究所の研究者は、高速「電子カメラ」を使って、ドットが入力高エネルギーレーザ光を独自の輝く発光に変換する様子を観察した。

実験で明らかになったことは、入力高エネルギーレーザ光が、ドットの原子から電子を放出し、それに対応するホールがドット表面にトラップされ、不要な廃熱が生ずることだった。

その上、電子とホールは再結合し、さらなる熱エネルギーを放出する。これが、ドットの原子の振動を増やし、そのその結晶構造を歪め、ドットの輝度を高めるはずだった多くのエネルギーを無駄にする。

「これは、光を発せずにエネルギーが系から吸い出されるカギとなる方途を意味する」とスタンフォード大学、准教授、SLAC材料とエネルギー科学スタンフォード研究所研究者、Aaron Lidenberyは説明している。同氏は、ポスドク研究者、Burak Guzelturkとともに、この研究のリーダー。

「このプロセスの基礎に何があるかを考えようとするのが数十年の研究の主題であった。われわれは初めて、励起状態のエネルギーが熱として失われている間に、原子が実際に何をしているかを見ることができた」(Lidenbery)。

研究成果は、Nature Communicationsに発表された。

ピュアで輝く発光
DNAの4ストランドと同じ程度の径を持つ微小サイズにもかかわらず、量子ドットナノ結晶は、驚くほど複雑で、高度に改変されている。それらは極めてピュアな光を発する。その色は、サイズ、形状、成分、表面化学を調整することでチューニング可能である。この研究で使用される量子ドットは、20年以上前に発見されたものであり、今日、それらは高輝度、高効率ディスプレイに、また生物学や医学ではイメージングツールに広く利用されている。

SLACで実験を行った、ポスドク研究者、Guzelturkによると、ドットを一段と高エネルギーでより効率的にする際に邪魔をしている問題を理解し、解決することは、現在、非常にホットな研究領域である。

以前の研究は、量子ドットの電子の挙動の仕方に焦点を当てていた。しかし、この研究ではチームは、MeV-UEDとして知られる電子カメラで、全ての原子の動きも見ることができる。それは、数100万電子ボルト(MeV)の非常に高エネルギーの短パルス電子でサンプルを撃つ。超高速電子回折(UED)と言われるプロセスで、電子がサンプルから散乱し、ディテクタに入る。すると電子と原子がどうしているかを明らかにするパタンが作られる。

SLAC/スタンフォードチームは、レーザ光の様々な波長や強度がぶつかる量子ドットの挙動を計測した。理論的視点から電子の動きと原子の動きの結果としての相互作用を計算し、理解することに取り組んだ。

光ベース技術の未来
研究は、DOEエネルギーフロンティア研究センタ、熱力学極限でのフォトニクス、スタンフォード材料科学、工学准教授、Jennifer Dionneをリーダーとする研究グループが実行した。研究グループは、ナノクリスタルプロービングのための実験技術開発を支援するためにLindenbergのグループと協働した。

センターの究極目標は、Dionneによると、熱力学の範囲内で、光吸収と放出プロセスの実証である。これから、冷蔵庫、ヒーティング、冷却、エネルギー蓄積などの技術が出てくる。同様に量子コンピュータ、宇宙探査のための新しいエンジン、動力は完全に光である。

「フォトニック熱力学サイクルを作るためには、光、熱、原子と電子が材料でどのように相互作用するかを精密制御する必要がある。この研究は素晴らしい。光放出効率を制約する電子的、熱的プロセスに前例のないレンズを提供するからである。すでに研究した粒子は記録的な量子収量をもつが、今ではほぼ完璧な光学材料の設計に向けた道がある」とDionneは話している。そのような高い光放出効率は、多くの巨大な将来的アプリケーションを開く、全てが超高速電子でプローブされた微小ドットで駆動されるのである。
(詳細は、https://www6.slac.stanford.edu)