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不透明な物質でも透過する特別な光ビーム

April, 20, 2021, Wien--ウイーン工科大学(TU Wien)とユトレヒト大学(University of Utrecht)は、不透明な物質でも、そこに物質が存在しないかのように透過する特別な光波を生成する。
 砂糖が透明でないのはなぜか。砂糖の塊を透過する光が、非常に複雑な仕方で散乱され、変化し、回折されるからである。研究チームが示したように、これが当てはまらない特殊な光波が存在する。砂糖の塊のように、すべての特殊な無秩序媒体には、この媒体によってほとんど変化せず、弱くなるだけの特別仕立ての光ビームを構築することができる。その光ビームは、媒体を透過し、光パターンは反対側に届くが、その形状は、媒体がそこになかったかのように、同じ形状のままである。

「不変光モードの散乱」という考えは、的を絞った仕方で物体内部を調べるためにも利用できる。研究成果は、Nature Photonicsに発表された。

可能な波形は膨大
乱流水面の波は、無限に多くの異なる形状をもつ。同様に、光波も無限に多様な形状で生成可能である。「これらの光波の各々は、無秩序媒体に透過されると、非常に特殊な仕方で変化、回折される」とTU Wien理論物理学研究所、Stefan Rotter教授は言う。

同教授は、そのような光散乱効果を説明する数学的方法を開発している。そのように複雑な光場の生成と特徴付けの専門技術には、ユトレヒト大学のAllard Mosk教授が貢献した。「われわれは光拡散媒体として酸化亜鉛を用いた。完全にランダムに配列されたナノ粒子でできた、不透明な白色の粉末である」と実験研究グループ長、Allard Mosk教授は話している。

まず、この層は正確に特徴付けられねばならない。酸化亜鉛粉末は、非常に特殊な光信号でX線照射され、その背後のディテクタにどのように到達するかが計測される。これから、他の波がこの媒体によってどのように変化させられるかを推論できる。特に、どの波動パターンが、この酸化亜鉛層で、波の散乱がこの層に全く存在しないかのように変更されるかを正確に計算することができる。

「われわれが示したように、非常に特殊な種類の光波が存在する、いわゆる散乱不変光モードである。これには、ディテクタで、まさに同じ波動パターンを生成する光波が、空気だけを通ってきたか、複雑な酸化亜鉛層を通さなければならなかったかは、関係ない。実験で、その酸化亜鉛は、実際に、これらの光波の形状を変えないことが見られ、全体として、わずかに弱くなっただけである」とAllard Mosk教授は説明している。

光ディテクタのコンステレーション
 理論的に制限のない可能な光波の数を考慮しても、これらの散乱不変光モードは、極めて稀である。これら散乱不変光モードの違いを統合するなら、再び散乱不変波形が得られる。

「こうして、少なくとも一定の制限内で、どの画像を干渉なしで物体に通したいかを自由に選択できる。実験では、コンステレーションサンプル、北斗七星とした。実際、散乱不変波は決められる。光波が酸化亜鉛層で散乱されるかどうかは関係ない。ディテクタでは、光ビームは、両方の場合、ほぼ同じに見える」とJeroen Boschは説明している。

細胞を検証
 ほとんど妨げれることのなく物体を透過する光パターンを見つける方法は、イメージングプロセスにも利用できる。「病院では、X線を使って体内を見る。X線は波長が短く、したがって皮膚を透過する。しかし光波が物体を透過する方法は、波長だけでなく、波形にも依存する」とMatthias Kühmayer。同氏は、ウイーン工科大学で論文の一部として、波動現象のコンピュータシミュレーションに取り組んでいる。「あるポイントで物体内に集光したいなら、われわれの方法は全く新しい可能性を開く。われわれは、酸化亜鉛層内部の光分布が、狙ったように制御可能なことを示すことができた」と説明している。
(詳細は、https://www.tuwien.at)